エタニティオンライン
最強たる所以
部屋の扉は完全に閉じているため、声が廊下に漏れる心配もない。そんな二人だけの空間に、しばし沈黙が流れた。
「全て本当なのか?」
テンマは最終確認、とでも言いたげだ。
「俺がこんな嘘つくと思うか? 織笠の説明も筋が通ってるし、何よりマーベルっていう物証もあった。俺の言うことも、織笠の言うことも、全て真実だよ」
「私もいくつか仮説を立てていたんだが、アキの話を信じた場合その中の三つほどに絞れる。これは大きな前進と言える」
「その仮説、聞かせてくれないか?」
「ふふ、ダメだ。私は疑り深いぞ。信じるに値するのは自分のみだからな」
「はは、テンマらしいや。それで、話はそれだけか?」
「……いや、今用事が出来た。お前が必要だ」
アキはテンマに連れ出され、ヴァルカンの街中を巡っていた。テンマにいくら聞こうとも「デートだ」としか言わないため、理由を問いただすことは諦めた。
理由を隠すってことは、つまりそれが答えってことか。これはテンマの言う仮説のどれかを立証するために必要な作業なんだろう。俺を連れ回すことが、何の立証に役立つのかはさっぱりだけど。
「アキは現実世界でどんな生活をしていた?」
「えっ!?」
思わず大声をあげてしまった。そんなアキにテンマは半笑いした。
「なんだ、私がこんなことを聞いてはいけないか?」
「いや、そんなことは……。まあ普通の高校生だよ」
「恋人がいたとか、片思いしていたとか、そういうエピソードはないのか。青春真っ只中だろうに」
アキの頭には、ふと久野琴音の顔が思い浮かんだ。軽くため息をついて、諦めたように話し始める。
「いたよ。片思いだったけどな。でも俺には無理な────」
「では片思いされていたとかは?」
「人の話を遮るなよ! 俺なんかが誰かに男として好かれてるわけないだろ。告白だってされたことないんだ。もし万が一あるとしても、この世界のNPCくらいだよ……。はあ……」
そう言いながら、アキの肩と声のトーンは段々落ちていく。自分で話しておきながら、悲しくなってきたのだ。
「しかし、ユウから幾度か聞いたぞ? 昔いじめられていたところを助けられたと。他にも体育教師だかに頼まれた仕事をニコニコしながら頻繁に受けていたというのもな。そんな都合の良い男ならモテるんじゃないのか?」
「俺は……まあ理由があって、人助けしなくちゃって気になるんだよ。自己満足だし、そんなの誰も見ちゃいない。そういうテンマは、現実世界ではどうなんだよ!」
ヴァルカンの街を上っていくと、徐々に荒野が見渡せるようになってきた。荒野にいたムラタら三人組のテントがなくなっていた。どうやら今日中に移動したらしい。
夕暮れが大地を赤茶色に照らし、一日の終わりを告げている。
眼下に見える広場には、黒々とした楕円形の歪みが浮かんでいる。ログアウトホールだ。
テンマはこの場所を知っていたようで、雄大な景色を眺めながら足下の石段に腰掛けた。テンマはアキの質問に淡々と答えた。
「私は俗に言うお嬢様だったのだ」
「お嬢様?」
「姓は松上ノ門。変な名前だろう? ま、簡単に言えば金持ちの娘というわけだ」
「へぇー! それは意外だった!」
「……ただ、生まれついての下半身不随だがな」
「え……?」
アキは咄嗟にテンマの横顔をまじまじと見つめてしまった。夕日で橙色に照らされているテンマの表情は、至って穏やかだった。
「そう案ずるな。今は機械の力さえあれば、日常生活くらいは送ることが出来る。だがこの世界で、初めて自らの足で立てた気がした。足の裏がしっかり地面に立った感覚がした。それも機械のまやかしだ。だが、最高の感動を味合わせてくれたのは事実。だから私はこの世界のために動きたい」
「テンマがこの世界に残る理由……なのか」
「開発者が犯人? その協力者が好き勝手している? そんなものは関係ない。
立ちはだかる者は全て退ける。この世界を存続させる。私が、この世にいる限りな」
目に見えない気迫、殺気のようなものが語気の強さから感じ取れた。信じるに値するのは自分のみ。そう断言出来るほどの自信と確信が彼女には備わっている。
エタオンで一番強いプレイヤーは、エタオンを一番愛しているプレイヤーでもあったってことか。こりゃ勝てないわけだな。
「さて、夕日も十分眺めたことだし、ログアウトホールのある広場へ行くぞ」
「えっ?」
「ここからはデートでなく、仮説の駒を一つ進めに行く」
そう言ったテンマは力強く立ち上がった。
