彼処に咲く桜のように
五月二十六日(五)
「その人、いないね……」
「ここで少し待つぞ。俺の予想が正しければ、恐らく今日来るはずだ」
体育館裏の壁に隠れつつ、横目で花壇を見つめている。じめじめとした体育館裏は、長居出来るほど気分の良い場所ではなかった。しかし、それぞれが勝手について来た手前、誰も文句は言わなかった。やがて沈黙を破ったのは、複雑そうな表情のさくらだった。
「あの、あの、誠司君。昨日……倉嶋さんと何を話したの?」
「────ウチが告った。んで、断られた。そんだけ」
誠司の返事を待たずに、咲はふいっと顔を背けながら腕を組んだ。そんなそっけない返事を聞いたさくらは、誠司へと改めて視線を向ける。誠司は目をつむりながら、答えるようにゆっくりと頷いた。
「おい大月、もしテメェがまだウチと秋元の関係疑ってんなら、それテメェが理由でウチの告白断った秋元に、超絶失礼だかんな?」
別に誰と付き合っていなくとも、断ってただろうがな。まあ……たまにはまともなことも言うじゃないか。
「そ、そっか。ごめんね、誠司君」
「謝るな。きっとこういう関係な以上、心配するのは至極当然なんだろう」
誠司と咲の関係に対するやきもちで、さくらは自身の中に、誠司への純粋な興味以外の何かを感じていた。人生で初めて味わう感覚に、内心動揺していた。
「まっ、ウチはまだ諦めてないけど!」
「諦めてないんかいっ」
太一の鋭いツッコミが決まったところで、誠司が唇に指を当て「シッ」と短く言った。皆の表情が一気に引き締まり、緊張感が場を支配した。
誠司を含めた三人が次々に花壇を覗き見ると、誠司の予想は的中していた。御影が花壇の周りをうろついている。駆け出そうとする咲を、誠司が手で制した。
「まだだ。俺の上履きを取り出してからだ」
「御影君だったんだ……」
やがて御影は周囲に人がいないことを確認すると、手に持っていた園芸用の小さなスコップを花壇へと、苛立ちを発散するようにして豪快に突き刺した。
人が来ることを警戒しているのか、しきりに左右を見回しながら、スコップで素早く土を掘り返している。
「でも誠司君、どうして犯人が御影君で、取り出すのが今日だって、わかったの?」
「俺が宮沢に絡まれたのはわざとだ。あの靴下姿をバカにされている時に、より喜んでいたのが奴だった。それで俺は御影に目星を付けた。だから昼休み中、わざわざ御影のいるところを見計らい、大声で犯人探しを宣言したというわけだ」
「やっぱりなー。わざわざ教室と下駄箱を中心にって詳しく言ったのも、まだ気がついていないフリだわな。まあ、まさかあの誠司が、一念発起して犯人探しするとも思わなかっただろうし、焦らす要因の一つになったわけか」
「万が一証拠でも集められて、問い詰められたりでもしたら面倒。報告次第では大切な進路にも関わるかもしれん。今のうちに花壇から絶対に見つからない場所へ移動させる目的だろうな。最後に残っている疑問といえば、あらゆることに関して、何故そこまでのリスクを冒す必要があるのか、ということだけだが」
「御影君……」
三人が話している間、咲だけは理解が及ばなかったようだった。首を傾げて、眉をひそめている。
「要するに、ぶっ潰せば良いってことっしょー?」
「……お前の能天気さが羨ましくなる」
「ここで少し待つぞ。俺の予想が正しければ、恐らく今日来るはずだ」
体育館裏の壁に隠れつつ、横目で花壇を見つめている。じめじめとした体育館裏は、長居出来るほど気分の良い場所ではなかった。しかし、それぞれが勝手について来た手前、誰も文句は言わなかった。やがて沈黙を破ったのは、複雑そうな表情のさくらだった。
「あの、あの、誠司君。昨日……倉嶋さんと何を話したの?」
「────ウチが告った。んで、断られた。そんだけ」
誠司の返事を待たずに、咲はふいっと顔を背けながら腕を組んだ。そんなそっけない返事を聞いたさくらは、誠司へと改めて視線を向ける。誠司は目をつむりながら、答えるようにゆっくりと頷いた。
「おい大月、もしテメェがまだウチと秋元の関係疑ってんなら、それテメェが理由でウチの告白断った秋元に、超絶失礼だかんな?」
別に誰と付き合っていなくとも、断ってただろうがな。まあ……たまにはまともなことも言うじゃないか。
「そ、そっか。ごめんね、誠司君」
「謝るな。きっとこういう関係な以上、心配するのは至極当然なんだろう」
誠司と咲の関係に対するやきもちで、さくらは自身の中に、誠司への純粋な興味以外の何かを感じていた。人生で初めて味わう感覚に、内心動揺していた。
「まっ、ウチはまだ諦めてないけど!」
「諦めてないんかいっ」
太一の鋭いツッコミが決まったところで、誠司が唇に指を当て「シッ」と短く言った。皆の表情が一気に引き締まり、緊張感が場を支配した。
誠司を含めた三人が次々に花壇を覗き見ると、誠司の予想は的中していた。御影が花壇の周りをうろついている。駆け出そうとする咲を、誠司が手で制した。
「まだだ。俺の上履きを取り出してからだ」
「御影君だったんだ……」
やがて御影は周囲に人がいないことを確認すると、手に持っていた園芸用の小さなスコップを花壇へと、苛立ちを発散するようにして豪快に突き刺した。
人が来ることを警戒しているのか、しきりに左右を見回しながら、スコップで素早く土を掘り返している。
「でも誠司君、どうして犯人が御影君で、取り出すのが今日だって、わかったの?」
「俺が宮沢に絡まれたのはわざとだ。あの靴下姿をバカにされている時に、より喜んでいたのが奴だった。それで俺は御影に目星を付けた。だから昼休み中、わざわざ御影のいるところを見計らい、大声で犯人探しを宣言したというわけだ」
「やっぱりなー。わざわざ教室と下駄箱を中心にって詳しく言ったのも、まだ気がついていないフリだわな。まあ、まさかあの誠司が、一念発起して犯人探しするとも思わなかっただろうし、焦らす要因の一つになったわけか」
「万が一証拠でも集められて、問い詰められたりでもしたら面倒。報告次第では大切な進路にも関わるかもしれん。今のうちに花壇から絶対に見つからない場所へ移動させる目的だろうな。最後に残っている疑問といえば、あらゆることに関して、何故そこまでのリスクを冒す必要があるのか、ということだけだが」
「御影君……」
三人が話している間、咲だけは理解が及ばなかったようだった。首を傾げて、眉をひそめている。
「要するに、ぶっ潰せば良いってことっしょー?」
「……お前の能天気さが羨ましくなる」
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