エタニティオンライン

足立韋護

運営の憂鬱

────ちょうど、アキ達がテンマと話している頃。現実世界、株式会社ポニーコンピュータエンターテイメント。エタニティオンライン運営部。


 西倉修にしくらしゅうは二十七歳にして、その卓越した技術によってエタニティオンライン運営部の部長にまでなった出世頭として、同期や後輩から羨望の眼差しを浴びていた。サーバー管理やシステムの調整など、エタニティオンラインに関する全ての業務を任されているこの運営部は、つい数時間前まで、ポニー社内での期待度は一番高かった。
 しかし、謎のクラッキング被害により、そんな浮ついた雰囲気は一気に取り払われた。


「修、そっちはどうなんだ?」


 運営部のデスクに座る相良良太さがらりょうたは、部長席に座る同期の修へと声をかけた。修は自らの短い髪の毛を撫でながら、空間に浮かび上がっている画面を眺めている。やがて低い声で返事をしてきた。


「ダメだ、正直まったく手が出せない」


「やっぱりか。どこの野郎かはわからないし手口すらわからねぇが、ムカつくほどに優秀だってことだけはわかる」


「だからと言って下手にいじるわけにもいかない。かろうじて、現状を告知できはするが、それだけでは……」


「大体よ、このエタニティオンライン関連はガッチガチなセキュリティのはずだろ? ハッカーの奴よく突破できたよな」


 現在、修達運営側が利用できるのは文字通り、ゲーム内のプレイヤーへ告知を行う部分だけであった。それ以外の、エタニティオンラインに関するページは、すべてアクセス制限がなされ、操作することのできないようになっていた。


「それに、状況が状況だけどよ、これじゃあまるで俺らが犯人みたいな扱いじゃねぇか」


 運営部の二つの出入り口には、屈強な警察官が二人一組で立っていた。時折忙しく出入りし、何か情報を伝えあっている。運営部内にいるのは、一部の優秀な社員と部長である修だけであった。エタニティオンラインの現状維持と、解決策の模索を要求され、昼夜問わず運営部で作業をする予定であった。通常、警察側のコンピュータに詳しい人間が派遣されるものだが、エタニティオンラインには独自のシステムやプログラムが多いための、特例であった。


「仕方がない。内部で穴を開けない限り突破されないようなセキュリティだし、何にせよこんなものを作ってしまった俺達の責任だ」


「ぐうの音も出ないこと言うなよ……。ま、しゃあない。ハッキングされてない箇所を探しを続けるとしますか。修もそんな気張らずに頑張れよ」


「ああ、ありがとう。みんなの分の夕食を調達してくる。少し席を外すぞ」


 修は席を立ち、扉を塞いでいる警察官に何か話をして、扉の外へと出て行った。それを見ていた女子社員の三枝美月さえぐさみづきが、イスのローラーを滑らせて良太の肩に手を置いた。修や良太の後輩の中でもお調子者的な存在だ。


「部長ってなんかミステリアスなとこありますよね」


「ん、まあ同期の俺でも知らないことの方が多いかんなぁ。特にあいつ、家族のこととか全然話してくれないんだよ。結婚とかはないと思うんだけど」


「彼女さんとかいるんですかねぇ」


「あ、そういえば、前に一度だけ話してくれたっけな」


「え、彼女さんについてですか!」


 美月はあからさまに目を輝かせた。良太は彼女が修に恋愛感情があることを知っており、随分前から様々な面で協力させられていた。振り向いた良太は、腕を交差させ、バッテンを作った。


「彼女じゃなくて、かーぞーく」


「なぁんだ。でも気になる」


「隠してないみたいだけど、シビアなことだし、あんま言いふらすなよ? あいつがガキの頃、両親が離婚したらしくてな。その時、仲良しだった妹が母親、修が父親の方に行って、離れ離れになっちまったって話。この前の飲み会の時にボソッと話してたわ」


「ミステリアス度が深まっただけじゃないですか!」


「うっせ、気になんなら自分で聞け。そんでさっさと作業戻れ」


「うへー」


 渋々デスクに戻った美月は、仕事などはせず、検索エンジンを使い西倉修で検索をかけたが、同姓同名の他人が出てくるだけであった。部長だったとしても、未だにテレビで露出したことがない修は、ネット上のコアなエタオンファンから名前が上がるのみで、特に取り沙汰された様子もなかった。

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