近距離魔法使いの異世界冒険記 ~妹と二人で転生しました~

駄菓子オレンジ

第4話 いざ、初魔法

 私と母は今、本屋にいる。それほど大きくはないが、置いている本の種類は少なくない。

「エンシーはどんな本が欲しいの?」
「うーん、お母さんみたいに魔法が使えるようになりたいから、魔法の本かな」

 せっかく魔法がある世界に来ているのだ。使わないともったいない。

「あら、私を目標にしてくれてるのね。嬉しいわ。じゃあ、探しに行きましょうか」

 母は、魔法使いの職業を貰っていた。スキルで敵を止めて、その間に倒すというのが母の戦闘スタイルだったようだ。強い敵だとスキルがきかないこともあるけど、それでも倒せるほどの腕があったらしい。
 目当ての本はすぐに見つかった。というか、この世界の本はほとんどが魔法関連らしい。

「この本とかいいんじゃないかしら。魔法の基礎が、わかりやすく詳しく書いてあるわよ」
「お母さんがそう言うなら、それにする」

 魔法に関しては、母に任せた方がいい。私とエイリーは無知だし、父はあまり魔法を使えない。
 買った本は、家に帰ってからエイリーと2人で読むことにした。



 家に帰ると、エイリーは既に料理を始めていた。

「あ、おかえりー。お母さん、エンシー」
「うん、ただいま」
「……」

 父はなぜか、ぼーっとエイリーを見ている。

「お父さん、どうしたの?」
「……あぁ、すまん。エイリーがすぐに使いたいと言い出したから、適当な野菜を切ってもらっているんだが、どうも初めての動きには見えなくてな」

 私には、普通に見える。むしろ、少しぎこちないくらいだ。

「本当に上手ね。これからは手伝ってもらおうかしら」

 母までそう言うなら、本当に上手なんだろう。普通に見えたのは、前世での愛百合の動きを見ていたからかもしれない。

「エイリー、手伝ってくれる?」
「うん、もちろん!」

 エイリーは、心なしか嬉しそうだ。

「エンシーも手伝う?」
「うーん、私はいい。包丁とか、上手く使えなさそうだし」

 前世でも、包丁は上手く使えなかった。練習すればマシにはなると思うけど、それだけだろう。

「そう?まぁ、双子とはいえど、得意不得意はあるわよね」

 どうやら、納得してくれたようだ。無理強いをするような、嫌な両親ではないのだろう。

「あら、そろそろお昼ご飯の時間ね。お昼ご飯は、エイリーが切ってくれた野菜でサラダを作って、あとはパスタでいい?」
「いいぞ」
「うん、いいよー」
「大丈夫」

 この世界の料理は、元の世界の料理とあまり変わらないようだ。使っている材料は少し違うけど、味の差はほとんどない。

「それじゃあ、早速手伝ってくれる?」
「うん、わかった」
「あ、エイリー」

 1つ言い忘れたことがあったので、エイリーを呼び止めた。

「お昼ご飯食べ終わったら、この本一緒に読もう」
「うん!何の本?」
「魔法だよ」
「面白そう!それじゃあ、急ごっか」

 そう言って、母とエイリーはキッチンへ入っていった。



 この家は、私たちが今いる寝室の隣がリビングになっている。
 寝室でエイリーと本を読んでいると、リビングから話し声のような音が聞こえた。

「……?エイリー、話し声しない?」
「そう?私にはわからないけど……エンシーが今、聴力強化ちょうりょくきょうかの魔法を使ってるからかな」

 そう、私たちは本に書いてある通りに、順番に魔法を試していっているのだ。
 私は大体発動しているが、エイリーはほとんど発動せず、つまらなさそうだ。

「なんて言ってるかわかる?」
「まぁ、ほとんど聞き取れる」

「なあ、ミエン」
「どうしたの?」
「あの二人、5歳になって急に成長してなかったか?」
「うーん、私には今まで通りに見えたわよ」
「見た目の話じゃなくてだな。俺には、急に5歳にしては難しい言葉を使い出したり、包丁の使い方がとても上手かったりしたのが気になってな」
「子供の成長は早いから、そう見えたんじゃないかしら。……とは言っても、私もそう感じたけど」
「だろ?それがなんだか、放っておいてはいけない気がしてな」
「私は気にしないでいいと思うわよ。子供の成長は素直に喜ぶべきだと思うから」
「……そうか。たしかにそうだな。これ以上は考えないでおくか」
「それが一番よ」

「だってさ」
「……ねぇ、もうちょっと5歳らしく振る舞うべきだと思う?」

 エイリーが深刻そうな顔で聞いてきた。

「私はこのままでいいと思う。こうやって思われてから慌てて直しても、不自然なだけだろうし」
「それもそうだね」

 エイリーは少し安心したような顔で頷いた。

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