ロストアイ
学問のすゝめ
唐突だが、部屋に戻ってやることも無いので、筋トレを行うことにする。別に好きでやっている訳ではない。
日々を生き残るためには、常に備えなければならないから、必要に迫られて行っているのだ。
決して筋肉バカなのではない。断じて違う。
ストレッチから入り、基本的には体幹を中心に鍛える。何事もバランス感覚が大事なのだ。
『それでその態勢なんですね』
私は今ぐらぐらと揺れる足を必死に使ってバランスをとっている。頭を下に固定し、ブレイクダンスのような格好だ。意外と難しい。
『朝食は各自で取るそうですよ。何か持ってきますか?』
「んぐぐ、おむら、いす、!」
頭に血が上る中うささんにリクエストする。
魔法や身体強化を使えれば頭に血も上らず楽なんだけど、それでは意味がない。基礎が低いと結局は弱いからだ。今は本来の生身の状態で鍛えている。
いつもは暇なときにプチ訓練してるけど、早起きするなら今後、筋トレ時間でも増やそうかな。
『お持ちしました。それでは、どうぞ』
「んが!? ぐぇ、ごぁほ、うぇ、……ちょっと、何すんの! 殺す気?」
うささんはホカホカの出来立てオムライスを持ってくると、逆さになったまま戻れなくなっていた私の口に、一口のスプーンをつっこんだのだ。
なんてやつ……最近、扱いが雑になってきてるよ!
『失礼しました。物欲しそうに見えましたので』
「…………」
じとっとした目でうささんを見る。
――絶対さっきの仕返しだ。
うささんがしゃべっているのを無理に止めたから拗ねてるんだ。
ツンツンしちゃって、まあ。
『それはそうと、見学先は決まったようで、難しいところばかり選んでいますが、教室に入ったとして、しっかりと勉強できますか?』
『…………』
明らかに話を逸らされたけど、気にしない。これが日常だ。ビークール、私は大人なのよ。
……大人なので、うささんの失礼な疑問についても、冷静に考えてみる。
――攻撃系魔法。
面白そうだから覚えられると思う。
というより、もうすでにママや師匠からもっと凄いやつ教えてもらってるから、むしろ、初歩的なことを学びたいとも言える。
――魔法秘薬。
これについては、普通に興味がある。
回復ポーションとか、そういうゲームっぽいのが学べるってアピールポイントとして書いてあったし。
ママから既に、ただの薬草の調合を教わったりしたけど、毒草についてばっかりだし。
師匠に学ぼうにも、不器用で調合がまったく出来ないため、市販のものを使ってると判明するし。雑なのだ、色々と。
それに、魔草という新ジャンルの植物があるなんて、とってもファンタジーで面白そうではないか、とね。
――次に魔工学。
これは単純に、魔剣カッコいいから、である。
正しくは、魔剣の仕組みについてもそうだけど、日常生活に存在する魔道具について、全般的に学べる、日常に即した勉強だ。
例を挙げるなら、前に苦労して借りた着替え道具がそれだ。
あれも魔法的な道具なのだ。今は良く分かんないけど、その仕組みが分かることで、他のことに役立つこともあるかもしれない。
ママの言葉だけど、いつ役立つか分からない、雑でしょうもない情報こそが、九死に一生を得るヒントにもなるってね。
――最後に魔法技師と、暗殺教室だ。
まず暗殺教室。
これはもう決定事項だけど。
主に戦闘術を学べて、それ以外に教師の技量によって学べることが増えるのだ。
つまり、子どものころの内容の延長戦ってとこかな。ちょこちょこ中途半端に終わったし。
魔法技師については分からない。
内容も全く書いていないから、想像もつかないけど、魔法を使った何かしらの技術を学べるのではないかと予想はしている。
大体こんなところだ。
改めて考えてみてもナイスな選択だと思うね。どれも面白そうだし。ちゃんと勉強できると思うよ?
『――……驚きました。即断した割には意外と考えていましたね。少しは安心できそうです』
私をなんだと思ってるの? ちゃんと考えるよ!
こんな面白そうなとこ、楽しまないと損しかないよ。せっかくの第二の人生なんだから、学生生活満喫するよ。
『――そうですか。お好きにどうぞ。私はそれを記録するのみですので』
それは、それは、ご苦労様です。
出来るだけ記憶に残るような楽しい人生、送らせてもらうよ。
――うん。考えたら、よくここまで来たなあ。
なんだか、前世の記憶が戻った時が昨日のようだ。ちょっとアクシデントが多かったよね。
……あっという間に、こんなとこまで来ちゃったなあ。
『何を感傷に浸っているんですか。これからが大変だと思いますが』
「そうね」
学生生活を二度も送れるなんて。
何の目標もなく、つまらなく思うまま通ってた時とは違うものになるといいな――。
――――『友達いっぱい出来るといいねぇ~』
はい、師匠。楽しい学生生活、送らせていただきます。
早速可愛い女の子の友達が出来たんですよ?
私の成長、見守っていてください。
この学園の門まで送ると、そのまま何も言わず、振り返らず去っていった師匠の後姿が、まだ記憶に新しい。
……必ず、追いつきます。
『……祭壇に祀られたみたいですね、それ』
誓いをするように、私は祈りを捧げた。
……最後に見た、師匠の後姿が飾られた神棚へ。
『結局、入口から入ってすぐ、目の前のリビングへ続くドア上に飾りましたね。許可はいただいているんですか?』
P.S.
――無断で写真を撮ったのは後姿だけなので、許してください。
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