ロストアイ

ノベルバユーザー330919

ワタクシ、トウジョウ



 控室に案内されてすぐに、別の係りのお姉さんに連行されました。

 いや、控室へ入る前に連行されたと言うべきかな?

 大人しく後ろをついていくと電話ボックスみたいな装置に入れられ、そのまま謎の煙に巻かれること数分。プシューっという気の抜ける音と共にドアが開いた。

 ……無駄に凝ってるよな。

 電話ボックスの外に出ると先程まで来ていたワンピースではなく、赤い軍服のような制服に着替えていることに気付いた。

 え、なにこれ。また謎技術?

 困惑したままでそのままお姉さんに流れるように連行され、エレベーターやエスカレーターなどを乗り継ぎ、どこかの部屋のなにやら偉そうなおじいちゃんの前まで出された。……そして、なにやら納得された。

 結局良く分からないままにお姉さんに連行され、記憶に誤りが無ければ先程入りそびれた控室の横にあった講堂へ入るように案内された。

 そして私は今、講堂に入ってすぐ案内された席に座っている。ちなみに私以外は人の気配がない。どういうこと? うささん。


『私に聞かれましても、回答に窮します。しばらくお待ちになればいかがですか』


 いや、それはそうなんだけどさ。さすがに暇でしょ? というよりなんで私以外誰もいないわけ……。


『ですから、お待ちになればいいのでは?』


 ねえ。私がジッとしていられないタイプだって知っててのお言葉?

 それにさらっと流したけどさ、私だけ明らかに違うルートでここまで連れまわされたよね?

 何なら多分偉いおじいちゃんに会ったはずなのに、目の前に出されて一回頷かれて退出ってどういうこと……?


『それは私の知るところでは、おや?』


 うささんが動きを止めたと同時に後ろで扉の開く音がした。やっと誰かが来てくれたようだ。もたれかかっていた座り心地の良いイスの背もたれを水平に倒す勢いで逆さ視点になった。


「あら。ワタクシより先にいらっしゃるなんて、どのような方かしら?」


 声が聞こえたほうにちらっと目を向けると、私と同じ赤い軍服に身を包んだ女の子が立っていた。派手な扇子を開きこちらを見下ろす目はエメラルドのような輝きを放っており、髪は薄いピンクで全体的に美少女だけどカワイイ寄りの印象。

 しかし何より私の視線が吸い寄せられたのは、――


「――縦ロールだ……!」
「注目すべきなのはそこではないのではなくて?」


 初めて見た! 綺麗に巻かれている縦ロール!

 今までに直接見たことの無い髪型に興奮してイスから飛び上がる私。ちょっと引かれてる気がしないでもない。しかしあれ、本物かな。本物とか知らないから判別つかないけど。


「それ、本物? 付け毛じゃなくて?」


 鍛えた身体能力を無駄にフル活用して一瞬で女の子との距離を詰めた。キラキラ輝く私の視線に気圧された女の子が一歩引く。私はと言えば女の子の周囲を残像を残しながら高速で回っていた。


「ですから、そこではないでしょう? そして、ワタクシのコレは本物です」


 え、嘘。マジもんなの? ちょっと疑ってたけど、本物なのか……でもそれにしては幅から長さまで左右完璧な巻き具合……。この巻きは本気度が高いぞ。


「それ、セットにどのくらいかかってるの……?」


 気になってつい呟いてしまった。独り言に近いけど、律儀に女の子が反応して呆れたように答えてくれた。何だこの子、物言いは偉そうだけどかなりお人好し臭があるぞ。


「ですから、その話題から離れなさい。大体、一〇分も掛かりませんわ……」
「――――!」
「……何故、そのように恐ろしげなものを見たような表情をしているのかしら?」


 ――おぅ、なんてこと。これが、一〇分……。

 波を作るだけでもかなりの時間が掛かると言われているのにたったの一〇分、だと……?

 どんな早業を使えばそんなことが可能なんだ……!


「……キリがありませんわね。あなた名はなんというのかしら?」


 未知との遭遇で圧巻のロールを感心しながら見ていると、話が進まないと分かったのか、女の子に名前を尋ねられた。まあ、ここまでこればこの流れはアレしかない。

 思い切ってグーサインを出しながら爽やかにテンポよく陽気な自己紹介を試みる。


「ん? アイだよ、よろしくロール!」
「ちょっとお待ちなさい。只今、聞き捨てならない語尾がございましたわ」


 あれ。選択間違ったかな。ちょっと眉を顰められた。マズイな。しかし動き出した口は止まらずに続けてしまう。


「気のせいだロール!」
「今すぐやめなさい」


 ちぇ、ダメかぁ。難しいな。……友達作りの第一歩は親しみやすいあだ名をつけることだって聞いてたのに……普通に怒られてしまった。誰だ、変な知識を刷り込んだのは。逆効果みたいなんですが。


『嫌がらせにしか聞こえません』
「……そこのウサギのほうが話が出来そうね。ワタクシはアメリア・トウジョウと申しますの。言動はともかく、ワタクシより先にいらしていた点を評価して名前を呼ぶことを許可致しますわ」


 おう、やっぱり雰囲気がお嬢様っぽいな。なんか物言いは偉そうだけど、若干頬を染めながらちらちらとこちらを伺う様子があざと可愛いので、アリです。思わずグーサインを連続だししそうなとこだったわ。首を傾げられたけど。


「おーけー、リア。私はアイ。アイ・スズキって言うよ。改めてこれからの学園生活よろしくね!」
「いきなり愛称ですのね……まあ、そこまで言うのであれば仲良くして差し上げてもよろしくってよ」


 うんうん。なんだか上手く纏ったな。良く分からないけど縦ロールに食いついたら友達が出来たようです。これって方法合ってるのかな。


『良かったですね。やれば出来るではないですか』


 いいよいいよ、気分いいから。うささんの言葉も聞き流せるよー。


「あ、あ、あなた。横に座っても、よろしいかしら……?」


 リアが照れたようにお伺いを立てる。多分、私の名前を呼びたかったんじゃないかなあ。


「いいよー。なんか、もっと引っ付きたい新妻が旦那の横に座りたくて照れてつい出た発言っぽいけど、全然いいよー」
「妙に生々しいですわね! 一言余計ですわ……」


 そう言いながらも、申し出た時より若干そわそわしながら私の隣に座るリアがあざと可愛いんですが、抱きしめてもいいですか?


『刑が軽く済むと良いのですが……』
「…………」


 やめて。まだ何もやってないから。なんで捕まる前提なのよ……いいじゃん、女の子同士なんだから。なんでそうなんでもかんでも悪役方面に持ってこうとするかなあ。


『そうですね。なるべく弁護はしましょう』


 おい。だから何もやってないっつうの! 何早まったとこまで到着してんの? しかもそこそこ進展がエグイんですけど。


「何の話かしら?」


 きょとんと不思議そうな顔のリアちゃんがあざと可愛ゆすぎる。やっぱり、抱き着いていいでしょうか?


『マリアが見てますよ』


 ――たったの一言で、邪な心が静謐な泉のごとく穏やかに静まった。

 私はその心のままに懺悔するかの如く唐突に天へ向かって信仰厚い信徒の如く祈りを捧げ始めたのだった――。

 ……お願いします。フルコースじゃなくて、前菜で勘弁して下さい。

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