エタニティオンライン
運営の最終関門
────SMPの解除された小屋には、一台のノートパソコンが置かれていた。
「こんなもんがあるだけ成果だねぇ~。やれやれ」
刑事平川のため息を聞き流しつつ、電源が付いていないことを確認した相良良太は、それを持ち上げ裏側を見た。
平川は隣で訝しげにノートパソコンを眺めている。
「随分旧型だ……。バッテリー、残ってるか?」
良太が電源を入れる。表示された壁紙を見た平川は「おぇ……なんじゃこりゃぁ」と呟いた。
壁紙は何かの幼虫だろうか、土の上に転がる白く小さな芋虫の画像であった。手前のレンガから花壇の土に乗る幼虫であることがうかがえる。
ノートパソコンの中には別段特別なデータは入っていなかった。強いて挙げるならば、壁紙に使われた幼虫の画像データだけである。
「これに何の意味が……」
よく見ると、幼虫の右上の土に何か刺さっている。
「苗札? 色々書かれてる。何かの記念に植えられたやつか」
平川も身を乗り出して苗札を読む。
「『新戸井高校』って書いてあるねぇ。この高校、知ってっか?」
「いや……いや! 知ってる!」
「どっちだい」
「修の妹がこの学校の関係者だ! でもどうして……」
平川は膝を手で支えながら立ち上がった。
「行ってみりゃあわかんだろぉ! 一応真田さん連れて行くとすっか」
────向かった先の新戸井高校に騒がしい様子はなかった。
校舎には生徒が補講に来ており、校庭では生徒が部活動に励んでいるだけであった。
ごく一般的な、夏休み中の学校という印象だ。
「こ、ここ……何か関係があるの?」
明らかに動揺した様子の京子に、良太と平川は首を傾げた。
京子は双眸を見開き、校舎に視線を釘付けにされている。
「んまぁ~少し、ですがね。何か?」
「息子の、学校よ」
良太と平川は目を合わせてから、再び京子の動揺している表情に視線を戻した。
校門前のチャイムを鳴らすと学校に残っていた教頭の那須と名乗る男性が出た。
良太、平川、京子の三人と、付き添いの警官一人が招かれるまま職員室へ入ると、教頭であろう白髪の年老いた男性が立っていた。
物腰は柔らかそうだが、警察の突然の来訪に不安を隠しきれていない。
平川と警官が警察手帳を見せて話し始めた。
「突然すみませんねぇ。ちと捜査に協力してもらえませんか」
「もしやうちの生徒が何かしましたでしょうか?」
不安がっている那須に、平川は「いやいや」と前置きしてから本題に入った。
「卒業生の名簿、データベースで管理されてますよねぇ?」
「まあ、はい」
「少し検索していただけませんか。お手を煩わせるようであれば、私共で勝手にやりますが」
「ああ、調べますよ。どなたを検索しましょう」
那須は即座にディスプレイを立ち上げ、キーボードに手を置いた。
「西倉修、という名前なのですが」
途中までタイピングしていた那須はピクリと手を止めた。まだ結果画面を出てきていない。
「西倉……西倉……。ああっ! あの変人カップルの!」
思わぬ発言に、良太は「はあ?」と間抜けな声を出した。
「あーはは、失敬。昔私が担任していたクラスの生徒だったんですよ」
「修が、ここの卒業生ってことか!」
「ええ。ええと、理系の西倉と、文系の……えーと、織田、じゃない織笠! そうこの二人が、当時校内じゃあ有名なカップルでしてねぇ。二人も変人カップルという呼び名を気に入っていたようで、色んな人からそう呼ばれていたわけです」
懐かしんでいるのか、那須は腕を組んで幾度か頷いた。
「西倉、その彼女、真田さんの息子さん、そして西倉の妹……全員この学校に関連がある。なんの運命かねぇ」
「えっとじゃあこの方、ご存知ですか?」
良太はポケットに入れていた修の個人情報の書かれた紙を差し出し、修の妹の名前を指差した。
「ああ、そりゃあもちろん! ここの教師ですから。まあ不慣れながら、生徒さんに支えられつつ頑張ってますよ」
「関係者って、教師のことだったのかよ……。ちなみにこの方、夏休み中は?」
「まあ夏休み中は授業もなく、本人は出不精のようなので自宅にいるかもしれませんね」
良太が意味ありげな視線を平川へ向けると、「家はもぬけの殻」と疲れた様子で返答してきた。
────その後、例の花壇を見せてもらうと、紙切れの入ったプラスチックの小袋が目立たないように土に差し込んであった。
その紙切れには『最終関門だ』と書かれてあり、その下にはゼロとイチのみの数列が並んでいる。
「二進数、これで最後か。信じるぞ、修」
