ロストアイ
デッドorアライブはいかがですか?
「――――今から、皆で追いかけっこ、しましょうね~?」
地獄の追いかけっこが今、開幕する。
にっこりと告げるママの笑顔が実に晴れやかで懐かしくも輝かしい……。
「追いかけっこ? 何故そのような遊びを……?」
リアが不思議そうにしている。確かにただの遊びではある。――ただし恐怖の遊びであるという点を覗けばね……。
「皆には二つのグループに分かれてもらいます。一つは追いかける側、もう一つが逃げる側です。シンプルでしょう?」
聞くだけならとても分かりやすい遊びである。しかしそれだけではないと、既に経験則から割れている。……どんなヤバい仕掛けがされているか分かったもんじゃない。
『……何かありますね。マリアがいつになくノリノリです』
「……どのくらい?」
うささんが分かり切った危険信号を発信してくれる。どのみち避けられないが、参考にはなるので念のためにも聞いておく。
『比べるのであれば……以前、三日三晩檻の中で猛獣の群れからパジャマで逃げ回った時と若干下ですが大体同じくらいでしょう』
「結構エグいレベルのヤツが来たな……あれ、食料も現地調達だった記憶があるな……懐かしい」
檻の中なのに食料現地調達? とかツッコんではならない。一般的な檻とは別次元の意味での檻なので、現地調達が出来たのだ。経験者は語る、というやつだ……自分で言っててちょっと意味が分からないけど。
「聞いてはいけない内容が聞こえた気がしますわ……」
不幸にも横で聞いてしまったリアが「あら幻聴かしら?」とばかりにしばしばと長い睫毛を瞬かせる。自分の身の心配をしてて気配りが出来ていなかったようだ。
しかし周囲のそこそこ雑多な雑音がカモフラージュになったのか、単純に聞き違えたと思っているらしい。うささんと目が合ったので、同時にリアに返答することにした。
「『気のせいです』」
「……そう」
とりあえずママの一言一句に集中しないと後々後悔することになるので、ひとまずリアの物言いたげな視線は流します。しばらく視線を感じたものの、ママが説明を再開させたのでリアも前へ目を向けてくれた。
……危なかった。危うくせっかく出来た常識人っぽそうな可愛い友人を失うところだった。もしヤバい奴だと思われたら自然消滅みたいに避けられてしまう未来しか見えない。ほっと無い胸を撫で下ろしてママの声に集中する。
「クリア条件は捕まえる、もしくは倒すことよ~? 相手が居なくなった時点で終了するから、最後まで逃げ切る選択でも問題ないわ~」
相手が居なくなった時点、というのがポイントだな、これ。新入生の実力はまだ不明だから、出来るだけ様子見しながら隙を見てってとこかな……?
「――皆の様子は一人一人としっかり見ているから、怠けずに一生懸命頑張ってね~?」
話は終わったのか、ママが場所を空けて先程のモノクルの女性が前へ進み出る。綺麗な直立姿勢のまま流れるように静かに右手を前に真っすぐ突き出し、そのまま勢いよく水平に横へ腕を振った。途端、
「――っ!?」
座っていたイスの足と肘掛けから拘束具が出現し、次々と身動きが出来ないように留められていく。外すことも出来るけど一瞬合ったママの視線が怖いので、そのまま大人しく待機をする。
「な、なんですの、これは……!?」
リアがここにきて異常を認識したらしい。どうにか拘束具を外そうとジタバタ足掻いている。ただ見たところ外しにくいようにご丁寧な細工がされている。リンクしてるようで、一か所でも緩まそうとすると別の個所が締まる。暴れるだけ無駄ね。
冷静になれば緩んだところから多少痛いけど確実に抜け出せるようにはなっている。……しかしいきなりの状況に人は弱い。咄嗟の判断でそこまで出来る者はそう多く無く、経験値がモノを言う。
人の心理を逆手にとった仕掛け。なかなかシンプルに上手いものだ。咄嗟の判断力を試すというのであればかなり有用なトラップだろう。
『始まるようですね』
「そうねー」
何が起きてもいいようにモノクルの女性とママの様子を確認する。周りは見なくともほとんどがパニックになっていた。
――無理もない。大人ですらパニくるのに、おそらくほとんどがまだ十二、三歳である子どもの判断力なぞそんなもんだ。
むしろ冷静に座っている数名は要注意だからチェックしておいたほうがいいかもしれない……。
「なぜ、そのように落ち着いていらっしゃるの!?」
リアはパニック側だが私の様子を見られるぐらいには思考が働いているようだ。特待生とやらに受かるだけあって可愛いだけじゃなく見どころがあるようでなにより。
「なぜって言われても、いつものことだから……」
『今更慌てふためいても何も変わりませんからね』
その通り。
ママと過ごしたお勉強の日々は旅に出た後も度々毎夜悪夢として出てくるくらい、トラウマの如く心身に埋め込まれているんだから……!
「それにこんなことで慌ててたら後々よりコワイ事態に発展するからね」
「あなた、苦労していらっしゃるのね……」
どうやらリアも私とおしゃべり? することで段々と落ち着いてきたようだ。しかし相変わらず周囲では何が起こったのか分からずパニックになっている者、突然のことに驚いて泣いている者と、けっこうなカオスだ。
新たな生活が始まるんだってドキドキ夢いっぱいに胸を膨らませてやってきたのに、全くもってひどい仕打ちである。
なんならママが追いかけっこ宣言した瞬間にヤバい雰囲気を察したのか、悲鳴を上げそうになっている者が居たしね。特に前の人、ご愁傷さまです。
「ママの話をしっかりと聞いてれば問題ないよ」
ママはと言えば冷静に、ある程度周囲が落ち着くのを見計らっているようだ。瞬時に相手の状態を把握し利用するのはママの得意分野の一つ。心理戦ではママには勝てない……。
『心理戦だけですか?』
……訂正します。
よく考えたらあらゆるジャンルでママには勝てません。これが真理でした。すみません。ちょっと調子に乗りました。
『いいえ、能天気さと自己管理能力の低さは唯一優っています』
うささんがいつもの如く余計な一言を加える。
「違う! 私は能天気じゃない! ポジティブなの!」
即座に条件反射で言い返してしまったけど、うささんはどこ吹く風。むしろやれやれとモーション付きで呆れてやがる……しっかしマジで嫌味しか言われた記憶が無いんですが。絶対今までの私との会話記録って内訳の半数は嫌味でしょ。ひたすら私を貶して何が面白いんだろうか。冗談か本気かも分からないというのが正直なところだ。可愛いから許すけど。
「……どこから申し上げればいいのか、もうワタクシ分かりませんわ……」
そうしてうささんとバカやってツッコミ慣れてないリアをからかっていると、次第に周囲もある程度騒いだことで落ち着き始めた。周りが静かになり始めたところを見計らってモノクルの女性が再度、綺麗なカーテシーを披露した。
「それでは皆さん。デッドorアライブ。楽しんで来て下さい」
 その声を最後に私の意識は唐突に暗転した――
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