エタニティオンライン
死闘の果てに
散布された毒の花粉はプロテクトによって弾かれていく。しかし、青龍はアースイーターの直近であるために、状態異常『毒』は免れない。
テンマはプロテクト内から未だに斬撃を繰り返し、サキュバスはプロテクトを貫通しつつ光線を放っているが、アースイーターはどうやら最後の一本となるまで青龍を手放さない意思があるようだった。
「どうしてなのだ。アースイーターに意識的に集中攻撃する動作などなかったはずだぞ!」
「また、クラッカーの仕業なのね」
斬り続けるテンマと呆れるカトレア。その後ろでアキは、眉間を指で揉みながら状況を冷静に観察していた。
「モンスターの制御までなんて、あり得ないな。それじゃまるで、このエタオンを作ってる運営部に犯人がいるみたい……うん?」
なんか引っかかるな。エタオンは世界的な目で見ても屈指のセキュリティシステムが積まれてるはず。それをいとも簡単にこじ開けた天才クラッカー。
内部から、同じ内部の人間にバレない『都合の良いセキュリティホール』を作り、外部からの侵入を装ったのなら、今回の事件はもしかしたら可能なのかもしれない。それなら、モンスターやNPCの制御をここまで変えられることに説明がつく。
でもここら辺は、社員にでもならない限りわからないか……。まず動機や目的も今のところわからない。
「今はそんなこと話してる暇ないよ! さっさと助けないと!」
「だな、クオンの言う通りだ。即興の作戦だけど、聞いてくれるか?」
「ないよりマシだ! そろそろ毒花粉を振り撒き終えるぞ!」
アキは短く「よし」と答えると、早口で話を進めた。エンジェルの展開するプロテクトの外に舞う花粉が、徐々に薄れてきた。
「カトレアさん、ドデカいスペル一発でも残ってるか?」
「まあ、なくはないわ。やっぱりダメージ考えると、火炎系ね」
「それで倒せれば御の字だ。あとはテンマ、そのまま触手を切断し続けて時間稼ぎして。
白虎はこの二人が攻撃に専念できるよう、ナイトのスキルで守って下さい。
クオン、触手に対応しながらなんとか青龍のところまで行ってくれ。
俺がタイミングを合わせて『絶対服従の糸』で、アースイーターを拘束する。数秒ではあるけど、その間に救出してほしい。みんな出来るか?」
皆はそれぞれに頷いた。一人の人間を助けることに、誰一人として異論はなかった。
花粉が晴れたところで、即座にエンジェルとサキュバスが光線を放ち、テンマが斬撃の速度を限界まで早めて触手を切断し続ける。その間にも、クオンがアースイーターへと近づいて行く。
カトレアがスペル発動しようと杖を構えたところで、触手が前方から襲いかかってきた。
「『スケープゴート』」
白虎がそう呟くと、触手がカトレアから白虎へと攻撃対象を切り替えた。伸びてきた触手を大槌で潰した白虎は、カトレアとテンマの横で仁王立ちした。
「ふん、あんなので私は死なないわよ。でも、おかげでこのスペルが放てる。塵と化せ。『インフェルノ』」
カドゥケウスの先端に焦げた色をした魔法陣が現れる。それと同時に、アースイーターの足下から赤黒く燃え盛る極太の火柱が、轟々と天まで昇った。風圧と熱波が、アキ達のいる湖沼の縁にまで届いてきた。
アースイーターは黒々と焦げ、動きも相当鈍くなったが、それでもまだ動きが止まることはなかった。むしろ、手として使っていた触手が足りなくなったと判断したのか、足に使っていた触手を配分してきた。
ゆっくりではあるものの、既に戦意喪失している青龍を持ち上げ始めている。
その時には既に、クオンがアースイーターの足の上に立っていた。
「捕食なんかさせるか……! 『絶対服従の糸』」
アースイーターへと細い糸が素早く伸びて行き、その巨体を締めつけるようにして巻きついていく。それとともに、触手の動きが止まった。だらりと口からよだれを垂れ流し、触手は萎れていく。
クオンは手放された青龍を片手で掴み上げ、アキの足下へ見事遠投して見せた。
「よっしよっし! 止められるのは、ほんの五秒程度。クオン、早く戻って来い!」