「全て本当なのか?」
テンマは最終確認、とでも言いたげだ。
「俺がこんな嘘つくと思うか? 織笠の説明も筋が通ってるし、何よりマーベルっていう物証もあった。俺の言うことも、織笠の言うことも、全て真実だよ」
「私もいくつか仮説を立てていたんだが、アキの話を信じた場合その中の三つほどに絞れる。これは大きな前進と言える」
「その仮説、聞かせてくれないか?」
「ふふ、ダメだ。私は疑り深いぞ。信じるに値するのは自分のみだからな」
「はは、テンマらしいや。それで、話はそれだけか?」
「……いや、今用事が出来た。お前が必要だ」
アキはテンマに連れ出され、ヴァルカンの街中を巡っていた。テンマにいくら聞こうとも「デートだ」としか言わないため、理由を問いただすことは諦めた。
理由を隠すってことは、つまりそれが答えってことか。これはテンマの言う仮説のどれかを立証するために必要な作業なんだろう。俺を連れ回すことが、何の立証に役立つのかはさっぱりだけど。
「アキは現実世界でどんな生活をしていた?」
「えっ!?」
思わず大声をあげてしまった。そんなアキにテンマは半笑いした。
「なんだ、私がこんなことを聞いてはいけないか?」
「いや、そんなことは……。まあ普通の高校生だよ」
「恋人がいたとか、片思いしていたとか、そういうエピソードはないのか。青春真っ只中だろうに」
アキの頭には、ふと久野琴音の顔が思い浮かんだ。軽くため息をついて、諦めたように話し始める。
「いたよ。片思いだったけどな。でも俺には無理な────」
「では片思いされていたとかは?」
「人の話を遮るなよ! 俺なんかが誰かに男として好かれてるわけないだろ。告白だってされたことないんだ。もし万が一あるとしても、この世界のNPCくらいだよ……。はあ……」
そう言いながら、アキの肩と声のトーンは段々落ちていく。自分で話しておきながら、悲しくなってきたのだ。
「しかし、ユウから幾度か聞いたぞ? 昔いじめられていたところを助けられたと。他にも体育教師だかに頼まれた仕事をニコニコしながら頻繁に受けていたというのもな。そんな都合の良い男ならモテるんじゃないのか?」
「俺は……まあ理由があって、人助けしなくちゃって気になるんだよ。自己満足だし、そんなの誰も見ちゃいない。そういうテンマは、現実世界ではどうなんだよ!」
ヴァルカンの街を上っていくと、徐々に荒野が見渡せるようになってきた。荒野にいたムラタら三人組のテントがなくなっていた。どうやら今日中に移動したらしい。
夕暮れが大地を赤茶色に照らし、一日の終わりを告げている。
眼下に見える広場には、黒々とした楕円形の歪みが浮かんでいる。ログアウトホールだ。
テンマはこの場所を知っていたようで、雄大な景色を眺めながら足下の石段に腰掛けた。テンマはアキの質問に淡々と答えた。
「私は俗に言うお嬢様だったのだ」
「お嬢様?」
「姓は松上ノ門。変な名前だろう? ま、簡単に言えば金持ちの娘というわけだ」
「へぇー! それは意外だった!」
「……ただ、生まれついての下半身不随だがな」
「え……?」
アキは咄嗟にテンマの横顔をまじまじと見つめてしまった。夕日で橙色に照らされているテンマの表情は、至って穏やかだった。
「そう案ずるな。今は機械の力さえあれば、日常生活くらいは送ることが出来る。だがこの世界で、初めて自らの足で立てた気がした。足の裏がしっかり地面に立った感覚がした。それも機械のまやかしだ。だが、最高の感動を味合わせてくれたのは事実。だから私はこの世界のために動きたい」
「テンマがこの世界に残る理由……なのか」
「開発者が犯人? その協力者が好き勝手している? そんなものは関係ない。
立ちはだかる者は全て退ける。この世界を存続させる。私が、この世にいる限りな」
目に見えない気迫、殺気のようなものが語気の強さから感じ取れた。信じるに値するのは自分のみ。そう断言出来るほどの自信と確信が彼女には備わっている。
エタオンで一番強いプレイヤーは、エタオンを一番愛しているプレイヤーでもあったってことか。こりゃ勝てないわけだな。
「さて、夕日も十分眺めたことだし、ログアウトホールのある広場へ行くぞ」
「えっ?」
「ここからはデートでなく、仮説の駒を一つ進めに行く」
そう言ったテンマは力強く立ち上がった。
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