エタニティオンライン

足立韋護

愛情の鉄格子

────そんな内容の話をされた俺は、ひたすら理解しようと努力した。


 いや、理解なんて出来るわけない。これはきっと、俺が『普通』だからだ。


「どうして、ここまでする? 愛情がそんなに大事なのか?」


「……大事だよ。愛をたくさん感じたい。私は、アキから愛されたい。アキを愛したい」


 水戸の姿をしたクオンは、顔を赤らめながら、隣のアキを愛おしそうに見つめる。そのまま、じりじりと顔を近づけてきた。


「ま、待ってくれっ!」


 アキは瞳を強く閉じながら、クオンの肩を押しのけて立ち上がった。クオンは口を開けながら、呆然とアキを見上げる。


「愛し合ってもないのに、こういうのはダメだ。それより今は話し合おう?」


「私を拒否するの?」


「え? い、いや、そうじゃないんだ! ただ時間が欲しいだけなんだ」


 アキの弁明にも耳を傾けないクオンは、ぶつぶつと何か呟きながら、何もない場所で高速のタイピング操作し始めた。
 アキが顔を歪めて退いていると、突如その周りに、二メートル四方ほどの鉄格子が出現した。床から天井まで、抜ける隙間のない黒鉄は、冷たく黒光りしている。
 一部分のみ鉄格子の扉があったため、アキが開こうと試みるが南京錠が取り付けられ開けることは叶わなかった。


「そうだね……アキの心を邪魔してる人がいる限り……やっぱり……」


 クオンはそう呟きながら部屋中をしばらく歩き回ると、ピタリと止まった。途端、くるりとアキへ笑顔を向け、「ちょっと待っててね!」と言い放った。
 水戸の姿からクオンへと変身してから、デバッグモードを起動させ、慣れた手つきでワームホールを開くと、悠然とどこかへ去っていった。


「どこへ行ったんだ……? もし、テンマ達のとこへ行ったのなら、早くメッセージで警告を!」


 アキはメニュー画面を開き、指で操作しようとするが画面は一向に反応を示さない。いくら、指で押そうがスライドしようが、どうにもならなかった。
 試しにスキルメニューも呼び出したが、同様にスキルの選択も、実行すらできない。


「さっきまで出来てたのに! なんでっ!」


 アキはふと周囲を見回し、「これのせいかよ……」と床にへたり込んだ。鉄格子で作り出した空間では、メニュー画面の機能やスキルを制限されるようであった。


「……テンマ達、ログアウトしてくれてるかな。青龍なんかはサバサバしてるから、率先してログアウトしそうだ……はは」


 アキは力なく笑った。自分の無力さに、腹を立てることもバカバカしくなり、大の字で横になった。
 その時、微弱な電気音とともに再びワームホールが開かれた。中から勢い付けて飛び出してきたのは仮面をつけた女、オルフェであった。床に転がってから起き上がり、周囲を見回している。


「オルフェ……! どうして!」


「アキさん! ここはどこですか? それにその檻!」


 ワームホールからは、オルフェの後をクオンが追うようにして帰ってきた。オルフェを運ぶためか、左手は素手だった。兜を消し去ったクオンは、笑顔でアキに手を振った。


「アキー! お土産持ってきたよー!」


 アキは眉をひそめ、檻を掴みながらクオンへと視線を向けた。


「なにをする気だ!」


「オルフェ、あなたの正体、アキに言ってあげなよ」


「正体……?」


 アキはクオンからオルフェへと視線を移す。オルフェは俯いて黙り込んでいる。


「アキを待たせるなぁッ!!」


 怒りを露わにするクオンが乱暴に髪の毛を掴み上げた。


「この偽物の髪の毛と、その仮面を外せって言ってるんだよ! 早くしろ!」


「い、痛い……!」


「クオン! 痛がってるだろ、やめろ!」


「いつもいつもこいつのことばっかだね! アキはさぁ!」


 オルフェが装飾品の髪の毛を装備から外すと、地毛である茶色く短い頭髪が現れた。


「仮面はぁ!」


 クオンの怒声に肩をすくませながら、オルフェはおずおずと画面を取った。
 にやけたクオンは髪の毛から手を離し、アキは眼を大きく、大きく開いてオルフェの素顔を凝視した。


「なんで……?」


「騙すようなまねして、ごめん……」


「なんでここにいるんだ────」


 絶対にいるはずないのに。
 絶対にこの場にいちゃいけないのに。






「────久野さん」





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