「こんなもんがあるだけ成果だねぇ~。やれやれ」
刑事平川のため息を聞き流しつつ、電源が付いていないことを確認した相良良太は、それを持ち上げ裏側を見た。
平川は隣で訝しげにノートパソコンを眺めている。
「随分旧型だ……。バッテリー、残ってるか?」
良太が電源を入れる。表示された壁紙を見た平川は「おぇ……なんじゃこりゃぁ」と呟いた。
壁紙は何かの幼虫だろうか、土の上に転がる白く小さな芋虫の画像であった。手前のレンガから花壇の土に乗る幼虫であることがうかがえる。
ノートパソコンの中には別段特別なデータは入っていなかった。強いて挙げるならば、壁紙に使われた幼虫の画像データだけである。
「これに何の意味が……」
よく見ると、幼虫の右上の土に何か刺さっている。
「苗札? 色々書かれてる。何かの記念に植えられたやつか」
平川も身を乗り出して苗札を読む。
「『新戸井高校』って書いてあるねぇ。この高校、知ってっか?」
「いや……いや! 知ってる!」
「どっちだい」
「修の妹がこの学校の関係者だ! でもどうして……」
平川は膝を手で支えながら立ち上がった。
「行ってみりゃあわかんだろぉ! 一応真田さん連れて行くとすっか」
────向かった先の新戸井高校に騒がしい様子はなかった。
校舎には生徒が補講に来ており、校庭では生徒が部活動に励んでいるだけであった。
ごく一般的な、夏休み中の学校という印象だ。
「こ、ここ……何か関係があるの?」
明らかに動揺した様子の京子に、良太と平川は首を傾げた。
京子は双眸を見開き、校舎に視線を釘付けにされている。
「んまぁ~少し、ですがね。何か?」
「息子の、学校よ」
良太と平川は目を合わせてから、再び京子の動揺している表情に視線を戻した。
校門前のチャイムを鳴らすと学校に残っていた教頭の那須と名乗る男性が出た。
良太、平川、京子の三人と、付き添いの警官一人が招かれるまま職員室へ入ると、教頭であろう白髪の年老いた男性が立っていた。
物腰は柔らかそうだが、警察の突然の来訪に不安を隠しきれていない。
平川と警官が警察手帳を見せて話し始めた。
「突然すみませんねぇ。ちと捜査に協力してもらえませんか」
「もしやうちの生徒が何かしましたでしょうか?」
不安がっている那須に、平川は「いやいや」と前置きしてから本題に入った。
「卒業生の名簿、データベースで管理されてますよねぇ?」
「まあ、はい」
「少し検索していただけませんか。お手を煩わせるようであれば、私共で勝手にやりますが」
「ああ、調べますよ。どなたを検索しましょう」
那須は即座にディスプレイを立ち上げ、キーボードに手を置いた。
「西倉修、という名前なのですが」
途中までタイピングしていた那須はピクリと手を止めた。まだ結果画面を出てきていない。
「西倉……西倉……。ああっ! あの変人カップルの!」
思わぬ発言に、良太は「はあ?」と間抜けな声を出した。
「あーはは、失敬。昔私が担任していたクラスの生徒だったんですよ」
「修が、ここの卒業生ってことか!」
「ええ。ええと、理系の西倉と、文系の……えーと、織田、じゃない織笠! そうこの二人が、当時校内じゃあ有名なカップルでしてねぇ。二人も変人カップルという呼び名を気に入っていたようで、色んな人からそう呼ばれていたわけです」
懐かしんでいるのか、那須は腕を組んで幾度か頷いた。
「西倉、その彼女、真田さんの息子さん、そして西倉の妹……全員この学校に関連がある。なんの運命かねぇ」
「えっとじゃあこの方、ご存知ですか?」
良太はポケットに入れていた修の個人情報の書かれた紙を差し出し、修の妹の名前を指差した。
「ああ、そりゃあもちろん! ここの教師ですから。まあ不慣れながら、生徒さんに支えられつつ頑張ってますよ」
「関係者って、教師のことだったのかよ……。ちなみにこの方、夏休み中は?」
「まあ夏休み中は授業もなく、本人は出不精のようなので自宅にいるかもしれませんね」
良太が意味ありげな視線を平川へ向けると、「家はもぬけの殻」と疲れた様子で返答してきた。
────その後、例の花壇を見せてもらうと、紙切れの入ったプラスチックの小袋が目立たないように土に差し込んであった。
その紙切れには『最終関門だ』と書かれてあり、その下にはゼロとイチのみの数列が並んでいる。
「二進数、これで最後か。信じるぞ、修」
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