エタニティオンライン

足立韋護

発展と衰退

────その頃、アキ達はテンマと別れ、フラメラーズホテルに向かった。フラメラーズホテルの前にはユウが立っており、三人で宿の中へと入った。


「アキならここに来ると思って、待ってたんだ」


「もう完全に読まれてるね、アキ」


「なんだかんだで、ユウにはいつも読みで負けるからなあ」


 奥の喫茶店スペースの、カウンター席へと腰掛けた三人だったが、他の客が見当たらないことに気がついた。のんきに喫茶店でココアを楽しむ気も失せたのだろう。そんなことをアキ達か考えていると、店の奥から、いつもと変わらないフラメルの姿があった。カウンターの向こう側に立ち、一人一人の顔を見てくる。


「お待たせしました。あら、皆さんお揃いで」


 三人を代表して、アキが口を開いた。


「フラメルさん、一応ここにいる三人は、現状を把握しています」


「それなら話は早いですね。まず、この状況を打開する方法を知っている方はいらっしゃいますか?」


 三人は揃って首を振った。あの緊急告知の説明から読み取れることなど、運営側が解決してくれるまで待つ、ということくらいである。


「そうですね、私もです。では、これからは建設的な話をしましょう」


「というと?」


「私達にこれからすべきことは、街のプレイヤー達のようにだらけることでも怯えることでもありません。お金を集めることです」


「私にはよくわからないんだけど、どうしてお金が必要なのフラメルさん?」


「現在、PK、迷惑行為などしようとも、運営側が手を出せない以上ペナルティにはなりません。天馬騎士団も機能していないこの街は遠からず、平和な街、とまでは言えなくなるでしょう。それに加えて、私達のこの体は何も食べずにいると、いずれ空腹状態となりHPが徐々に減り始め、空腹が限度にまで達すると死に至る。つまり、食糧問題をお金の力で解決しておき、引きこもる準備をするわけです」


「お金を稼いだとして、たとえ現状でプレイヤーのファーマーがいなくとも、NPCの店を利用すれば、ひとまず食糧調達はできる、か……。そして運営が解決してくれるまで、ひたすらに引きこもるという堅実な案……。クオンはどう思う?」


「そこまで空気悪くなるのかな? なーんかわかんないけど、敵を殴るなら任せてっ!」


「おいおい……ユウは?」


 三人に見つめられたユウは、忙しくまばたきしながら、装飾品のメガネをくいっと上げた。やけに長い大太刀を相変わらず背中に備えており、その柄を指で弄びながら答える。


「僕も、賛成かな。やっぱり、運営がどうにかしてくれるのを待つしかないよね」


「満場一致、ですね。本来ならば、皆で揃って行動したほうが良いのですが、私とアキさんにはお店があります。そこで、二つのチームに分け、あとでお金を統合しましょう」


「わかりました。でも、最終的に貨幣を統合するとなると、やっぱり俺のとこのほうが規模が小さいので、少ない額になるかもしれないですけど……」


 フラメルは屈託のない笑みを浮かべた。


「ふふ、もしかしたらアキさんのほうが、儲けるかもしれませんよ?」


「いやいや……。じゃあ、チームは俺とクオンで良いですか?」


「では、私はユウさんと組みます。よろしくお願いしますね、ユウさん」


「何ができるかはわかりませんけど……頑張ります!」


「じゃ、俺とクオンは行きますね。またな、ユウ」


「またねーっ!」


 そうと決まったアキとクオンの行動は迅速で、一目散にフラメラーズホテルを後にして行った。そこに残されたフラメルとユウの間に暫しの沈黙が流れる。人のいない喫茶スペースは、ただただ広いだけの空間で、やけに寂しく感じられた。


「フラメルさん、アキがこれから必ず稼げるプレイヤーだってこと、知っていて話を持ちかけましたね」


「ふふ、彼がどこまでお金を稼げるか見てみたくなったのかもしれません。ここはもう、誰の必要ともされないようなので……」


 フラメルは暗い赤みのあるカウンターの木目を、指でゆっくりなぞりながら、俯きつつ唇を歪めた。

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