ロストアイ
説明会
リアと健全に親睦を深めることで時間をやり過ごしていると、ぞろぞろと集団がやってきて次々と席についていく。周りを見渡すと同じ軍服のような制服を着た生徒たちが多く居た。
「……ねえねえ、リア。なんで皆制服が白いの? 赤着てる人少ないね」
周りの目も気にしながらこそこそと確認すると、信じられないものを見たとでも言いたげなリアの目と目が合った。
「本気ですの……?」
『箱入り娘で世間知らずなのです』
私の膝上にさりげなく居座るうささんが、えっへん! とでも言いそうなポーズでリアに答える。可愛いから許す。だが次は無いぞ……。
「……あのねー、そこまでではないでしょ? さすがに――」
「そうなんですのね……」
ちょっとアメリアさん。何を納得した表情してるの。私そこまで世間知らずじゃないよ。むしろ世界中を旅してるよ。たしかに変な人しか知り合いに居ないけど、それとこれとは別でしょ?
って、やめて。いつの間にかうささんと目を合わせて頷きあってお互いだけで分かり合わないで。寂しいから。……後、可哀想な子を見る目もなしで。
「……赤服の生徒は特待生枠に受かった生徒ですわ。それ以外の生徒は白服の一般生徒ですの。……ついでに申しますと、タイの色が学年の色ですの。ワタクシ達の学年は黒ですわね」
「へぇ~なるほど」
そんなシステムだったのかぁ……初耳だ。
『かなり早い段階で教えたはずですが?』
私は下から見上げてくるうささんの円らな視線からそっと視線を外した……外した先で呆れた表情のリアとも目が合った。――ごめんなさい。記憶にございません。
「呆れましたわ、それではこれから行う説明会の内容もご存じではないのかしら?」
「何の説明?」
『無駄です。身体で覚えさせるしかありません』
誰が脳筋だ、誰が。
『うとうとしないように気をつけて下さいね』
だから、私をなんだと思ってるの? 速攻寝るわよ。あ、うささんが溜息吐いてやれやれポーズしてる。カワイイ。
「説明はしっかりと聞いておくべきでしてよ。今後の教室の選択に参考になりますの」
あー。そういや、前に聞いた気がするな。確か共通以外で好きなのが選べるんだっけか。全然覚えてないや。どんな内容だったかな……。
『選ぶ教室によっては特典もあるようですよ』
「なんでちょっとお得感出してるの。必死過ぎでしょ」
「不人気の教室は教師も儲かりませんのよ」
『生徒数によって、給料も変動するようですよ』
……公務員って儲かるかと思っていたけど世知辛い世の中だね、全く。
あ、それならママの教室って人気あるのかな?
『……マリアの教室はある意味人気ではありますが』
「マリア様の教室は恐れ多くて通えませんわ……どうして、マリア様の話を……?」
「娘としては、親の仕事の様子が気になるもんじゃない?」
急に黙ってしまったので横を見てみると、信じられないものを見たようにリアが私へ驚愕の表情を浮かべた。扇子を握る手がふるふると震えている。
……何をそんなに驚くことがあるの。これでも結構ママに似てるって思ってるのに。
「……娘? どういうことですの。どうして、このようなアホの子がマリア様の……?」
『混乱状態に陥っていますね。無理もありません』
二人ともさらっと人を貶さないでくれません? しっかり聞こえてるよ。そこそこ傷ついてるからね。そうして未だに帰ってこないリアをよそに、周囲の明かりが落ちる。どうやら説明会とやらが始まるようだ。
「みなさん、ようこそ。歓迎致します」
緞帳が開き、暗い壇上に一筋のスポットライトが差し込まれた。そしてモノクルを右目にかけたキチッとした頭の固そうな女性がゆっくりと前へ歩み出て、綺麗なカーテシーを披露する。
「これから説明会をはじめたいと思います。ですが、その前に……」
壇上の明かりが広く点き、一人の女性が前へと出る。
――きらきらと明かりがその白い髪を透き通って照らし、光の中であっても鋭く黒曜石のように輝く目を楽しそうに煌めかせる。褐色の肌がその女性の色合いをさらに際立たせていた。
「――は~い、これが最終テストよ~」
久しぶりだけど、相変わらず二児の母親とは思えない若さだ。
「……マ「マリア様!! なんてこと! こんなところでお会いできるなんてっ……!」
おーいリアさーん。ここは母娘の感動の再開シーンだぞ~。ママもニッコリと手をこっちに振って、ファンサービスですか。そうですか。
横できゃーっ! とミーハー女子ばりにはしゃぐリアを見る。しかしどうやらリアだけではなく、あちこちでママに対して黄色い声が出ている。
……なにこれ。人気アイドルのコンサートか何かですか?
「今から皆には選択をして頂きます」
周りへのサービスを提供しながらもママがとってもイイ笑顔を浮かべて話し出した。……ね、ね、うささん。なんか見覚えがある流れなんだけど。何か心当たりとかないかな……?
『奇遇ですね。毎度お約束として、私も記録をしています』
周りは気付いていないようだけど、私は知っている。この流れは、あれだ。ママがテンションあげあげ状態でろくでもないことを思いついた時の行動と一致している。
――マズイ。
逃げないといけないのに、逃げ場がない……!
「選択……? まあ、マリア様ったらどういうことかし、ら……あなた、何故そのように震え上がって怯えているの? 母娘でしょう?」
ダメだ。リアもきょとんとして何も感じていない……! あの溢れ出るろくでもないことが起きそうな雰囲気をっ……!
「逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだっ…………!!」
「どういたしましたの!? 顔色が頗る悪いですわよ!」
『気にしないで下さい。いつものことです。マリアも久々で少し、興が乗っているようですね』
少し……?
「いつものことって……! 尋常な様子ではございませんわよ!?」
怯え切った私の様子に気付いてるか否か。いや、気付いてるな。それでもママはなんでもないことのように非常にも告げたのだった。
「――――今から、皆で追いかけっこ、しましょうね~?」
地獄の追いかけっこが今、開幕する――――――
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