ロストアイ

ノベルバユーザー330919

デッドorアライブはいかがですか?@その3



 ――――ガアアアアアアアア、ガ

 地に切り伏せた魔獣の断末魔が密林の中で木霊する。今ので何匹倒したのかすらも分からない。囲まれてから今まで、怒涛の勢いで魔獣が襲い掛かってきた。群れないはずの種が結託して規則的に襲い掛かる様子はかなり珍しい。

 理由は分からないけど、魔獣は基本同じ種であっても繁殖意外では群れずに単体行動をより好む。ゲームとはいえこの状況は現実では有り得ない。もっと言えば確認されていない現象だ。

 ――だからこそ。現実ではありえないからこそ、対応も考えなくてはならない。それに魔獣については他にも確認しなければいけない重要事項がまだある。

 ――危険な強さの基準だ。

 この世界での魔獣のレベルは下から注意、警戒、警告、災害注意、災害警戒、災害警告、といったような段階が存在する。さらに細かく分けるなら、E~Aと分布されているが、今私の目の前に倒れている魔獣たちは見たところ警戒Cレベル辺りが多い。

 ちなみに分かりにくいと思うから言うけど前世的に置き換えると、大雨で人が流される危険度って感じかな?


『より難解になりましたね』


 それじゃあ震度4とちょっとくらい? 対処できないことも無いけど避難しといたほうが無難、みたいな感じ?


『えらく微妙な例えですね。そのくらいでは多くが避難しません。ただ、その警戒Cレベルが集まれば警告Eくらいにはなるのではないでしょうか?』


 ――――グア、グア、グ……

 あーなるほど。

 群れてるもんな、警戒Cレベル。

 というよりか私じゃなければそもそも魔獣と一対一やまして一対多って不可能じゃない?

 普通は協会本部から魔導師中隊以上が出張ってくるレベルだよ……?


『問題ありません。主要な警戒Cレベルはこの周辺にしか居ません』


 こんな次から次へと湧いてこられては色々疑うよね。本当は全部こっちに差し向けられてるんじゃないかって、新たな疑惑がまた疑惑の上に浮上するよね。

 ――――ブルルルルル!!


『いいえ、差し向けられているのではありません。そもそもこのゲーム世界は強者に厳しく出来ています。現実の身体能力、感覚も全て反映されているため、不慣れな者に無理強いは出来ないシステムです。それぞれのレベルに合った魔獣が用意されていますので、この状況は自業自得です』
「…………」


 それってつまり、今まで必死で頑張ってきた私の全てを否定してますけど……?

 ……ひどすぎる。生存本能を著しく理不尽且つ強制的に鍛えられた挙句、そのせいでこんな目に遭わされるとかさすがにドS過ぎるでしょ。ちょっと特殊なパパならともかく、娘の私にはもうちょっと甘くしてくれてもいいと思わない? ねえ……?

 ――何のためにママのお勉強を生き残ってきたと思ってるの……!

 ――――ギャアアアアォン


『生存確率を上げるためですか?』


 ――違う!

 違くはないけど、違う……!

 ……確かにさ、ママの教育のおかげで現状、一人で猛獣しかいない荒野に裸一貫で放り出されても生きていけるなとは思うけどさ、そういうことじゃないの。うん。


『では、それ以外に何があると言うのですか?』
「――――」


 ――……色々あるよっ! ……きっと。


『……そんなことだろうとは分かっていました。次が来ます。戦闘に集中して下さい。この周辺に存在している魔獣を全て片付けられれば、残りは他の生徒でも問題はないでしょう』


 ――――ギシャァァァ

 ――それってつまり、やっぱり私だけハードモードだったってことじゃんっ……!

 私、強めの魔獣が居るとこに送られたんじゃなくて、元々私に課された課題だったからここに居たっていうの? それなら普通に無理ゲーなのでレベル下げません……? 初心者モードとまでは言わないからさ……お願い!


『いえ。そういう仕様ではありませんので出来ません。それに正確には違います。この世界のプログラム上では魔獣が先に居り、近場で最も強者である人物の元へ自動的により集まります。ですので、他の一般生徒を巻き込まないために遠くの無人地帯へ送られたということです』


 ――――ゴァァァァァァアアアアア!!


