ロストアイ
閑話 魔法幼女誕生秘話
――私は最終手段に出ることにした。
不治の病に侵されても平然とできた私だが、ある程度の年まで生きた前世の乙女の記憶により禁断の魔の邪法とした手法が残されていた。これだけは使いたくないと固辞してきたけれどそうも言ってられなくなった。
……ついにあれに手を出すしか私に道は残されていない――!
身体的には問題なくとも精神的にはかなりのダメージを食らう覚悟だ。
どんと来いや!
「てなわけでアレください。皆の憧れの魔法少女変身グッズ」
『そんなものは記録に存在しません。どういったものでしょうか』
――え?
これも知らないの?
プリティーでキュート。
女の子なら誰もが一度は憧れる、素敵な変身アイテムなのに……。
あれがあるだけで設定的に楽に不思議パワーが使えるようになるんだよ?
ピンチの時には愛の力とかで乗り切れちゃう物凄いアイテムなんだよ?
しかも!
敵が強くなるたびに新たな能力に目覚めるお約束付き……。着替えも勝手にしてくれてマジ便利なんだから。
『それは親切なアイテムですね。しかし話を聞く限り最終的には全てを絞りつくされ、精神的に呪われそうです』
ちょっと!?
それは別の魔法少女かな!?
完全に五歳児には見せられないほうの魔法少女だよ!
あんな鬱展開はないからね……。実は知っててすっとぼけてるんじゃないの!?
……むしろほとんどが実は内容をそこまで深く知らないんだよ、それ。
『何のことでしょう? 見解を述べたまでですが』
こわっ。
なんでそんなコワイ考察しちゃったの?
……あながち間違ってないところがさらに怖いんですけどっ。
『魔法少女変身グッズとやらはございませんが、ただの着替え道具であれば存在いたします』
もしかして魔法使えるようになる?
『ただの着替え道具です。忙しい社会人の為に作成されましたので』
ブラックな一面が今、垣間見えた気がする。
……社会の問題は時空さえ超えるのね。切ない――。
『いつ魔獣が襲ってくるか分かりませんので。特に魔導師協会特殊警戒本部(MASPH)略してマスに人気でございます』
まど……なんだって?
『分かりやすく言いますと、Magicians Association Special Predictive Headquartersでございます』
余計分かりづらいわっ!
しかも発音良いな、おい。
何の組織なの、その……まじっくなんちゃらっていうのは……。
『簡単に申し上げますと、世界的犯罪から地域犯罪まで幅広く取り締まったり、危険な魔獣の排除などを依頼として請け負う世界的組織でございます』
おぉ~。なんか急にSFっぽいな、それ。超興味あるんですけど。
――で。その変身グッズを使うと何が出来るの?
ボディコンみたいなのに服が変わるの? 誰得?
『大まかに分けますと通常の洋服の着せ替えタイプや、特殊な洋服への着せ替えタイプとございまして、細かくタイプを分けますとデザインやファッションによってあらかじめセットした洋服への着せ替えが瞬時に行えます。
ただし結構な値段がしますので一般的な日常生活ではあまり使われません 』
おぉ~それは便利。
……ちなみに着せ替える瞬間に何か叫びながらでないと変身出来ない、とか。
ポーズを決めないと変身出来ない、とか。
変身するのは一瞬だけど実はスロー再生すると素っ裸のシルエットで着替えてました、とか。
そんなことあったりする?
『何故そのようなことを気にされるかは分かりませんが、着替える際は目くらましが発動しますので素肌が見られることはございません。
特に目くらましについては発光、煙、布と他にもバリエーションが豊富で大人の女性によく売れています』
うん。いらない情報もありがとう。よく分かったよ。
……ところで聞いたことも踏まえて最初の話に戻るんだけど……。変な修行しても魔法少女になれないし、とりあえずその変身アイテムでいいから気分転換したいんだけど今持ってたりする?
『おかしいことをしていたのは認めるんですか。そうですね。着替え道具についてはマリアが複数所持していたと思いますが』
――さっそくママに借りてこようっと。
私はウキウキでママの元へと向かうことにした。
――しかし、道は険しかった。幼女にはとてつもなく、険しかったのだ……。
数々の危険なトラップを掻い潜り、何度も道を間違えては引き返しを繰り返してとうとう私は辿り着いた……パパの執務室に。
――どうして。どうしてなの、ママ!
やっとの思いでママの執務室に辿り着いたと思ったら誰もいなかったし。仕方ないから出直そうと思ったら分かりやすくプレートで"書庫に行ってます"って伝言板があったからそれを信じて反対側にある書庫まで危ないトラップを潜り抜けて行ったというのに……。
そしたら今度は食堂に、そしてまた伝言があって研究室、地下、屋上、テラス、キッチンetc……。
……返して。
私の半日返してよっ……!
ママに一言貸してって言うだけだったのに……!
結局無駄な時間かかちゃったよ!
しかも。
最後はママから借りるためだけにもう一回ママの執務室に戻って明らかにオーバーなセキュリティーとトラップを掻い潜り、そこでやっと手に入れられたんだよ!?
……どこの謎解き冒険RPGだよ。ちょっと楽しかったよ、こんちくしょー。
そんなわけで。
長く険しい道のりを経てやっと手に入れられたアイテムを片手に自室へ独り凱旋しましたとさ。
『それで変身とやらはしないのですか』
ちょっと待ってよ。かなりひどい目に遭って手に入れたんだから少しぐらい浸ってもいいでしょ!?
『…………』
――え?
時間の無駄?
『…………』
――っ分かったよ。
もう押すよ!
押せばいいんでしょ!?
ほれ! ぽちっとな!
――ぼんっ
やけくそ気味になりながら手に入れたアイテムのボタンを押す。
――おぉお!
可愛いゴスロリにチェンジしたよ!
凄いよ、これ!
……そういえばママが中身入れ替えてくれたとか言ってたな。それにしてもさすが私。なんだかきらきらと輝いて見え……ん?
「――――」
…………ん?
んんんんんっ――?
お、お、おお?
――なんか今、なんか感じたんだけど……。
……え?
これが魔法?
ぇええ?
あっさり感じられたんですがっ……!
『……そうですね。そういえば着替え道具は微弱ですが魔法の力を使いますのでそのせいかと』
おいぃぃぃっっ。
それ最初から言ってよ!
遠回りしちゃったよ!
完全な遠回りだよ!
灯台下暗しだよっ?
――何のためにあんなに頑張って変な修行をしたり無駄にトラップを掻い潜ったか分からないよっ……!
『申し訳ございません。過去の事例が少なかったもので。たった今この結果を記録致しましたので今後は問題ございません。それにマリアの居場所であれば先に私に尋ねれば調べられましたのでかなりの短縮にはなったかと思われます』
――なん、だと……。
……色々言いたいけどとりあえず一言。
マジで灯台下暗しっ!
二重の意味で灯台下暗しだったよっ!
私のあほおおおおおおおッッッ!!
――こうしてこの日、魔法幼女アイが爆誕した。
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