ロストアイ
早起きですか?
『おはようございます。気分はいかがですか』
う~ん。今までの疲労が嘘のようにスッキリで、数年若返ったみたいに身体が軽いよ。
『年寄リのような発言ですね。あ、いえ、失礼しました。精神的には既にオバさむぅぅ』
「余計なおしゃべりが多いのはどの口かな? 二度とおふざけが出来ないようにその口縫いとめてやろうか、ん?」
『むむむぅぅ、んむうぅ』
何言ってんのか分かんないよ。へへへ、ざまあみなさい。
うささんの口を塞ぎ、満足したところでベッドから起き上がる。本当に爽快な気分で、自分史上最高に気分がいい。
今日から教室見学が開始される。
確か、専用の郵便ポストにスカウトの書が入ってると言ってた気がする。
入口にあるパネルに学生証を翳すと、途端にドサドサと資料の束が落ちる。
「おぉ~、来てる来てる。頑張って死闘を演じた甲斐があったな。どれどれ……」
パラパラと資料の束をめくっていると、不思議と前世のクーポン入りのチラシを想い出す。
使うわけでもないのに、よく取っておいたな。
しかしまあ、どこもかしこも必死にプラス要素が書かれている。
必死過ぎだ。まるで詐欺商品でも売り込まれているか如くな内容だ。色も工夫されており、いかに楽しい教室か、身のためになるか、それはもうウザいくらいに主張している。そんな中でも、一際目立つ二つのスカウトの書があった。
一つはモノクロで、内容は至ってシンプル。
《魔法技師、始めました。見学待ってます。》
と、書かれており。
もう一つはデカデカと赤字で、
《拒否権は存在しません。入室待ってます。》
と、書かれている。
前者はワードに興味を惹かれるけど、後者は明らかに見覚えがある字だ。
とりあえず、この二つは行っとこう……特に後者。手ぐすね引いて待っていそうだ。
選べる教室の数は自由だ。
特に在学中、どこの教室も一年単位で終わるため、毎年、通う教室は大きく変わるのだ。
先にどこの教室に通うかで、ゲーム風に言えば、基礎のパラメーターを好きなようにアレンジできるってことね。
さて、出来れば今年は魔法系に通ってみたいから、これと、これと、この教室を見学しとこうかな。
手元に選んだスカウトの書を並べる。攻撃系魔法、魔法秘薬、魔工学と並べられる。
あまり広く浅くいくと中途半端になりすぎるから、まずは興味のあるものから選択をする。
ここに魔法技師と、暗殺教室を含めて自由選択になる。
また、共通科目は言語、地理、歴史といった複数科目の一般教養になる。
午前中は一般教養で、午後はそれぞれの教室になるので週休二日にしたいから、ちょうどいい感じになる。我ながらいい思い付きだ。見学するところも決まったことだし、早速リアのところに行ってみよう。
同じ教室になるか分からないけど。善は急げとばかりに制服に着替えて部屋の外へ出る。寮則については、昔からあるもので、特に他意はないとプリシラさんが言っていた。ただ、血気盛んな生徒が多いことに変わりはないから、気を付けるようにとは言っていたけどね。
そんなわけで、とりあえず寮の中に危険は無いようだ。
しかし、絡まれないように気を付けないと血気盛んな面倒ごとに巻き込まれるから、注意はするけど。
リアは確か、205だったはず。
――どうやって訪問を知らせればいいんだ? インターホンも何もないけど。
ドアをあちこちゴンゴンと叩いて調べる。……ダメだ、無駄に頑丈な造りのドアだ。
しばらくドンドン、ガンガン、とやっているとドアの向こう側からばたばたとした気配を感じ取った。
「っ騒々しいですわっ!!」
勢いよくドアが開かれ、中から寝間着姿のリアが出てくる。
寝癖っぽいモノが跳ねているが、ロールは健在だ。
ただ、ちょっとゆるふわになっていて攻撃力が足りない。
「おはよう、リア。まだ戦闘準備が整ってないね」
「どこを見て言ってますの……」
寝起きだからか、じとんと胡乱気に見られる。それにしても、本当に起きたばっかりのようだ。
かわいいクマさんの抱き枕を持っていることにも気付いていない。
「今、何時だと思っていますの……」
覇気がないな。
……そういえば、廊下も静かだ。時間なんて気にしてなかったけど、今、何時だったかな?
「今、何時?」
「朝の4時前ですわっ!」
「なんだ、意外と遅いな」
「なっ!」
いつもは、2時前に目がさっぱりと覚めちゃうからな。よほどぐっすり眠れたようだ。
ん。リアがわなわなと震えている。薄着だから寒いのだろうか?
「非常識ですわっ!」
「えっ」
「出直して来なさいっ!!」
――バンッ!
それだけ言うと、ドアがまた勢いよく閉められた。
……何故だ、解せぬ。
『気付いていないようなので、あえて言いますが、朝の4時は一般人でも早すぎます。況や深夜の2時もです。共通の午前教室は9時から開始なので、時間があり余っていますよ。言われた通り、出直しましょう』
――そうなのか。
初めて知ったな。
いつママから試練が課されるか分からないから、睡眠中も気を張り詰めて生きてきたし。
そうか。これ、非常識だったのか。
慣れって怖いな……これからは気をつけよう。
――こうして、私は日々世間とのズレを修正していくのであった。
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