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ロストアイ

ノベルバユーザー330919

怪しい勧誘には気をつけましょう@その2



「ふぅ~、はぁ~、んふぅ~んぐぇ!?」
「キモイんだよ! くたばれ変態!!」


 先程いた並木道を逸れると、隠れる様に、小さな噴水広場がある。

 私たちはそこへゾンビと連れ立って来ており、私は今、そのゾンビ、もとい、水である程度綺麗に汚れが流された、現変質者をゲシゲシと踏みつけている。


「あ、やめ、そこは、あ」


 目の下がピクピクと引き攣るのが自分でも分かる。

 コイツ…………めちゃくちゃキモイ。

 私はゆっくりと足を退けて、全力で変態から距離を取る。足が離れた時も変な声を出していた。――ドン引きである。


「先輩、いい加減離れて貰えます? この世から」


 私はこれでもかと、ゴミ虫を見下す目で告げた。

 しかしこの元ゾンビ、現変態、実は私達の寮の先輩である。塵となって消えてしまえばいいのに……。


「~っひどいなあ、あいちゃん。そんな目で見ないでくれよ。私は健全な交流を試みただけじゃないか」


 私の言動は完全にスルーだ。ぱんぱんと服の土埃を払い、変態が告げる。

 ……変態の論理なぞ聞くだけ無駄だ。


「先輩、勝手に名前呼びしないでもらえます? 図々しいですよ、穢れます」


 えーひどーいと言いながら、ケラケラと先輩が笑う。

 さっきまでゾンビだったこの人、穢れを浄化したので、あの場をさっさと立ち去ろうとした私たちに、助けてほしいと言い出したのだ。

 未知の生命体との会話が出来るという興味本位で話を聞くと、全身緑色になっていたのは、実験に失敗した副作用だったらしいと言われたのだ。そこでやっと、同じ生命体だと判明した。

 同じ人間に見えないため、とりあえず、噴水広場に移動して、噴水の水を使って全身を洗い流したのだ。

 そうしたら、皮が剥けたように人間に脱皮した。……私としては、見ていて、とても気持ち悪かったとだけ言える。

 それで、脱皮して息がしやすくなったのか、先程のキモイ深呼吸なのだ。

 脱皮した直後で、下着しか着ていなかったことも、いっそうの変態度を上げている。……あさっぱらからなんてもんを曝け出してるんだ、変態が。


「それで、クレイ先輩。お困りごとはなんですの?」


 かなりの距離を取って避難していたところから、リアが尋ねる。ゾンビ先輩の記憶が尾を引いているらしい。かなりのトラウマになったもよう。


「ああ、そうっだったな。実はな、実験に協力してほしいんだ」
「すみません。丁重にお断り致します」


 即刻お断りを申し入れる。……実験? ハッ! 笑止。

 誰が、全身緑色になる副作用があって、それでのたうち回っていた先輩の実験に、協力出来ると思ってるの? 怪しすぎるでしょうよ!


「まあまあまあ、そんなに焦ることもないだろう。簡単なことだ。協力してくれないか?」


 今度こそ、さっさとこの場を去ろうとする。しかし、そうはさせまいと、ぐっと肩に手を置かれ、その場に押し留められる。


「すみません。生理的に無理です。諦めて下さい」


 肩に置かれた手を無視して、ズイズイとこの場を離れようとする。それでも、かなりの力で進んでいるのに、手が離れる様子はない。やるな、先輩。

 気になったので、チラッと後ろを盗み見た。


「がががががっっ!?」
「…………」


 ……先輩の顔が大惨事だった。

 それでも執念なのか、肩から手が滑り落ちても、最後は足を掴んだまま地面を引きずられてきたようだ。


「さすがに酷いですわ……」


 遠くから様子を伺っていたリアが同情したのか、近付いてきた。

 正直、私もちょっと良心が痛んだ。


「はあ、はあ、はあ…………頼み、聞いてくれるかい?」


 顔面引き摺っていた先輩をリアがひっくり返す。すると、荒い息で、今生の別れの頼みのように悲愴な顔で先輩が頼みだした。


「ワタクシ達は何をすればいいんですの……?」


 リアが先輩の様子に覚悟を決めたように話を促す。

 ……なんだこれ。急に茶番が始まったんですけど。どうすればいいの。


「簡単さ……一緒に……」
「一緒に……?」


 どんどんシリアスな雰囲気にされていく。リアも、力の抜けた先輩の片手を握りしめ、先輩も先輩で、なぜか口から出血している。

 おい、さっきまでちょっと土汚れてただけだよね。騙されないよ?


「一緒に……」
「一緒に、なんですの?」


 両者、うるうると涙ぐみ始める。

 だから、やめろ。茶番だってのは割れてんだぞ。リアは騙されてるけど。

 ……残念ながら、命がけでママの表情や仕草を観察して、ピンチを凌いできた私を、舐めないで頂きたい。その程度の演技じゃ騙されません。

 場を盛り上げるだけ盛り上げたと感じたのか、満を持して、先輩が決め顔でお願いをする。


「一緒に、脱いでぐぉべらっ!?」


 言わせねーよ!?

 私は華麗なステップで先輩を狙い蹴りした。悪代官に帯を回された娘みたいになってるけど、気にしない。飛んでけ変態が!! 二度とうちのリアをたぶらかすんじゃありませんっ!

 再び蹴り飛ばされた先輩は、数メートル先で白目を剥いている。今度こそ昇天したことだろう。ちーんって効果音が聞こえた。エフェクトでお迎えも見える。おう、そのままあの世へ連れてけ。

 ……よし、これでしばらくは起きないだろう。

 変態を撃退した達成感を噛み締めながら、ちらっとリアを見ると、突然のことにポカーンとしている。

 きっと、懲りない変態に、純粋な心配を穢されて放心してるんだろう。可哀想に……おのれ、変態めっ……!! あの世へ逝く前にもう一発蹴っとくか。


『どちらかと言えば、人があそこまで、宙を回転しながら吹っ飛んで行っ たことに驚いているのでは?』


 え、そうなの? 全然気にしてなかったけど、確かに綺麗なローリングを決めてたもんね、先輩。まるで、日ごろから蹴り飛ばされ慣れてるかのように、綺麗に決まったもん。


『いえ、そういうことではないのですが……』


 もう一度、チラッとリアを見ると、今度はしっかりと目が合った。口をはくはくさせて、水槽の中の金魚みたいだ。


「な、な、飛んで、え、?」


 どうやら、プチパニック中である。何かそんなに吃驚するようなこと、あったかな?


『今まで直接的な暴力行為を見せていなかったからでは?』


 何言ってんの? 今しがたまで、散々あちこち暴れまわってたでしょ。ついさっきも、ゾンビ蹴ってたし。


『あの時は、せいぜい近くに転がす程度でしょう。普通、人間が吹っ飛ぶさまなんて、早々お目にかかれません。ましてや、体格差がある子どもが、大人に近い体格の人間を吹っ飛ばす様子は、特に』


 ……もしかして、私のせい?


『ですから、先程からそう申していますが?』


 もう一度、チラッとリアの様子を伺う。どうやら、吃驚して混乱はしているけど、私のことが怖くなった、みたいなことはなさそうだ。

 通りすがりの人が見れば、周囲が奇妙な光景に映るなか、私は色んな意味で、ほっと胸を撫で下ろした。

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