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ロストアイ

ノベルバユーザー330919

説明会@その3



 ――現在、非常に微妙な空気が漂っている。

 講堂に現れた若い女性。

 プリシラさんは、とてもほんわかとした女性だった。

 現れるや否や、男子生徒を吹っ飛ばしてしまったが、それには気付かず、私たちに話しかけてきたのだ。

 そうして、寮監であること、案内をすること、寮に着いたら寮則を伝えること、などなど、話を進めた。

 そうして、講堂から出るときになって、そこでやっと赤髪オールバックくんの存在に気付いたようで、慌てて介抱し始めたのだ。

 しかも、誰にやられたのか、という無自覚発言を添えて。

 オールバックくんはプリシラさんのせいだと何度か発言しようとしていたが、ことごとく話を介抱……にしては暴力的な気遣いで遮られてしまっていた。

 そんなやり取りを残りの生徒一同、どこからツッコめばいいのか、微妙な空気が漂っていた。

 お互いに、お前がツッコめ、いやだ、面倒くさい、という目線のやり取りを行っている。誰も動きそうにない。

 仕方ないから、私が声を掛ける。


「あの、プリシラさん。出来れば、寮に案内して欲しいんですけど」


 バッ! という効果音が聞こえそうなくらいに、一斉に視線を感じた。

 え? 違うの? ……てっきり、早く移動したいけど、話しかけずらいからお互いに目線を送っていたとばかり……。


「まあ、そうだったわ。失礼しました。それでは案内しますね。皆さん、こちらへどうぞ。私の後ろをついて来て下さい」


 介抱していたはずのオールバックくんを、両手を合わせる仕草の際に落としてしまう。

 頭から落ちて、ゴンッ、と鈍い音を講堂内に反響させた。

 それに気付かず、プリシラさんは慌てて退出し、残りの生徒を案内しようとしている。

 あ、オールバックくんが若干白目剥いてる。

 ――返事が無い、ただの屍のようだ……成仏しろよ!

 心の中で供養を済ませると、さっさと退出して、プリシラさんの後を追う。

 私以外の生徒も無言で退出し、プリシラさんの後を追う。

 誰も骨は拾わなそうだ。

 しばらく集団で移動していると、大きな公園のような場所に出た。公園の周囲には団地のような建物が建っている。

 おそらく、あのどれかが私たちの寮だろう。

 プリシラさんはぐんぐんと先を進んでいく。置いて行かれないように付いて行っていると、集団の後ろのほうで、ちらちらと赤い髪が見えた。

 誰も復活の呪文は唱えていなかったけど、どうやら、蘇生したようだ。

 暫く歩くと、一際大きな建物に到着した。

 しかし、大きさよりも何より、建物のボロさが目に付く。

 先程まで小奇麗な団地の中を歩いてきたためか、あまりのギャップに、まさか、という思いがよぎる。


「あの、プリシラさん。もしかして、このボロ、いえ、古、いえ、趣きのある建物が、私たちの寮でしょうか」


 周りからの無言の視線を受けて、再び発言をする。プリシラさんはきょとんとした顔をすると、直ぐに理解したように、うんうんと頷く。


「分かるわ。この寮、あちこちガタが来ているの。なにせ、特A寮は赤服の生徒しか居ないから、毎日問題ばかりが起こってしまって、困ったわ……」


 いや。困ったわ、で済ませるにしては、あちこち壁に穴だらけなんですけど?

 まるで戦争でも起こったのかってくらいにボロいんですけど……?


「でも、安心して。こんな見た目だけれど、中は結構快適なのよ。うちの寮は寮則も一つしかないし、自由で気楽なのよ」


 私たちの芳しくない反応に焦ったのか、良いところを必死で教えてくれる。

 確かに、中を見ないことには判断も出来ない。前世でも意外と外見がボロい賃貸のほうが住みやすくてお得だったことも多い。まずは中を見て判断しなければ。


「プリシラさん。寮則は一つということでしたが、寮則はそれぞれの寮で違いますの? 他の寮の寮則は教えて頂けるのかしら?」


 今まで黙ってついて来ていたリアが疑問を呈する。

 寮則は後で教えてもらえると聞いていたが、確かに、それぞれで違うなら、気を使うこともあるだろうし、知っておいたほうがいいかも。


「そうね。基本的に、ぞれぞれの寮の寮監が決めているの。よほど個人的な規則でなければ、自由に決められるのよ。それに、寮則は、それぞれの寮の入り口にも張ってあるから、そこで確認出来るわ。でも、他の寮の生徒が中に入る場合は、入りたい寮の生徒が同伴していなければいけないから、そちらの生徒に確認したほうが早いわね」


 なるほど。

 他寮への入り方は共通というわけか。

 ……ま、そんな機会は少ないと思うけど。一応記憶に残しておこう。


「それでは、早速、中へ案内いたします。こちらへどうぞ」


 プリシラさんに続いて中へと入ると、屋内は以外にも外見からは想像が付かない綺麗さで、入口のエントランスは同行した五十人未満の生徒が入りきる位には広かった。


「今の時間、あなたたちの先輩方はそれぞれの教室に行っている頃だから、ほとんど人が居ないの。だから、多少うるさくしてもいいけど、出来るだけ静かにお願いね」


 プリシラさんが注意したことにより、生徒の話し声も小さくなった。

 ……そういえば。

 寮則が入口にあるという話だったが、どこにあるんだろうか。掲示板のようなところにはこれと言った文言が見つからない。


「すみません。寮則はどこに書かれているんですか?」


 同じことを疑問に思ったのか、茶髪のおさげの女子生徒が声を上げる。それに気付いて、周りの生徒も辺りを見回すが、どこにも見つからない。


「ああ、ここの寮則だったら、あそこに書いてあるわ」


 プリシラさんが笑顔で指さす方向に目を向ける。

 私たちの背後を指していた。

 背後にあるのは入ってきた扉ぐらいだったはずだ。そう思いながらも、後ろを振り返ると、簡単に寮則を発見した。

 それは入口の扉のすぐ上におっきくこう書かれていた。

 ――――寮内で殺人事件を起こさないように!!

 赤い血の色でデカデカと。……文字から赤が滴った状態で固まっている。

 沈黙が続く中、近くでバタッと人が倒れる音がした。前の女生徒が気を失ったようだ。

 すみません。どういった状況を想定した寮則なんでしょうか。誰か、教えて下さい。

 私たちは一体どんな無法地帯に放り込まれることになるのだろうかと、気が遠くなるようだった――

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