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ロストアイ

ノベルバユーザー330919

うささん革命



 うささん、うささん。


『……どうしたんですか。ぬいぐるみならあちらですよ』


 ――違う!

 幼女としては正しい選択だけど今は違うよ!

 ひねくれて胡散臭い人工知能に今は話しかけてるから!


『そうでしたか。それは失礼しました。最初から私に話しかけてくるとは天変地異の前触れですね。どういった風の吹き回しでしょうか』


 一々失礼極まりないな。

 普段からたくさん話してあげてんでしょ!

 私の広くて深い優しさに感謝しなさいよね。


『それでご用件は何でしょうか』


 無視か!


『それでご用件は何でしょうか』
「…………」


 ――思わず見えないにも関わらず、拳を握って虚空を殴ってしまった。

 届かない感触が実に口惜しい……。

 ――やりにくい。相手が見えないなんて。

 そうなのだ。

 今まで気にしないようにしていたんだけど、やっぱり何もない空間に向かって話しかけるのって結構精神的に来るものがあるんだよね。

 特に言い逃げされるとなおさら、ね?

 実体のないものに話しかけられたり話しかけたりってこう、むずむずっとするというか。自分の精神状態を疑ってしまうというか……。

 もしかしたら自分自身で人格を造って会話をしているんじゃないかって不安になるんだよね……。

 だからさ、実体化とか出来ないの?

 ――まあ、私がやりにくいから出来なくてもどうにか実体化して欲しいんだけど。


『実体化、ですか。依代があれば出来ないこともないですが』
「え、できんの……?」


 でも依代ねぇ……。

 それって何か必要な条件とかあるの?


『決まりは特にありません。それぞれの人間の趣味趣向によって与えられる依代は違いますので』


 ふーん。

 ――ん?

 ……それぞれ?

 それぞれってどういうこと……。

 ……もしかしてその依代に移してってのは世間じゃ珍しいことじゃないの?

 それならそうと先に言ってよ!


『自らの身体を切り離す作業に等しいので、実際に依代移行している方は珍しいといえば珍しいですね。

 しかし存在しないわけではありません。すでにご存じかと思いますが、一般的にAIは人間それぞれに必ず一つ与えられます。そしてその人間のためだけにAIは生涯を共にするのです。

 その人間が逝去すれば共にいたAIは共にした生涯の記録をデータとしてすべてのAIに共有します。そうして保存されたデータは重要度によって閲覧権限が必要となります。こうした繰り返しでAIは学習をしています』


 ふむふむ。

 ――ん?

 それならもしかしてうささんも……?

 ……え、赤ちゃんなの?

 普通に会話してるけど生後三ヵ月も経ってないの……!?


『引っかかったのはそこですか……いえ、間違いではないですが。

 ただし赤子の状態であっても共通の基本情報と機能は搭載されています。

 依代への移行は危険な行為に該当しますので、理由が無い限りは通常十代以降からでないと実行できないものです。

 ですが今回の場合は精神年齢上問題ありませんので実行自体は望めば可能です』


 へー。それならある程度は納得かも。
 説明を聞く限りだと適当に好みで用意してもいいの?

 制限はまったく無いの?


『特にございません。お好きにご用意ください』


 そっかそっか。何でもいいわけね。

 ……それならちょうどいいのがあるよ。

 というよりかちょうど目についただけともいうけど。何気なく視界に入っちゃってもう運命としか思えないんですけど。

 頭にぴこーん! と閃きマークが出ちゃったよ。これ、決定よね。

 ――これ以上ないほどにしっくりとくる依代、発見!

 緩やかに曲線を描くボデー、光り輝くクリッとまん丸のお目め。ぷにぷにとしていて不思議といつまでも触っていたくなるお肌――。

 所々見せるデザインがキラリとセンスの光る。とびっきりのチャームポイントは大きなお耳だと私は確信する。

 そしてこれ以上ないほどに無感情を伝える、きゅっと閉じられたお口。その姿は世の女子の心をぐっと掴んで離さないだろう――。

 ――決めた。私この子に決めた!


『決まりましたか。しかし移るためには時間がかかります。先に許可を取って下さい』


 許可……?

 何の許可が必要なの?

 依代が決まったら、ホイッてすぐ移れるんじゃなかったの?

 それに、誰に許可を貰えばいいの。


『色々と調整がございまして、どうしても時間は掛かります。その間AIと一緒に眠ってしまいますので調整開始する時期を決めなければなりません。

 現在はマリアが教育をしていますのでスケジュールによっては先延ばしになる可能性も考慮せざるを終えません』


 ――え、一緒にって……私もってこと!?

