エタニティオンライン

足立韋護

運営の尽力

────警察の捜査は難航していた。


 修は街のありとあらゆる警備システムをくぐり抜け、姿をくらましているようであった。
 現代の警察の情報網と技術にかかれば、手かがり一つですぐにでも現在地を絞り込めるはずであった。


 しかし、目立った動きがない状況が、修の足取りを掴めていないことを示していた。


 そんな時、相良良太は一つの画面を見つめながらため息混じりに呟く。


「まさか、これか……!」


「相良先輩?」


 三枝美月は目薬を点眼してから、良太を訝しげに見つめた。良太はスクリーンが見えるよう体を逸らした。


「修がなんで『この文書データが開かれた時点で、俺の持つ端末に通知が送られる』ってわざわざ明記しておいたのか。きっとこれを見てほしかったんだ」


 その画面には、現代で使われているプログラミング言語に混じって、旧時代に使われていたプログラミング言語が紛れ込むようにして記述されてある。
 文書データと思われていたデータの裏側には、プログラムが組み込まれてあった。


「こんな化石みたいな言語、まだ使えるんですか?」


「なんとかな。ここだけ古い言語にしたのには意味があると思ってな、ここよく見てみろ」


 良太が指差した先には、『578.22.47...』といった数字の羅列が記されており、それはどうやらプログラミングに組み込まれているようだった。


「これ、IPアドレス……? あ!」


「これは多分修が通知を受け取る機械のIPアドレスだ。このIPアドレスからプロバイダを探し出せば、もしかすると潜伏先の周辺まで割り出せるかもしれない。可能性は低いけどな」


「……西倉部長、止めてほしいのかな」


「本当に止めてほしいのなら、このIPアドレスは無駄なものじゃない。必ず核心に近づくはずだ」


 美月は、文書データを再び睨みつける良太の肩を叩いた。


「じゃあ私も報告しますね」


「そういや美月は修のデスク調べてたんだよな。何か見つかったか?」


 前のめりになった良太に、美月は一枚の紙を差し出した。


「これ、西倉一家が離婚する前の家族全員の名簿です。デスクの中にありました。全員の現住所などが記述してあったので、備忘録か何かだと思いますけど」


「……といってもこれがどうかしたのか?」


「先輩言ってましたよね。『協力者』がいるかもしれないって」


「あ、ああ。そもそも修のデスク調べようってきっかけがそれだったような」


「協力者もそれなりの技術がある可能性が高いです。クラッキングなんて容易ではありませんから。
 ではここで質問。部長の高度な機械技術はどこで磨かれたんだと思いますか?」


 良太は何度も頭をひねったものの、それらしい答えは出てこない。悪あがきのつもりで無理やり分析した。


「あの西倉功博士が親だろ? もしかしたら父ちゃんに教わったのかもなぁ」


「それです!」


 想定外の返答に良太は眉をひそめて首をかしげる。


「覚えてないんですか? 部長のメッセージにはこうありました」


『お前達から見て、西倉修はどう見えたのだろう。そこに人間性はあったか? 俺は、それがよくわからない。まるで自分が冷たい機械のようだ。そのように育てられたのだから仕方ないのかもしれない』


「部長をまるで機械のように育てたのは他ならぬ西倉功氏です。仮に西倉功氏がそれを部長だけでなく、もう一人の我が子にも教育していたのだとしたら?
 こんな大事件の協力を頼める人物とは?
 先輩言ってましたね。『仲良しだった妹が母親、修が父親の方に行って、離れ離れになっちまった』って、『飲み会でボソッと言ってた』って。
 今でも兄妹関係が続いているとしたら?」


「ってことは……協力者はまさか、修の妹か!?」


「ようやく気がつきましたね。そこで必要になるのが、家族全員の名簿です」


 得意気な美月は改めて名簿を見せつけた。食い入るように紙を睨む良太は、ある場所で視線を止めた。


「────なるほど、名前はわかった。詳細部分には新戸井高校関係者、としか書いてないな。でも美月、これ大手柄かもしれねぇや!」


「ホウレンソウですよ先輩! 警察に先輩と私の成果を報告して、ちゃちゃっと捕まえるようにハッパかけてきてくださいよ!」


 良太は「おう!」と答えると、景気良く立ち上がって見張りの警察官の元へと駆けて行った。

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