しかし、十秒以上経過しても、アースイーターに動く気配はない。アキとカトレア、泳ぐクオンに白虎は、首を傾げた。そんな白虎の隣でテンマが吹き出し、腹を抱えて大笑いし始めた。
「テ、テンマ?」
「くふはははっ! アキ、本当にお前は面白い男だ! くくっふふふっ」
それを訝しく眺めていたカトレアも、何かに気がついたのか、カドゥケウスを収めて深々とため息をついた。
二人を除いた精鋭隊メンバーは理解出来ていないようである。
「あそこまでしてドロップアイテム無しだなんて信じられないわ。いちいち、あの忌まわしい事件を思い出させないでちょうだい」
アキは口を開けながら、崩れゆくアースイーターを眺めた。やがて、塵となっていったアースイーターから、光の玉のようなものが浮かび上がり、アキの体の中へと吸い込まれるように入っていく。
アキは少しの間絶句した。その後、ぼそりと確認するように呟く。
「ま、まさか俺、アースイーターを使役したのか……?」
「えええぇぇ! アキすごいよ! やったね!」
「……信じられん」
無口な白虎ですら驚愕を隠し切れていなかった。例の事件の後から運営によって使役確率を下げられたはずのものが、偶然最後の一撃によって出来てしまったのだ。驚かないわけがなかった。
修正後の『絶対服従の糸』の確率は公表こそされてはいないが、検証していたプレイヤーの誰もが「通常モンスターですら、使役はほぼ不可能」と断言するほどである。
アキは震える左手で顔を覆いながら、もう片方の手でスキルメニューを開いた。使役出来ずに埋めることのなかった隅の空欄が、確かにアースイーターの不気味な表情で埋まっていることを確認する。
「ご、ごめん、なんて言ったら良いか……その、悪かったよ。まさかこんなことになるなんて……」
「どうして謝るのよ。さっきのはただの皮肉。こんなこと神にすがったって滅多にないのだから、素直に喜びなさいよ」
「そうだ、戦力が大幅に増強された! 喜ばしいことだぞ!」
「あー……はは、そっか! 青龍も救えたし、アースイーターまでもらえちゃって、一石二鳥だよな!」
────アキは、引きつった笑みを浮かべていた。
テンマはプロテクト内から未だに斬撃を繰り返し、サキュバスはプロテクトを貫通しつつ光線を放っているが、アースイーターはどうやら最後の一本となるまで青龍を手放さない意思があるようだった。
「どうしてなのだ。アースイーターに意識的に集中攻撃する動作などなかったはずだぞ!」
「また、クラッカーの仕業なのね」
斬り続けるテンマと呆れるカトレア。その後ろでアキは、眉間を指で揉みながら状況を冷静に観察していた。
「モンスターの制御までなんて、あり得ないな。それじゃまるで、このエタオンを作ってる運営部に犯人がいるみたい……うん?」
なんか引っかかるな。エタオンは世界的な目で見ても屈指のセキュリティシステムが積まれてるはず。それをいとも簡単にこじ開けた天才クラッカー。
内部から、同じ内部の人間にバレない『都合の良いセキュリティホール』を作り、外部からの侵入を装ったのなら、今回の事件はもしかしたら可能なのかもしれない。それなら、モンスターやNPCの制御をここまで変えられることに説明がつく。
でもここら辺は、社員にでもならない限りわからないか……。まず動機や目的も今のところわからない。
「今はそんなこと話してる暇ないよ! さっさと助けないと!」
「だな、クオンの言う通りだ。即興の作戦だけど、聞いてくれるか?」
「ないよりマシだ! そろそろ毒花粉を振り撒き終えるぞ!」
アキは短く「よし」と答えると、早口で話を進めた。エンジェルの展開するプロテクトの外に舞う花粉が、徐々に薄れてきた。
「カトレアさん、ドデカいスペル一発でも残ってるか?」
「まあ、なくはないわ。やっぱりダメージ考えると、火炎系ね」
「それで倒せれば御の字だ。あとはテンマ、そのまま触手を切断し続けて時間稼ぎして。
白虎はこの二人が攻撃に専念できるよう、ナイトのスキルで守って下さい。
クオン、触手に対応しながらなんとか青龍のところまで行ってくれ。
俺がタイミングを合わせて『絶対服従の糸』で、アースイーターを拘束する。数秒ではあるけど、その間に救出してほしい。みんな出来るか?」