「…………」


 ――おい。今無人地帯って言ったな……?

 しかも隠れてても近付くと必ず嗅ぎ付けられるとか、逃げても意味ないよね? たとえ一生逃げ続けても倒さない限り敵が一生増え続けるだけって最初からワンサイドゲームだよね!? 普通に厳しすぎるでしょ……!

 心の中でうささんと駄弁っている間も魔獣は湧いて出てくる。そんな中でザックザックとGの如くスポーンしてくる敵をなぎ倒し、合間にうささんへ抗議する。無論。ここで抗議しても状況が変わらないことは重々承知している。

 それに結局はママが仕掛けたこと。抗議したところで軽く流されてお終いだ。環境が私に優しくなさすぎる……!

 うささんのワザと過ぎる失言に気を取られていると、前方から堂々と迫りくる、凶悪な牙の持ち主である大きなネコ型魔獣と目が合った。

 ――――ニェエエエエエゴッ!?


「――口閉じろ」


 ――シーン。

 自分でも吃驚な低い声を出しながら、地面にめり込む勢いでネコ型魔獣の頭上から肘鉄をくらわした。そのまま潰れて沈黙を晒す結果となった魔獣を見て、少しだけ内にため込んでた鬱憤がすっきりした。――しっかしプログラムとはいえ悪いことしたな。お陰でちょっとストレス解消できたけど。

 さすがに八つ当たりだったと反省し、余裕もって手を合わせ簡易的に目を瞑りその場で冥福を祈る。しばらくそうして静かに手を合わせて祈っていたわけだけど、あまりに周囲が静かすぎた。ことそこに至って初めて、こんな隙だらけの恰好にも関わらず先程までうるさくがなり立てて襲撃していた魔獣が向かってこないことに気付く。

 怪訝な心地で顔を上げると、どいつもこいつも先程とは打って変わってまるで様子見するようにウロウロ私の周囲を静かにうろつくばかりで踏み入ってこようとしない。――なんか、妙にイラッとムカつくな。少しスッキリしたはずのイライラが膨れ上がった。


「……さっきからあんたら耳障りにうっさいのに何なのよ今はまさか一々叫ばないと特攻も出来ないわけッ!?」


 一度治まったはずのストレスとイライラが最高潮に達し、私の発したかなりドスの効いた声に対して高度な再現プログラムでしかないはずの魔獣たちが揃って足を止めた。私の怒りの声に何故か反応した魔獣たちが揃いも揃って動かないそんな中、暢気にもうささんが明るく私に語り掛けてくる。


『そろそろ襲撃も落ち着きそうですね。良かったではないですか、久々に効率的な訓練になりましたよ』
「――良くないよ!」


 条件反射で叫ぶ。気のせいか周囲の魔獣たちがピクッと反応した。プログラムのくせになんで変なところで無駄にリアルなんだ。製作者誰だよ。絶対力入れるポイント間違ってる気がするのは私だけなの。

 それにさ、私の姿ちゃんと見えてる? 現在進行形で絶賛全身ボロボロなんですけど……!


『想定内ですね』
「…………」


 うささんが冷静に私の状態に判定を下す。おそらくこの後続くだろう残りの戦闘においてって意味だろうけど鬼畜過ぎる。私ですら既に死にかけなのに、一般人が居たらと考えればコンマ数秒以下でお陀仏だったろうレベルなんですけど。無慈悲すぎる。

 確かに一匹ずつならそれほど苦労はしないよ? でもこうも連携を上手く駆使して襲い掛かられちゃプログラムとはいえ息吐く暇もないっての! 殺す気かっ!

 若干疲れで気の抜けた私に反応して襲撃がまたしても再開される。もっかいドスの利いた声を出そうにも気力が足りない。何もかもストレスだ。せめて鬱憤晴らしにさっさとやられておくれとしか思えない。

 ――――リョォォォオオン

 意識が薄っすらぼんやりし始めた。限界が近いのかな。……私もそろそろこの世から解脱するときが来たのかもしれない。せめて安らかにあの世に渡りたいな――。


『――問題ありません。ここでは死ぬことはありません。それに、私のことに気を回せるぐらいですから、まだ余裕なのでは?』


 ――そんなわけあるかああっ!

