エタニティオンライン

足立韋護

上級者の力

 道幅わずか三メートルのところを、延々と進まなければならない。それに加え、ここは既に一つのフィールド内であるため、モンスターももちろん出現する。そのため、アキ達は細心の注意を払わなければならなかった。
 悪条件の重なったこのフィールドは、上級者向けのフィールドとして知られている。モンスターも、もちろん上級者向けに手強く設定されている。


「アキ、コボルトグローリィが三体見えてきたよ!」


「クオンと白虎が前衛、俺が鞭でサポートだ。ラインハルトは後ろからナビゲーション、出来るか?」


「ナビゲーションくらいならお任せあれ!」


「最低限、崖から落ちないよう指示してくれるだけで良いから」


 クオンは漆黒の手袋『トールグローブ』を装着し、打撃力上昇スペル『デストラクションアーム』を自らにかける。両腕が紅く輝き始めた。白虎は何も言わずに、灰色の大槌を両手に構える。アキはこの大槌を見たことがなかった。
 ナイトとモンク、この二つの職業が共闘する場合、ナイトの耐久力で攻撃を引き受け、モンクの圧倒的手数と攻撃力によって場を制することが定石である。
 しかし、そんな常套手段を使うのは中級者までであった。上級者ともなれば、個人の実力を、いかに誇示し、その戦いによって身につけるかを重視する。


「敵は三体、白虎、どっちが多く倒せるか勝負だね!」


「……やってみよう」


 十メートルほど離れた道端にいるコボルトグローリィは、くすんだ黒色の肌を持っているが、その血がわずかに光っているという特徴がある。大柄な体を活かし、青銅の大剣を振り回してくる厄介な敵だ。コボルトグローリィ達は、アキ達を視認すると理知的に何かを話し合い、そして青銅の大剣を構えた。


 クオンは大股で踏み出し、一気に距離を縮めようと試みる。歩き出しもしない白虎は、大槌を両手で真上に振り上げ、地面に振り下ろした。岩の地面と大槌が響き合い、巨大な金属同士をぶつけたような鈍い音が鼓膜を叩く。クオンも、思わずその強烈な音に振り返った。


「『地隆爪じりゅうそう』」


 大槌を振り下ろした場所から隆起を始め、速度を増しながら前方へと連なっていく。こちらの様子を確認していたクオンの横を追い越して、コボルトグローリィ達の足下へ隆起していく。
 うち一匹は危険を察知し、後方に跳躍した。他二匹は突如斜めに飛び出した地面に巻き込まれ、クオンの頭上を越えていく。宙へと放り出された二匹は為す術もなく、白虎の前方に飛んできた。


「……もはやスキルを使うまでもない」


 大槌を左へ振り下げ、両手と遠心力を用いて右上へと振り抜いた。大槌がコボルトグローリィ達二匹まとめて崖の外へと、叩き飛ばした。飛行できないモンスターは崖から落ちてしまえば、残りHPに関係なく消滅する。


「こ、これが上級者の力……!」


「やっぱりエタオンはこういうのがカッコ良いから、やりたくなるんだよな」


 クオンは勝負に負けたことに気がつき、その場で頭を抱えた。一匹余ったコボルトグローリィが、これ幸いと青銅の大剣を、頭を抱えているクオンの頭上へと突き立てた。


「なーんちゃって」


 クオンは左拳を大剣の刃へと突きつける。一見布製に見える手袋だが、刃がその手袋を切り裂くことはなく、麻袋を落としたような優しい音しか鳴らなかった。


「拳で刃を止めてる……! アキ、あれは一体どういうことなんだい?」


「後衛じゃなく、すっかり解説役だなあ。クオンの『トールグローブ』は激レアランク、まあ攻略サイトで言うところのSSRの武器なんだ。その能力は攻撃力の純粋な上昇。
 それともうひとつ、手袋の部分には一切の物理攻撃が通用しない。クオンは手袋自体が煩わしいらしくて、戦う時以外はアイテムチェストに入れてるから、説明する機会がなかったんだな」


 クオンは青銅の大剣を右の手の甲で弾き飛ばし、コボルトグローリィの頭を掴み上げた。


「ちょっとごめんね」


 アイテムチェストからただの短剣を取り出したクオンは、モンスターの皮膚に刃を当て、数ミリ程度傷をつけた。傷口から発光する血液が流れ出し、それと同時にコボルトグローリィが暴れ始める。
 クオンが右方向へと投げ、コボルトグローリィはそのまま崖下へと落ちていった。アキ達が背後から駆け足で近づいて来るのがわかり、トールグローブを外しながら振り返る。


「クオン、今短剣で?」


「流血表現はモンスターにも適用されてるねー。しかも傷が鮮明だったから、もしかしたら人体欠損の表現まであるかも」


 人体欠損……ユウがミスガルドと戦った時、ユウの太刀はミスガルドの胴体を貫通してた。前のエタオンなら、磁石が反発するみたいに弾かれて痛みとダメージだけが適用されていたのに。
 可能性は否めないけど、進んで確認もしたくないことだな。テンマ辺りがどこかで実行しているだろうから、連絡取り合う時に聞いてみよう。

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