エタニティオンライン
覚悟と後悔
アキは水神鞭を手に取り、その集団へ向かって一人歩き出した。
「俺が時間稼ぎをしてるから、テンマは精鋭隊のみんなを呼んで来て」
「いや、しかしお前一人では……!」
テンマの言葉に、アキは苦笑いして振り向いた。
「大丈夫だよ」
テンマは言葉の真意を悟ってか、顔を背けてから再びアキへ向き直り、頷いた。足下のワームホールを使って支部へと向かっていったようだ。
それを確認してから、アキはスキルメニューを開き、撫でるように指を幾度かスライドさせる。
「『アースイーター』、『ブラッディタイタン』、『ロックサイクロプス』喚起」
地面には大きな黒い歪みが三つ出現した。血に染まっている拳を持つ赤黒い大男と、全身に灰色の岩がへばりついている一つ目の怪物、そして鬱屈の湿地帯にて奇跡的に使役した巨大人食い花を喚起した。
ブラッディタイタンとロックサイクロプスはどちらも難易度の高いダンジョンでしか現れないモンスター、そしてアースイーターは竜狩りの秘宝限定のボス級モンスターだった。
竜狩りの秘宝に限らず、イベント限定のモンスターは攻略難易度が高く設定されている。それを使役しているアキの存在は、仮面の一味の足を怯ませるには充分だった。
「お前ら! 足を止めるなぁ!」
集団の中にいた一人の中年ほどの男が声を荒げた。全身を重厚な銀色の鉄の鎧で身を包み、その手には燃え盛る剣を持っている。唯一、顔には仮面を付けておらず、あごに生える無精髭が見えた。
「陣形を整え、ウィザードはスペル、スカウトは弓を構えろ!」
野生的で本能的、とても話し合えるような状態じゃない。戦わなくちゃならない。やらなければやられる。
「放てぇ!」
無精髭の男の号令に合わせて、離れた位置から多種多様なスペルと矢が飛来してくる。その多くのスペルは威嚇であり途中で消え失せたが、射程範囲の広い火炎系と矢はアキの目の前にいるモンスター達へと届いた。
モンスター達はアキの指示がなければ動けないため、呻き声を上げながら防御に徹しているのみだった。
アドルフ、ラインハルト、ユウ……。全員、俺が甘かったせいで守れなかった仲間達。
仲間すら守れずにむざむざ殺されるくらいなら、敵を殺して仲間だけでも守りたい。あんな後悔、二度としたくないんだ。
「全員、殲滅しろ」
三体のモンスターが同時に咆哮を轟かせる。ブラッディタイタンの突進によって隊列が乱れ、ロックサイクロプスが手に持つ木槌でプレイヤーを叩き潰していく。
アースイーターはその場から動くこともなく何本ものツルを伸ばし、プレイヤーを捕まえては次々に飲み込んでいく。
「助けて……助けてぇ!」
「おいバゴルさん! あんた幻の竜使いなんだろ、どうにかしてくれよ!」
阿鼻叫喚の様子にバゴルと呼ばれた無精髭の男は、あごに手を添え、アースイーターのツルを炎の剣で切り落としつつ場を見据えている。
「仕方ない。奥の手を使う!」
バゴルは地面に手をかざし、何もない空間に指を這わせる。そして小さな声で名前を唱えると、地面から黒々しいドラゴンが出現する。
身体中に纏う鎧のような黒ずんだ鱗、火のように紅い目、人間の五倍はあろう体躯が仮面の一味を鼓舞させた。
「バゴルさんの『ダークネスドラゴン』が出たぞ! 反撃開始だ!」
アキは訝しみながら炭のような鱗のドラゴンを見つめている。
違う、あれはダークネスドラゴンじゃない。クリムゾンドラゴンの下位互換であるエンバードラゴン。竜狩りの秘宝イベントでエンカウントする、所謂中ボスだ。
鱗が黒っぽいからダークネスドラゴンを知らなかったり覚えていなかったりすると、簡単に騙されてしまう。ダークネスドラゴンに辿り着けたギルドも多くはなかったから、仕方ないのかもしれない。
ダークネスドラゴンと騙られたエンバードラゴンは、ブラッディタイタンとロックサイクロプスを突き飛ばし、アースイーターへ炎のブレスを放った。
クリムゾンドラゴンの下位互換といえど、ドラゴン系列の強さは他のモンスターの比ではない。熱気漂うブレスによって、アースイーターのツルはみるみる焼かれていく。
その時、アキは背後から声をかけられた。
「アキ、待たせた!」
「アッキー! 来たよー!」
振り向くと、クオンとテンマ、そして怪我の完治した青龍とカトレアまでも増援に駆けつける。
しかし、アキは手を振ることもなくその面々に背を見せた。
「それ以上近付くな!」
アキから発せられた意外な言葉に、四人は立ち止まった。
「自分が犯したことのけじめくらい、自分でつけさせてほしいんだ」
「アキ、どうしたの……?」
「待て、どこかいつもと様子が違う」
エンバードラゴンの爪によってアースイーターの花弁がいくつか地に落ちた。それに追随して、仮面を付けたプレイヤー達がアキのモンスター達に反撃を仕掛けている。
「俺の覚悟と後悔の証、その全てを見せてやる」
アキはふと背後に顔を向ける。テンマとカトレアに悲哀のこもった視線を送ってから再び前を向き、手を地面にかざす。
「『ダークネスドラゴン』喚起」