 うささんの嫌味で飛びかけた意識が刹那に戻ってきた。やれやれ、いつになったら私は自由の身になれるのやら。全体の状況が分からないからこの状況の終わりが見えない。

 大体、何が警告Eなの? 災害級に入ってるんじゃないの? これ。しかも現実の感覚と大差ないせいか生傷がヒリヒリして地味にめちゃくちゃ痛いんですけど。


『そのようですね。確かに警告Eは見誤りました。警告Bに繰り上げます』


 ――なんで!? もっと段階上でしょうよどう見ても!

 こんなん無理ゲーだよね? いつになったら終わるの……!

 ――――ヴォオオォォォァアアア


『現在、確認したところちょうど今倒した魔獣で半分程度片付いたようです』
「――――」


 ――それ本気で言ってんの? 全然だよね?

 ……私、もう、心も身体もかなり限界なんですけど……!!


『気張っていきましょう。もう半分を倒せば、ほぼゲームクリアです』
「…………」


 ……嘘でしょ。ほとんど私の担当になってる……!!

 ……他の人はどうしてるの!?

 なんでここまで数が減らないの!? ねえ……?


『送られた位置のせいか、散会する前の魔獣の群れが密集する地帯だったようです。他の生徒も応戦してはいますが、ここほど激しくは無いようです。絶妙に魔獣の感知に引っかかるように進んでいたことも原因のようですが』


 ……なんだって?

 群れが最初からランダム配置だったとして、ゲームに送り込まれたときはママたちがある程度選択出来たはず。そう考えると全方位どちらへ進もうが何故か絶妙な距離に魔獣の気配がぶち当たって仕方なく進んでいたのも計算通りになるというわけで……。


「…………」


 ……ほら、やっぱり最初からママの思い通りだったよ!

 逃げても逃げなくても同じ結末だったよ、こんちくしょーめがっ……!

 職権乱用してまで娘を奈落の底に突き落として何が楽しいんだ……!


『こういった反応ではないでしょうか? 旅に出る直前、マリア自身が子どもは従順よりも反抗的なほうが好みだからついイジメてしまうとヴァルに告げていましたよ。私も横でマリアが語る今後の展望について参考までに聞いていたのですが、話の途中でヴァルがいきなり立ち上がり話を終わらせると、もう行くとマリアに別れの挨拶をしてからすぐに外へ出ていきました。おかげで出発時間が早まってしまい修復に大変苦労致しましたが……』
「……し、」


 ししょーーーーっっっ!!

 なんてこと……私、旅に出るの嫌がってたけど、あのまま居残っていたらさらに酷い目に合っていたかもしれないなんて……! もう師匠に足を向けて寝られないっっ……!


『あの時は出来ればもう少し修復時間に余裕が欲しかったのですが、ヴァルも何故あのように慌てて出発を早めたのか、未だに理解致しかねます』


 理解致しかねますって、明らかに我が家が子どもの教育に向いてないことに改めて気付いたからでしょうよ! あんたの修復なんてぎりぎり間に合ってたし、苦労って程でもないでしょ?

 私があそこに残ってればそれこそ修復できないことになってたかもしれないんだよ!? 何が理解できないのかが理解できないわっ……!


『いえ、現状を鑑みればいずれマリアの展望が濃縮して実行されるのに、と考えたまでです』
「…………」


 ……なるほど。

 ……師匠の神棚でも作ろうかな? ご利益ありそうだ。

 間隔があるのか。一時的に止んでいた襲撃がまた、再開される。――さすがゲーム。現実的にもありえない鬼畜仕様が実装可能とか、マジで笑えない。

 そうしてなるべく重傷を負わないように気をつけながら、これが終わったら必ず自室に師匠の写真入り神棚を置く決心が固まるのであった……。

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