ロストアイ

ノベルバユーザー330919

リハビリ生活?



『非常識ですね。さすがです。これは歴史に残る革新的な大発見となります』


 ……非常識な存在に非常識って言われてしまった。

 確かにね、よくよく聞いたら私も非常識だと思うよ?

 でもさ、空想や妄想でしかない非常識を体現した世界でまさか存在してないとか知らないよね。むしろ未だに信じられないんですけど。


「凄いわあいちゃん。これは大発見よ? とても調子がいいわ。十歳は若返ったように身体が軽いわ~。これなら空も飛べそうね~」


 いや、文字通りぴょんぴょんとアクロバティックに飛び回ってますけど……。間違いなく人間という生物の限界を軽く飛び越えてますけども。しかもここ私の部屋なんですけど。

 ……他でやってもらえません?


『これは素晴らしい世紀の発見ですので、マリアも興奮してはしゃいでいるだけでしょう』


 いやだから、はしゃいでるっていうか破壊してるっていうか……。

 とにかく。

 世紀の大発見で舞い上がってるとして、そこまでの大発見とは思えないんですけど……?


『何をおかしなことを言っているのですか』


 えぇぇ!

 何その冷たい反応!

 そこまで言う必要は無くない!?

 ……私、傷ついた。

 だって別におかしいことは言ってないよね。私は常々自分が常識的で一般の思考だって主張してますけどもっ!


『客観性に乏しい意見ですね。主観で常識は決まりません』


 めちゃくちゃ客観的な意見ですとも……!

 悪いけど、私の周りを身内びいきで甘めに評価して見たとしても十分以上に非常識の塊だよ!

 私の主張は断固間違ってないよ!


『しかし身体強化ですか。考えましたね。魔力を魔法として動かすのではなく魔力で満たすとは。元はエネルギーの塊。改善すべき点はいくつかありますが画期的ですね。飛躍的に素晴らしい効果を得られます』


 褒めてくれるのは別にいいんだけどさ、ナチュラルに主張をスルーされて複雑なんですけど。それにやっぱりそんな凄いことかなぁ、身体強化。

 魔力とか魔法って言われたら結構初期段階で思いつかない? ラノベの定番じゃん。

 それすらも思いつかないって……実は一度滅んでんじゃないの? 人類。

 ……根に持ってるわけじゃないけど数々の有名ネタもスルーされたし。


『魔法は多様性に富み、応用が効くのでもとのエネルギーである魔力をどうにか活用しようとする発想は今までされませんでした』


 いや、だからスルーですか。


「――魔法を行使する上で付きまとう課題があるのよ」
『従来、魔法は術を構築するまでに時間が掛かっていました。そしてそれを改善するため、魔法陣が開発されました』


 ――え、なんかいきなりお勉強モードに入ったんですけど。

 さっきまで人外な高速で飛び回っていたママが急に真面目に説きだしたんですけど……。

 ――どこでスイッチ入ったの!?


「魔法陣は便利よ。いちいち術を構築しなくともあらかじめ用意した陣を手動で起動するだけで同じ効果を得られるのだから。けれどあらかじめ設定した範囲外のことは出来ない融通の利かない代物なのがどうにも使いどころが難しいのよね」


 ……あの。魔法陣ってなんぞや。


『それに加え、短くなるとはいえ起動するまでに僅かながらであってもロスは発生します。魔獣との戦闘において僅かなロスも命取りになる場合が多いですので致命的な弱点にもなります』


 あ、さいですか。スルーですかい。了解しやした。

 しかしなんでそんな息ぴったりで回せるの?

 ねぇ、実は打ち合わせしてない?

 なんだかんだで実は毎回打ち合わせしてませんか~?


「特に敵に遭遇してから術が起動するまでのロスは致命的過ぎるの。それにあまりに遠くから術を起動しても回避されることがほとんど。だから敵にある程度近付ける体捌きと回避能力が重症視されるのよ」
『この身体強化を行うことが出来ればそれもかなり容易となります。さらに付け加えるのであれば、まだ検証は足りておらず確証は得ていませんが、現時点で身体の治癒能力が数値として上昇していることを確認しています』
「まあ、素敵! もしそれが本当ならいろんなところで助かるわ! さっそく授業に取り入れなくてはいけないわね!」


 ――おぉぉぅ、なんか気付いたら話がでっかくなってきているんですけどっ。

 ママ、飛んで行っちゃったし。いや、あれは飛んでるっていうか浮いてるというか……。

 ……なんでこんなことになったんだっけか。


『身体が全く動かないことに耐えられずひねり出した案を実行に移してみたのです。しかしあっさりと実用出来ましたがたまたま居合わせたマリアに見つかり、身体強化について説明したところ実は世紀の大発見であったとマリアが大喜びすることになり、早速とばかりに身体強化を実行した冒頭に戻ったわけです』


 ――ありがとう。ついさっきのことだけど、綺麗に想い出せたよ。

 ……でもやっぱりとてもそこまで凄い発見だとは思えないんだけどなあ、身体強化。


『これから研究者たちが騒ぐことでしょう。鬱陶しく群がることも考えられます。ですがマリアに任せておけば問題ありません。面倒ごとはすべからく始末してくれることでしょう』


 それ、違う意味も入ってない?

 始末って、話し合いで解決出来るものでしょうね……。

 私、信じてるよ?

 ママを信じてるからね……!


『それはそうと、調子はいかかですか? 身体強化についてはまだ未知な部分しかございませんので不調の場合はすぐに告げて下さい。念のため常に体調は測定し把握しておりますが』


 特に問題はないかな。

 うーん……。

 ああでも若干だるいけど軽く動くだけなら問題ないかも。想像してたより使えるよ、これ。


『それは何よりです。実は急速に魔力量が減っておりましたので何か不調をきたしていないのかと……魔力は尽きると命にかかわりますので……』


 ――だからっ!

 そういう重要事項は先に教えて頂けないでしょうかっ!?

 ……身体強化は速攻で解除しました。
 これってママ、分かってるのかな……?

 ――未来の犠牲者が垣間見えた気がする、七歳の秋だった。

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