ロストアイ

ノベルバユーザー330919

突撃!自分の寮部屋!



 入口でショッキングなことはあったけれど、とりあえず気を持ち直し。中へと慎重に入ることとなった。

 部屋はそれぞれ、自由に模様替えしてもいいそうで、そちらに気を取られたともいえる。

 どんなふうに部屋を作るか、今から楽しみである。改造も問題ないとのことだし、理想の部屋を考えねば……!!


『与えられた部屋に、文句を言ってはいけませんよ。ここは共同の生活の場ですから』
「分かってるよ! さすがに、いちゃもん付けたりはしないよ」


 今世は大金持ちだったせいか、金銭感覚が狂っているという自覚はある。

 旅に出て、初めて紙幣を目にしたのだ。

 ちなみに、今は電子マネーが主流のため、そう珍しいことではないが、初めて見た紙幣は思ってたのと違っていて、改めて時代が違うんだなと思い起こさせてくれた。

 旅の途中で泊まった宿やホテルも、どこも私の部屋より狭かったのだ……。

 最初は戸惑ったけど、慣れていけば、案外、こじんまりとした空間が落ち着く。

 前世では普通の一般庶民だったはずだが、はて。

 今世の生活に慣れて感覚がマヒしていたのかもしれない。

 そんな益体もないことをつらつらと考えていると、自分の部屋に辿り着いたようだ。

 学生証を翳すと、何やら、バーコードを読み込むみたいに赤い光が照射される。

 カチャっという軽快な音と共にドアが横に開いた。ウィーンとは鳴らない……なんだか残念な気分だ。


『何をしているのですか。早く入らないと通行の邪魔ですよ』


 落ち込んでいる私を慰めることも無く、宙に浮いたうささんに、ぺしぺしと頭を叩かれて、部屋に入るように促される。

 部屋に入ると、自動的にドアが閉まり。再びカチャっという音が鳴った。

 入口を確認すると、十足は入りそうな靴箱に、コートなどを引っ掛けられるだろう収納があった。

 靴を脱ぐ形式のようで、脱いで中に入る。後ろで自動的に靴が回収され、靴箱に収まってしまった。便利だな。

 そのまま廊下を進もうとすると、ドアが4つ存在していた。右側に2つ、左側に1つ、奥に1つだ。

 とりあえず、左側から入ろうと試みる。近づくと独りでに開いた。

 中を覗くと、どうやら寝室のようだ。

 必要な備品は既に既存の物が用意されているため、ベッドや簡易的な書き物机、ドレッサーまでついている。

 左が寝室だったなら、おそらく反対側は浴室とか、そんなのだろう。予想に違わず、ドアが開くと、一つには浴室と洗面台、洗濯機などがあった。

 もう一つには何もなく、おそらく倉庫でも作業部屋でも、好きに使えということだろう。

 最後に、奥の部屋を見ようとドアを開けば、洋風キッチンに、リビングがあった。

 冷蔵庫にはパネルが付いており、そこで選択した食材を勝手に入れてくれるらしい。便利だな。

 試しに、プリンを選択してみた。画面が《しばらくお待ちください》、という表示に代わる。

 ゴッゴッという音を出しながら冷蔵庫の扉が開かれると、そこにはプリンがひとつ置いてあった。


「うむ。便利だな」


 自分の部屋には冷蔵庫とかは必要なかったし、ましてやキッチンや洗濯機なんて代物は無かった。専用ケースに汚れた服を投函して終わりだ。翌日、綺麗になってクローゼットに戻っていた。

 食事もそうだ。ほとんど家族一緒に食事をすることは無かった。

 料理が専用のアンドロイドに持たされて、送られてくるだけであった。

 旅に出た時も、野宿をする機会は少なく、しかし、宿で客の手を煩わせることも無く、何もすることは無かった。……今までを振り返ると、なんだかんだでお嬢様なんだな、私。

 お嬢様扱いされた記憶は無いけど、十分お嬢様なのかもしれない……。


『機械の操作は分かるんですか?』


 うん、分かんないや。完全にお手上げだね。

 なんとなくどういう用途の機械かは分かるんだけど、操作方法とか全く不明だね。……前世利用してた機械と違い過ぎるんですけど。

 今になって、新しく出てくる文明の利器を使いこなせなくて、ちんぷんかんぷんなおじいちゃんおばあちゃんの気持ちが分かるとは思わなかったよ。


『前にも教えたはずですが、仕方ありませんね。もう一度説明しますので、その機能していない耳と脳をしっかりと機能させて覚えて下さい。いいですか、まず、こちらの機械は――』


 それから、日が暮れるまでうささんの説明は続いた。

 前世でもなじみ深いモノは比較的覚えられたけれど、なじみの薄い、いつ使うのか分からないような機能まで満載であった。


「ねえねえ、そういえばお手洗いが見当たらないんだけど?」


 自室にはトイレが完備していた。部屋の中を再度見回ったが、それらしき場所はどこにもない。


『知らないのですか? この学園内にお手洗いはございません』


 え? どういうこと……。人間が最も必要とする施設なのに!

 私の部屋や宿にはあったんだから、存在してないわけではないでしょ?


『糞尿はいわば、排出された不要な栄養の塊です。それを活用出来ない場ではお手洗いが完備されていますが、この学園内ではお手洗いではなく、カプセルに入り、そうした塊を老廃物ごと取り除いているのです。

 疲労困憊になることも日常茶飯事ですから、利用者が多いため導入されているのです。お陰で、需要が無くなり、今の形に落ち着きました』
「でも近くにはないけど?」
『就寝しますと、自動的に機能します。それに、身体には不老を施している影響か、排尿なども実質、数日不要なのです』


 つまり、寝ている間に、また変な謎技術で体の中から排出されるはずだった不要な栄養分や老廃物を抜き取っていて、しかも、普通数時間置きに催すはずなのに、不老状態だから、それも遅くなっていると。

 結局は、排出されるはずのものを先に取り除いているから、出すもんも出せないと、そういうこと?


『その通りでございます。良く理解致しましたね』


 ほえ~。こりゃたまげた。でも、それならなんで私の部屋や、宿とかにはあったの?


『幼児の間は不老が完全ではないため、という理由もございますが、何より、栄養分を取り除きすぎて、第一次成長期の邪魔をしては、色々と不具合や問題が生じますので』


 そうなのか。

 なるほど。便利な世の中になったもんだな。これなら、アイドルは糞尿など出さないっていうのも現実になるね。

 やったな、世の追っかけども!


『……そんなことのための技術ではないのですが』


 色々とすっきりしたことだし、とりあえず、寝るか。

 早速とばかりにベッドにダイブしようとすると、うささんが立ちふさがった。


『お風呂には入ってください。体内については問題ありませんが、体外については、直接洗い流すしか方法がありません』


 えーー!! なんじゃそりゃ!!

 ――結局、お風呂に入ってから、再度ベッドにダイブすることとなった。寝心地は頗る良かったです。

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