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足立韋護

裏の助っ人フラメル

 フラメラーズホテルに着く直前で、テンマの考えている内容の書かれたメッセージが届いた。
 しかしそのメッセージを見る間もないまま、テンマが勝手にフラメラーズホテルのドアを開けた。


「お、おい勝手に開けちゃ……」


「フラメル、いるな! 入るぞ!」


 ずけずけと侵入していくテンマに続いて、半ば腰の低くしたアキとオルフェがフラメラーズホテルの敷居をまたいだ。
 受付のカウンター周辺やカフェは相変わらず閑散としていた。


「一階にはいない、か」


 テンマは呟くと同時に二階へ続く階段を通り過ぎ、宿泊者を記帳するためのカウンター奥にある扉に視線を向ける。
 ノブに手を掛けて奥へと進んでいくと、廊下の真ん中に人影が見えた。


「テンマさんにアキさん、何事でしょう?」


 訝しげな表情で歩いてきたのはフラメルであった。


「突然ですまないな。急ぎで訪問したのには訳がある」


「もしかして、アキさん達の後ろの方に関係します?」


「実は、この女は『協力者』に命を狙われている。しばらく一人で居られる部屋を用意して欲しいのだ」


 フラメルはそれを聞くとすぐさま納得したように、二階最奥の部屋へとオルフェを案内した。オルフェが部屋に入ると、フラメルはアイテムチェストから大量の食糧を取り出し、オルフェへと渡していった。


「ではオルフェ、くれぐれも部屋からは出るなよ」


 テンマが忠告するとオルフェは小さく頷き、扉を静かに閉めた。テンマを先頭にして今来た廊下を戻っていく。
 アキは今の状況に違和感を覚えていた。


「……フラメルさん、『協力者』って言葉だけで、どうしてそれが誰か理解出来たんですか?」


 フラメルはハッとしながらも、変わらぬ口調で歩きながら説明を始めた。


「時計塔の下でテンマさんとお話する機会があって、そのときに一つ質問させていただいたんです。
 アキさんは崖から落下した後にどうやって生き残ったのか、ということ。その辺りから、何か使命感のようなものにとらわれるようになったこと。何か知らないか、とお聞きしたんです」


「その頃には私の仮説も定まっていた。だからフラメルを信用し、アキから聞いたこの事件の真相を全て教えてやったのだ」


 ということは、フラメルさんは西倉修のことも『協力者』のことも、織笠文のこともマーベルのことまで全て知ったわけか。
 テンマも大胆なことをしたな。……よほど仮説に自信があるんだろう。


 気がつけばアキ達は、フラメルと出くわした廊下まで帰ってきていた。


「時にフラメル。お前だな、奴らの聖戦に化け物を呼んできたのは」


 テンマの問いかけに、フラメルはしばし黙りこくってから「はい……」と小さく呟いた。


「おかげで人質は全員無事だったがな……。まあいい。一度外に出したのだ、どうせまだ近くにいるのだろう? 例えばこの建物の中とかな」


 話が飛躍しているせいで、アキはすっかり置いてきぼりにされていた。
 聖戦に、化け物? 聖戦はフールギャザリングとの戦いのことだろう。あれにフラメルさんが関与していたってことなのか?


「この奥の部屋に……」


 フラメルは居場所を教えたものの、案内する様子はない。
 テンマはふっと、とてつもなく冷めたような鋭い眼光をフラメルへと向けた。




「遊びでやっているのではない」




 語気から響くようにして凄みが伝わってきた。
 フラメルは息を飲み、目線をテンマから外してから踵を返した。部屋を案内する気になったようだった。
 着いたのは廊下の最奥右手に位置する部屋であった。


「……テンマさん、妙な真似をしては命に関わりますので、くれぐれも注意して下さい」


 まるでこれから猛獣を相手にするような話ぶりだ、とアキは面食らった。


 そして扉を開けた先には、二人の人間が席に座って茶をすすっている。


「そういうことかよ……」


 アキは強張っていた全身から力が抜けた。

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