 しかも許可って……ママなの?


 ……確かになんだかんだと色々とお勉強のスケジュールが詰まってるっぽいこと言ってたし。期間は知らないけど長く眠っちゃうんならママに確認しないと怒っちゃうよね……。

 ……別に、地獄の勉強スケジュールから解放されるとか思ってなかったんだからねっ。

 ――断じて。

 断じてあまりの内容にそろそろ七変化な進化を遂げそうだから逃げようとか思っている訳ではないんだからねっ……! 察してよ。


『どちらにしても調整後は身体を慣らすための時間も含め月単位で時間がかかりますので、早めに話を通しておく必要があります』


 そんな掛かるの……。

 なんか思ってたより時間とかリアルっぽい。実はうさえもんも裏で語られることの無い苦労してたのかなとか考えちゃうよね、うん。

 ――てなわけで。

 早速ママのもとへ向かいます。というよりそもそもがそろそろお勉強の時間だったから現実逃避気味になっていただけで、その時にたまたま思いついたことがあったからうささんに質問してみただけだったりするんだけどね……。

 ――いざ、部屋の外へ飛び出さん……!

 近頃徘徊するようになった迷宮みたいな家も、ここ最近ママとのお勉強で経路を死ぬ気で覚えました。だって道を間違えると色んな意味で間違ったところに出ちゃうんで。ほんと。

 ……道を間違えた気がするな。色んな意味で。

 しかしママのもとに辿り着くには毎回いくつか違う手順を踏まなければいけない。セキュリティーがありえないほど厳しいのだ。

 今考えれば、記憶が戻る前だった頃に自分の部屋を出たのは軽率だったと身に染みる。良く無事でいられたな、私。

 ちょっとでも道を外していようものならさらなる地獄を見ていただろう……。いや今も十分感じてますけども。それもママとか監視する大人が居るか居ないかで大分違うとは思うけどね。

 今更ながら過去の自分の行動にしたたる冷や汗を感じ、次々とトラップを回避。セキュリティーのロック解除をしていく――。

 ――トラップとかマジでなんなの?

 なんでここに住んでるのに回避が必要なんだとか思わないでも無いけど、これも必要なことらしい。というよりママに聞いたらそれはもうニッコリと、「修行と防犯、一石二鳥でしょう?」としか言わないし。

 どちらかと言えば修行に比重が偏っているなとは思わないでもないけど、そこはそこ。

 確かに最近は身体が想像しているような動きが出来るようになってきてちょっとだけ楽しくなってきました。

 ……だってしょうがないでしょ。

 漫画でしか見られないようなアクロバティックな動きが出来るのがこんなに楽しいとは思わなかったんだもん。

 最初は心底嫌がっていたけど、なんだかんだと今はかなりお勉強にはまってます。

 ……ただそんな私の順応っぷりを見てママも詰め詰めにスケジュール組んでたっぽい。

 ……許可を貰うにしても時間がかかるか、もしくは厳しい条件達成が要求されるかはするだろうな。うささんが許可取れって言うぐらいだし。ママ怖いし。

 そんな感じでトラップを突破していき辿り着いたのはママの研究室。もう目前だ。いつも道順が変わるから毎回時間が掛かるのが難点です。

 ちなみにどうでもいいけどパパの執務室は直通のエスカレーターがあるので危険無くたどり着けます。……おかげで私の部屋の惨事に繋がってしまったわけだけど。

 ――くっ……!

 安易に辿り着けるような場所でなかったら私も不用意な思い付きで行動しなかったというのに……!

 過去の自分の行動を反省しながら部屋を散策し、やっとママの元に辿り着いた。何やら作業中のママを発見したのでツカツカと歩み寄る。

 ……気配で来たのはバレバレなので気にせずに背後から話しかけます。

 ――ここでポイント。

 あまりにも分かりやすく近づくと今後のお勉強時間が過酷なものになるので、極力気配を消して近づきましょう。足音は立てず、けれど普通に歩いているようなスピード感に見えるのが肝要なのだ。


「あ、ママ。今度うささんを実体化したいんだけど……時間が相当掛かるらしいし、お勉強もストップしちゃうんだけど。いい……?」


 最近は特に嬉々と教えてるから、怒るかな?

 ついさっきいきなり思いついたことだし、笑顔で例の場所に投げ込まれるくらいはされそうかも。……あ、ヤバい。やっぱ取り消していいかな。


「うささん? 実体化? ……なるほど。アレのことね。いいわよ」


 ――なんと。速攻で許可が出ました。

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