エタニティオンライン
頼りない魔法剣士ラインハルト
後衛の女が眩く輝いている光球を杖から放ち、洞窟の天井へ設置した。辺りが松明以上に照らされ、一気に視界が改善される。
そりゃそうか。三対一なら暗いほうが不意打ちの可能性がある。そのために明るくし、安定して倒す選択をしたわけだ。
トントン……トンッとリズムをつけた前衛の二人が一斉に飛びかかってくる。ファイターの双剣使いは威力こそ高いものの、リーチは脇差に劣り攻撃のタイミングが若干遅れる。
アキはならばと、腕と手首を巧みに動かし、脇差使いの懐へと鞭を振るう。その先端が下から上へとしなり、脇差を持つ手を叩きつけた。鈍い悲鳴とともに、脇差がその手から離れ、アキはその脇差を鞭を使って器用に払い飛ばした。
その間にも、右方向から双剣使いが迫り、更に正面から電撃のスペルの魔法陣が見えた。
「っしゃ取ったァ!」
その間に近づいていた双剣使いは、アキが自らの射程内に収まったことで勝ちを確信した。双剣の動きは、やはり青龍のほうが洗練されているようで、アキはその斬撃を体を逸らして避けることができた。
電撃系のスペルは特別に早い。しかしその分、攻撃力と射程に優れない。十五メートルほど離れた位置からでは届くスペルもない。それを知ってか知らずか、後衛の女はスペルを放つ。黄色く光るスペルは多少ブレつつも、瞬く間にアキの目の前にまでやってきた。しかし、それは当たる直前で消失する。
「無視すべきかな」
アキは後方に行ったはずの双剣使いを、振り向いて確認する。しかし、既に予想以上に接近され、双剣がアキの胴体を完全に捉えていた。
その時、アキの周囲から、腕ほどの太さがある水の触手が、双剣と双剣使いの腕を取り込み、動きを完全に停止させる。
「な、なんだこりゃァ!」
「水神鞭って、知らない? 一周年記念イベントの数か月前に行われた水神祭ってイベント。そのイベントクリア報酬の際、超低確率で当たる『水神シリーズ』の一つ。激レアランクの武器だ」
「げ、激レアって……! ついてねェ……」
五段階ある武器のランクのうち、アキの持つ水神鞭、クオンの持つトールグローブなどは一般的に激レアと呼称され、攻略のウェブサイトにはSSRに属する。主にイベント報酬などのうち、超低確率で手に入るものが多い。
SRはレアと呼ばれ、イベント報酬などのうち、低確率で手に入るものを指す。Rはその微妙な性能から微レアなどと呼ばれ、クエスト報酬、イベント報酬などから中確率で出現する。
Nはノーマルと呼ばれ、NPCの店に置いてあるもので性能も見た目もイマイチなものが多い。
アキは丁寧にその詳細を語りつつ、スキルメニューを開き何かを操作している。その動作は、落ち着き払っていた。
「その能力は、喚起したモンスターを癒し、近付いた相手を確実に捕らえる。ま、十秒間だけだし、遠距離攻撃相手じゃ使えないから、そこまで強くはないけど。はい『絶対服従の糸』」
続けざまに拘束したアキは、ミノムシのようになった双剣使いをその場に転がしておき、立ち上がり自分の愛刀を探し回っている脇差使いに鞭を容赦なく振るう。
先程の痛みを覚えてしまったのか、脇差使いは両腕で防御しつつ、電撃使いの元まで後退していく。
脇差を拾わせる暇も与えず、アキは徐々に徐々に二人へと近付いていく。鞭を振るう速度を上げ、より威圧的に空気を叩き、やかましい音を鳴らし続けた。
二人との間が八メートルほどにまで縮まったところでは、既に電撃のスペルは優に届くはずだったが、鞭による威圧がよく効いているのか、電撃使いの女は鞭を必死に目で追いかけつつ、後退しているだけだ。
「そろそろか……」
アキは脇差使いの手と、電撃使いの脇腹に、一打ずつ確実に攻撃を加える。その痛みは相当なものだったようで、攻撃を受けた二人は、地面にひれ伏した。
そこに再び追撃し、それぞれ同じ場所へと鞭を打ちつける。もはや、戦意は消失したようで、痛みを我慢しながら仲間の双剣使いを置いて逃げてしまった。
「仲間は置き去りか」
ボソリと呟いたアキは、水神鞭をしまいながらクオン達の元へ走って戻った。双剣使いは、未だに拘束されている。プレイヤーへの拘束時間は五分で、誰かが糸を切ってしまえばすぐにでも解放することができる。
拘束されてしまった場合、本来ならば、大体のプレイヤーはメニュー画面を足で操作しログアウトして、時間の浪費を防ぐ。
「アッキーすごーい!」
ハイタッチしてきたクオンが、アキへと勢い良く抱きついた。赤面するアキは、体を強張らせて動けなくなった。
「本当に一人で全員を退けるなんて、すごいやあ……。いや恐れ入ったよ」
クオンを引き剥がしたアキは、へたり込んでいた青年の前に立ち、手を差し伸べた。青年はその手を掴み、尻の土をはたいて落としながら立ち上がった。
「名前は?」
「あ、ああ。僕は糸部晴人」
「い、いやリアルの名前じゃなくて、エタオンでの名前……」
「え? ああ! エタオンじゃ、ラインハルトって名前だよ。職業はファイターとウィザード、魔法剣士のロールプレイヤーってとこかな」
そう自己紹介したラインハルトは、腰に携えたノーマルランクの武器『模範の杖(九十カッパー)』と、背負っている刃が薄く細い何らかの大剣を見せてきた。あまりにも細長いせいで、鍔がなければ槍にも見えてしまうほどだった。