「俺が時間稼ぎをしてるから、テンマは精鋭隊のみんなを呼んで来て」
「いや、しかしお前一人では……!」
テンマの言葉に、アキは苦笑いして振り向いた。
「大丈夫だよ」
テンマは言葉の真意を悟ってか、顔を背けてから再びアキへ向き直り、頷いた。足下のワームホールを使って支部へと向かっていったようだ。
それを確認してから、アキはスキルメニューを開き、撫でるように指を幾度かスライドさせる。
「『アースイーター』、『ブラッディタイタン』、『ロックサイクロプス』喚起」
地面には大きな黒い歪みが三つ出現した。血に染まっている拳を持つ赤黒い大男と、全身に灰色の岩がへばりついている一つ目の怪物、そして鬱屈の湿地帯にて奇跡的に使役した巨大人食い花を喚起した。
ブラッディタイタンとロックサイクロプスはどちらも難易度の高いダンジョンでしか現れないモンスター、そしてアースイーターは竜狩りの秘宝限定のボス級モンスターだった。
竜狩りの秘宝に限らず、イベント限定のモンスターは攻略難易度が高く設定されている。それを使役しているアキの存在は、仮面の一味の足を怯ませるには充分だった。
「お前ら! 足を止めるなぁ!」
集団の中にいた一人の中年ほどの男が声を荒げた。全身を重厚な銀色の鉄の鎧で身を包み、その手には燃え盛る剣を持っている。唯一、顔には仮面を付けておらず、あごに生える無精髭が見えた。
「陣形を整え、ウィザードはスペル、スカウトは弓を構えろ!」
野生的で本能的、とても話し合えるような状態じゃない。戦わなくちゃならない。やらなければやられる。
「放てぇ!」
無精髭の男の号令に合わせて、離れた位置から多種多様なスペルと矢が飛来してくる。その多くのスペルは威嚇であり途中で消え失せたが、射程範囲の広い火炎系と矢はアキの目の前にいるモンスター達へと届いた。
モンスター達はアキの指示がなければ動けないため、呻き声を上げながら防御に徹しているのみだった。
アドルフ、ラインハルト、ユウ……。全員、俺が甘かったせいで守れなかった仲間達。
仲間すら守れずにむざむざ殺されるくらいなら、敵を殺して仲間だけでも守りたい。あんな後悔、二度としたくないんだ。
「全員、殲滅しろ」
三体のモンスターが同時に咆哮を轟かせる。ブラッディタイタンの突進によって隊列が乱れ、ロックサイクロプスが手に持つ木槌でプレイヤーを叩き潰していく。
アースイーターはその場から動くこともなく何本ものツルを伸ばし、プレイヤーを捕まえては次々に飲み込んでいく。
「助けて……助けてぇ!」
「おいバゴルさん! あんた幻の竜使いなんだろ、どうにかしてくれよ!」
阿鼻叫喚の様子にバゴルと呼ばれた無精髭の男は、あごに手を添え、アースイーターのツルを炎の剣で切り落としつつ場を見据えている。
「仕方ない。奥の手を使う!」
バゴルは地面に手をかざし、何もない空間に指を這わせる。そして小さな声で名前を唱えると、地面から黒々しいドラゴンが出現する。
身体中に纏う鎧のような黒ずんだ鱗、火のように紅い目、人間の五倍はあろう体躯が仮面の一味を鼓舞させた。
「バゴルさんの『ダークネスドラゴン』が出たぞ! 反撃開始だ!」
アキは訝しみながら炭のような鱗のドラゴンを見つめている。
違う、あれはダークネスドラゴンじゃない。クリムゾンドラゴンの下位互換であるエンバードラゴン。竜狩りの秘宝イベントでエンカウントする、所謂中ボスだ。
鱗が黒っぽいからダークネスドラゴンを知らなかったり覚えていなかったりすると、簡単に騙されてしまう。ダークネスドラゴンに辿り着けたギルドも多くはなかったから、仕方ないのかもしれない。
ダークネスドラゴンと騙られたエンバードラゴンは、ブラッディタイタンとロックサイクロプスを突き飛ばし、アースイーターへ炎のブレスを放った。
クリムゾンドラゴンの下位互換といえど、ドラゴン系列の強さは他のモンスターの比ではない。熱気漂うブレスによって、アースイーターのツルはみるみる焼かれていく。
その時、アキは背後から声をかけられた。
「アキ、待たせた!」
「アッキー! 来たよー!」
振り向くと、クオンとテンマ、そして怪我の完治した青龍とカトレアまでも増援に駆けつける。
しかし、アキは手を振ることもなくその面々に背を見せた。
「それ以上近付くな!」
アキから発せられた意外な言葉に、四人は立ち止まった。
「自分が犯したことのけじめくらい、自分でつけさせてほしいんだ」
「アキ、どうしたの……?」
「待て、どこかいつもと様子が違う」
エンバードラゴンの爪によってアースイーターの花弁がいくつか地に落ちた。それに追随して、仮面を付けたプレイヤー達がアキのモンスター達に反撃を仕掛けている。
「俺の覚悟と後悔の証、その全てを見せてやる」
アキはふと背後に顔を向ける。テンマとカトレアに悲哀のこもった視線を送ってから再び前を向き、手を地面にかざす。
「『ダークネスドラゴン』喚起」
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