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ロストアイ

ノベルバユーザー330919

効果はバツグンです



 ――幼女の出来ることといえば意外と少ないものだ。

 まず間違いなく周りへの癒しサービスの提供である。

 ――てくてく歩き転ぶ。

 そしてここぞとばかりに目をうるうるさせる……!

 萌えぇ~――!


『足元が疎かとは。前世の自己管理の甘さが引き継がれているのでしょうか。貴重なデータです』


 ――次に、お絵かき。

 ここでポイントになるのは身近なものを絶妙に、アンバランスで芸術的に、色でなんとなく誰が誰かを判別できるように描くことである。


『ただ壊滅的に絵が下手なだけでは?』
「…………」


 ――そして、これが一番重要。

 ……そう。幼女の最終兵器。

 ――おねだり、である!

 ……これに屈しないのは実の母親くらいだろう。

 特に引っかかりやすいのは父親だ。次に祖父母、親戚、知人、と幅広く有効な匠の技である。


『確かに。過去の記録で統計が取れているようです』
「でしょう? 兵器はすべからく有効なのですよ……!」
『それでこの惨状ですか。効果はバツグンですね』
「…………」


 ――のぉぉおお……。

 ……そうだった。現実逃避してる場合じゃなかったんだ。

 そうなのだ。私は今、浅はかだった過去の自分を振り返って反省していたんだった。元の原因は私だが、パパも原因だ。

 私は浅はかにも。浅はかにもパパの前で幼女の必殺技三連コンボをお見舞いしてしまったのだ。

 マジ、やっちまった。

 ……おかげで私の癒しのマイルームが大変貌を遂げてしまったのだ――。


『流れるプールを満喫していて、満更でもなさそうに見受けられますが』


 私は安全性が考慮され水深が浅いプールを浮きわ一つで流れていた。いや、流されていた。……このまま時代の波にでも乗ってどこまでも流されていきたい……。

 どんぶらこ~、どんぶらこ~、浅はかだった私の頭を誰か割っておくれ~。

 ……出来るならば過去の自分の頭を叩きたいっ!


『タイムスリップですか。不可能ではないですが、現在は非効率的なため一般的ではありません』


 出来るんだ……。

 これはうさえもんの実現も夢じゃないね。

 ――て、そういうことではなくて。

 流されるな、私。ここで流されたら誰がツッコんでくれるというのだ……!

 まあ、現在進行形で物理的に流されてるけどね。


『流れが速くて出られなくなったのですか』


 言わないでっ……!

 幼女の手足はひ弱なのよ……。

 バタ足なんてただの虐待なのよっ!

 目の前にあるはずの陸が遠い――。

 ――恐るべし、幼女の非力。


『流れを止めますか?』
「最初からやれよ! 無駄に体力消費しちゃったでしょ!?」


 ぜぇ、ぜぇ、と荒い息を吐きながら言っても虚しく私の声が部屋に反響するだけ。

 ――なんて。なんて虚しいんだ……。

 ……やるせない。


『AI使いが荒いですね。……はい、直に止まります』


 しばらくして流れが止まったので出ようとしたけど、浮き輪が邪魔で手が届かず、出られない。


 ――やむなく。やむなくうささんがクレーンを操作して私を魚のように水揚げしてくれた。……なんで網で引き上げられにゃならんのだ……。

 ……ぐすんっ。鼻水が垂れた。


『風邪を引きます。すぐにタオルで拭いて着替えて下さい。もう十分、遊び尽くしたでしょう』


 市場調査と言いなさい。

 私はただ、世の子どもの代わりに試しただけさ……この、目の前に見える虚実の世界の実在を……。

 というかあんたは私のママかっ?


『似たようなものです。否定はしませんが一つ訂正を。私たちに性別は存在しません』


 どうでもいいわっ!

 そんなこと。

 ……それに流されたし。何がとは言わないけど、流されたし……。

 って、だから問題はそこじゃなくてこの部屋だから!

 思わず健全な子どもの本能的に飛びついてしまったけど、冷静になればなるほど常識的におかしいよね、この部屋。


『もともと一般家庭とは掛け離れていますが』


 そういう正論はいらないよっ!

 そういうことじゃないって分かってんでしょうが!

 ……この時代の一般家庭は知らないけども、ウチが異常なのはなんとなく分かってるんだからね……!


『不思議です。自らに精神的なダメージを与えるなんて。変わった生態だったのでしょうか。大変興味深いです』


 逸らさないで。これ以上、話を逸らさないでっ……!


『逸らした覚えはありませんが。……このままでは不毛に終わりそうですね』


 もう、いいからさ。とりあえずどうすんのよこの部屋のありさま。もう部屋じゃなくてテーマパークだけど。どうみても遊園地だよね。なんなら水族館もついてるよ?
 なんでこんな、一晩経っただけで、大改造されちゃってんの?

 前まではぬいぐるみに埋め尽くされたいかにも女の子っぽいピンクフリフリだらけのお部屋だったじゃないの。一回寝て起きただけなのにどうなってんの、これ……。

 全然、気付かなかったよ……?

 もはや、理解不能なんですけどっ――!?


『現代建築の美学ですね。一夜城を築くことが出来てこそ初めてプロの資格があると認められるようです。そのため給料は歩合制のようですが』


 意外とシビアだった!

 ……別に知りたくなかったその情報。
 でも、おかしいとか言ってごめんね!
 わたしの迂闊な発言でおかしな仕事させてごめんね!

 たった一晩で、寝てる幼女のすぐ横でどうやったかはまったくの不明だけど、大変だったのは伝わってくるよ。うん。大満足です!

 むしろおねだりごときでこんな仕事を要求して、おかしいのウチのパパだったよ!

 重ね重ねごめんなさい……!


『過去、娘が父親にされて嫌なことランキングでは「想像していたのと違う方向でサプライズとして喜ばせようとしてきたとき」が最高で十二位にランクインしています』


 ――何、その微妙な順位。そこはかとなくリアルっぽいよ、そこの位置。


『時代が変わろうと父親の勘違いは変わらない、という教訓ですね』


 ――何ちょっと、カッコいいこと言いました、みたいになってんの?

 全然だからね!

 むしろただただ世の可哀想な勘違いしたお父さんたちを貶しただけだよね。

 え?

 教訓って、誰に対して?

 お年頃な娘に嫌われて傷心な世の哀れなお父さんたちのための?

 そういう態度が嫌われる原因だって分からないのに……?


『……そこまで言っていませんが、どうやら効果はバツグンですね。新手の精神攻撃として記録しました』


 ……え?

 なに、がっ――!?


「…………」


 ――ぱ、ぱぱぱぱ、パパ……!?

 なんでそこで仰向けになってんの!?

 何。もしかして泣いてんのっ?

 え、男泣き?

 ――ん?

 ……雨。


「…………」


 んなわけあるかっ。ここは室内だバカヤロー……。


『ブツブツと声に出ていましたよ。ちょうど「おかしいのウチのパパだったよ!」あたりでいらっしゃっていました』


 ピンポイントでダメなとこから……!?

 なんでそこで来たのよ、パパ……。

 そしてまるで録音したかのように声が私そっくりね、うささん。


『私を認識されたときから全て録音させていただいています』


 え……。

 ――それって声だけ、だよね……?


『声の記録だけでは不十分です。私に抜かりはありません。思考を含めて記録は完璧ですよ』
「…………」


 見えなくともとても誇らしげにおっしゃっているのが分かりますとも。ええ。

 ……でもね?

 ――色んな意味で効果はバツグンだ……!

 お願い、誰か代わって……!

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