そりゃそうか。三対一なら暗いほうが不意打ちの可能性がある。そのために明るくし、安定して倒す選択をしたわけだ。
トントン……トンッとリズムをつけた前衛の二人が一斉に飛びかかってくる。ファイターの双剣使いは威力こそ高いものの、リーチは脇差に劣り攻撃のタイミングが若干遅れる。
アキはならばと、腕と手首を巧みに動かし、脇差使いの懐へと鞭を振るう。その先端が下から上へとしなり、脇差を持つ手を叩きつけた。鈍い悲鳴とともに、脇差がその手から離れ、アキはその脇差を鞭を使って器用に払い飛ばした。
その間にも、右方向から双剣使いが迫り、更に正面から電撃のスペルの魔法陣が見えた。
「っしゃ取ったァ!」
その間に近づいていた双剣使いは、アキが自らの射程内に収まったことで勝ちを確信した。双剣の動きは、やはり青龍のほうが洗練されているようで、アキはその斬撃を体を逸らして避けることができた。
電撃系のスペルは特別に早い。しかしその分、攻撃力と射程に優れない。十五メートルほど離れた位置からでは届くスペルもない。それを知ってか知らずか、後衛の女はスペルを放つ。黄色く光るスペルは多少ブレつつも、瞬く間にアキの目の前にまでやってきた。しかし、それは当たる直前で消失する。
「無視すべきかな」
アキは後方に行ったはずの双剣使いを、振り向いて確認する。しかし、既に予想以上に接近され、双剣がアキの胴体を完全に捉えていた。
その時、アキの周囲から、腕ほどの太さがある水の触手が、双剣と双剣使いの腕を取り込み、動きを完全に停止させる。
「な、なんだこりゃァ!」
「水神鞭って、知らない? 一周年記念イベントの数か月前に行われた水神祭ってイベント。そのイベントクリア報酬の際、超低確率で当たる『水神シリーズ』の一つ。激レアランクの武器だ」
「げ、激レアって……! ついてねェ……」
五段階ある武器のランクのうち、アキの持つ水神鞭、クオンの持つトールグローブなどは一般的に激レアと呼称され、攻略のウェブサイトにはSSRに属する。主にイベント報酬などのうち、超低確率で手に入るものが多い。
SRはレアと呼ばれ、イベント報酬などのうち、低確率で手に入るものを指す。Rはその微妙な性能から微レアなどと呼ばれ、クエスト報酬、イベント報酬などから中確率で出現する。
Nはノーマルと呼ばれ、NPCの店に置いてあるもので性能も見た目もイマイチなものが多い。
アキは丁寧にその詳細を語りつつ、スキルメニューを開き何かを操作している。その動作は、落ち着き払っていた。
「その能力は、喚起したモンスターを癒し、近付いた相手を確実に捕らえる。ま、十秒間だけだし、遠距離攻撃相手じゃ使えないから、そこまで強くはないけど。はい『絶対服従の糸』」
続けざまに拘束したアキは、ミノムシのようになった双剣使いをその場に転がしておき、立ち上がり自分の愛刀を探し回っている脇差使いに鞭を容赦なく振るう。
先程の痛みを覚えてしまったのか、脇差使いは両腕で防御しつつ、電撃使いの元まで後退していく。
脇差を拾わせる暇も与えず、アキは徐々に徐々に二人へと近付いていく。鞭を振るう速度を上げ、より威圧的に空気を叩き、やかましい音を鳴らし続けた。
二人との間が八メートルほどにまで縮まったところでは、既に電撃のスペルは優に届くはずだったが、鞭による威圧がよく効いているのか、電撃使いの女は鞭を必死に目で追いかけつつ、後退しているだけだ。
「そろそろか……」
アキは脇差使いの手と、電撃使いの脇腹に、一打ずつ確実に攻撃を加える。その痛みは相当なものだったようで、攻撃を受けた二人は、地面にひれ伏した。
そこに再び追撃し、それぞれ同じ場所へと鞭を打ちつける。もはや、戦意は消失したようで、痛みを我慢しながら仲間の双剣使いを置いて逃げてしまった。
「仲間は置き去りか」
ボソリと呟いたアキは、水神鞭をしまいながらクオン達の元へ走って戻った。双剣使いは、未だに拘束されている。プレイヤーへの拘束時間は五分で、誰かが糸を切ってしまえばすぐにでも解放することができる。
拘束されてしまった場合、本来ならば、大体のプレイヤーはメニュー画面を足で操作しログアウトして、時間の浪費を防ぐ。
「アッキーすごーい!」
ハイタッチしてきたクオンが、アキへと勢い良く抱きついた。赤面するアキは、体を強張らせて動けなくなった。
「本当に一人で全員を退けるなんて、すごいやあ……。いや恐れ入ったよ」
クオンを引き剥がしたアキは、へたり込んでいた青年の前に立ち、手を差し伸べた。青年はその手を掴み、尻の土をはたいて落としながら立ち上がった。
「名前は?」
「あ、ああ。僕は糸部晴人」
「い、いやリアルの名前じゃなくて、エタオンでの名前……」
「え? ああ! エタオンじゃ、ラインハルトって名前だよ。職業はファイターとウィザード、魔法剣士のロールプレイヤーってとこかな」
そう自己紹介したラインハルトは、腰に携えたノーマルランクの武器『模範の杖(九十カッパー)』と、背負っている刃が薄く細い何らかの大剣を見せてきた。あまりにも細長いせいで、鍔がなければ槍にも見えてしまうほどだった。
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