皆はそれぞれに頷いた。一人の人間を助けることに、誰一人として異論はなかった。
花粉が晴れたところで、即座にエンジェルとサキュバスが光線を放ち、テンマが斬撃の速度を限界まで早めて触手を切断し続ける。その間にも、クオンがアースイーターへと近づいて行く。
カトレアがスペル発動しようと杖を構えたところで、触手が前方から襲いかかってきた。
「『スケープゴート』」
白虎がそう呟くと、触手がカトレアから白虎へと攻撃対象を切り替えた。伸びてきた触手を大槌で潰した白虎は、カトレアとテンマの横で仁王立ちした。
「ふん、あんなので私は死なないわよ。でも、おかげでこのスペルが放てる。塵と化せ。『インフェルノ』」
カドゥケウスの先端に焦げた色をした魔法陣が現れる。それと同時に、アースイーターの足下から赤黒く燃え盛る極太の火柱が、轟々と天まで昇った。風圧と熱波が、アキ達のいる湖沼の縁にまで届いてきた。
アースイーターは黒々と焦げ、動きも相当鈍くなったが、それでもまだ動きが止まることはなかった。むしろ、手として使っていた触手が足りなくなったと判断したのか、足に使っていた触手を配分してきた。
ゆっくりではあるものの、既に戦意喪失している青龍を持ち上げ始めている。
その時には既に、クオンがアースイーターの足の上に立っていた。
「捕食なんかさせるか……! 『絶対服従の糸』」
アースイーターへと細い糸が素早く伸びて行き、その巨体を締めつけるようにして巻きついていく。それとともに、触手の動きが止まった。だらりと口からよだれを垂れ流し、触手は萎れていく。
クオンは手放された青龍を片手で掴み上げ、アキの足下へ見事遠投して見せた。
「よっしよっし! 止められるのは、ほんの五秒程度。クオン、早く戻って来い!」
しかし、十秒以上経過しても、アースイーターに動く気配はない。アキとカトレア、泳ぐクオンに白虎は、首を傾げた。そんな白虎の隣でテンマが吹き出し、腹を抱えて大笑いし始めた。
「テ、テンマ?」
「くふはははっ! アキ、本当にお前は面白い男だ! くくっふふふっ」
それを訝しく眺めていたカトレアも、何かに気がついたのか、カドゥケウスを収めて深々とため息をついた。
二人を除いた精鋭隊メンバーは理解出来ていないようである。
「あそこまでしてドロップアイテム無しだなんて信じられないわ。いちいち、あの忌まわしい事件を思い出させないでちょうだい」
アキは口を開けながら、崩れゆくアースイーターを眺めた。やがて、塵となっていったアースイーターから、光の玉のようなものが浮かび上がり、アキの体の中へと吸い込まれるように入っていく。
アキは少しの間絶句した。その後、ぼそりと確認するように呟く。
「ま、まさか俺、アースイーターを使役したのか……?」
「えええぇぇ! アキすごいよ! やったね!」
「……信じられん」
無口な白虎ですら驚愕を隠し切れていなかった。例の事件の後から運営によって使役確率を下げられたはずのものが、偶然最後の一撃によって出来てしまったのだ。驚かないわけがなかった。
修正後の『絶対服従の糸』の確率は公表こそされてはいないが、検証していたプレイヤーの誰もが「通常モンスターですら、使役はほぼ不可能」と断言するほどである。
アキは震える左手で顔を覆いながら、もう片方の手でスキルメニューを開いた。使役出来ずに埋めることのなかった隅の空欄が、確かにアースイーターの不気味な表情で埋まっていることを確認する。
「ご、ごめん、なんて言ったら良いか……その、悪かったよ。まさかこんなことになるなんて……」
「どうして謝るのよ。さっきのはただの皮肉。こんなこと神にすがったって滅多にないのだから、素直に喜びなさいよ」
「そうだ、戦力が大幅に増強された! 喜ばしいことだぞ!」
「あー……はは、そっか! 青龍も救えたし、アースイーターまでもらえちゃって、一石二鳥だよな!」
────アキは、引きつった笑みを浮かべていた。
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