エタニティオンライン
騎士団長テンマ
兜を外し、ひたすらに文字を打ち込んでいく髪の長い女は、その状態のままアキとクオンに話しかけた。
「騎士団の者ではないな。何者だ」
低い声と高圧的な態度は、一騎士団をまとめ上げる団長のイメージと合致していた。
「俺はアキ。こっちはクオン。PKを捕獲してきたから、こいつをリストに追加してほしいんだ」
「ほう……?」
茶色の髪の毛を揺らし、首を傾げながらこちらを凝視してきた。目の半分ほどまでしか開いていない瞼のせいで、その視線は鋭い印象があった。ゲーム内で装飾しているのか、その黒目部分は青い。すっと通る鼻と長いまつげ、そして薄い唇が印象的だ。
「この混乱の最中で、PKを捕まえてくるとはなかなか骨があると見た。そいつは床にでも置いておけ。それより、お前達二人、天馬騎士団に入らないか?」
「……そうやって気に入ったのをポンポン入れるから、団員内でのイジメなんか起こるんだよ。あんた知らないだろ、俺の友達の団員がここでいじめられてること」
「知っている。ユウのことだろう?」
アキは思わず言葉を失った。
「大勢のプレイヤーがいれば、その中で馬が合わない人間が出るのもまた必然」
「あんたは……!」
「そうやって、ずっと奴を守ってやるのか」
「なに?」
長々と書いていたメッセージを送信したテンマは、木の椅子から立ち上がり、後ろで手を組みながら窓の外にある庭を眺めた。
「お前がそのままユウのそばにいる限り、ユウが成長する隙など微塵もないだろう」
「管理者がそうやって、責任を放棄するのか」
「私は、天馬騎士団を名乗り、その機能の使用を保証しているだけだ。範囲外で起きていることに責任を取る義理もなければ義務もない。それに、彼が受けている屈辱は、彼が晴らすべきだ、と私は思う。そうしなければ、何一つ解決しないのだから」
「……それがお前のロールプレイなのかよ」
「そうだ、これがエタニティオンラインでの私、テンマだ。冷たいと思うか?」
振り向いたテンマの表情に一片の迷いも見えない。ロールプレイを本気で行っているプレイヤー達の頂点に君臨する女。アキは正直、ここに来る前まではそれを舐め切っていた。しかし、今目の前にして、ようやくテンマという恐ろしいプレイヤーを知った。
「……冷たいな。最後に確認させてほしい。あんたは、ユウが大事か?」
「団員の一人だ。大事でないわけがない」
予想通りの答えだ。ようやくわかったよ、この人が信頼される理由が。誰にでも平等で、団員に優しく、時に厳しい。嘘がない一面のみのロールプレイヤー。揺らぎがなく、まるでこの城のように聳え立つキャラクター性。
本当に義理も義務もないと感じているのなら、今も増え続ける膨大な量の団員のうちの、地味な高校生一人の名前がすぐに出てくるわけないじゃないか。実は気にしている証拠だ。
「残念だけど、俺はあんたの傘下には入らない」
「本当に、残念な話だ」
「でもまあ、ユウが世話になってるのもあるし、これから何かしら協力出来たら良いな」
「うむ」
「……それと、さっきは厳しく言って悪かったよ。ロールプレイをしてるあんたには、酷なことだったよな」
その時、初めてテンマが優しく笑って見せた。その笑顔はとても活き活きとしており、現実世界に見せる素顔であろうことを、アキはなんとなく理解した。
「ありがとう。最近は、少し『デレ』というものを取り入れようか迷っているところだった。参考にさせてもらおう」
「是非とも参考にしてほしいな。あ、フレンド申請しておくから、何かあったら連絡くれよ。出来ることなら協力するから」
アキはメニュー画面を開き、オーブのようなアイコンを左へスライドし、『フレンド』と書かれたアイコンを開いた。新たに開かれた画面の中央には上から『フレンドリスト』『フレンド削除』『フレンド申請』と書かれた欄があり、フレンド申請を押すと、周囲にいるプレイヤーが一覧化された。そのうちのテンマにフレンド申請を行った。
「お前は不思議な男だ。大抵、私を前にしたプレイヤーは、緊張に顔を歪ませるものだが」
「あんたが少なくとも悪い奴じゃないってわかったからさ。それだけで緊張なんかほぐれる」
「それだけで、か。ますます騎士団に欲しくなったが、恐らくお前は強いのだな。図らずも、最強と謳われる私程度ではどうにも出来ないほどに」
黙って話を聞いているクオンは、いまだに手にグローブを着けていることを思い出し、取り外してアイテムチェストへと放り込んだ。
アキはテンマの言葉に、困ったように笑いながらうなじに手を当てた。
「はは、しがない薬屋の店主だよ、俺は」
「騎士団の者ではないな。何者だ」
低い声と高圧的な態度は、一騎士団をまとめ上げる団長のイメージと合致していた。
「俺はアキ。こっちはクオン。PKを捕獲してきたから、こいつをリストに追加してほしいんだ」
「ほう……?」
茶色の髪の毛を揺らし、首を傾げながらこちらを凝視してきた。目の半分ほどまでしか開いていない瞼のせいで、その視線は鋭い印象があった。ゲーム内で装飾しているのか、その黒目部分は青い。すっと通る鼻と長いまつげ、そして薄い唇が印象的だ。
「この混乱の最中で、PKを捕まえてくるとはなかなか骨があると見た。そいつは床にでも置いておけ。それより、お前達二人、天馬騎士団に入らないか?」
「……そうやって気に入ったのをポンポン入れるから、団員内でのイジメなんか起こるんだよ。あんた知らないだろ、俺の友達の団員がここでいじめられてること」
「知っている。ユウのことだろう?」
アキは思わず言葉を失った。
「大勢のプレイヤーがいれば、その中で馬が合わない人間が出るのもまた必然」
「あんたは……!」
「そうやって、ずっと奴を守ってやるのか」
「なに?」
長々と書いていたメッセージを送信したテンマは、木の椅子から立ち上がり、後ろで手を組みながら窓の外にある庭を眺めた。
「お前がそのままユウのそばにいる限り、ユウが成長する隙など微塵もないだろう」
「管理者がそうやって、責任を放棄するのか」
「私は、天馬騎士団を名乗り、その機能の使用を保証しているだけだ。範囲外で起きていることに責任を取る義理もなければ義務もない。それに、彼が受けている屈辱は、彼が晴らすべきだ、と私は思う。そうしなければ、何一つ解決しないのだから」
「……それがお前のロールプレイなのかよ」
「そうだ、これがエタニティオンラインでの私、テンマだ。冷たいと思うか?」
振り向いたテンマの表情に一片の迷いも見えない。ロールプレイを本気で行っているプレイヤー達の頂点に君臨する女。アキは正直、ここに来る前まではそれを舐め切っていた。しかし、今目の前にして、ようやくテンマという恐ろしいプレイヤーを知った。
「……冷たいな。最後に確認させてほしい。あんたは、ユウが大事か?」
「団員の一人だ。大事でないわけがない」
予想通りの答えだ。ようやくわかったよ、この人が信頼される理由が。誰にでも平等で、団員に優しく、時に厳しい。嘘がない一面のみのロールプレイヤー。揺らぎがなく、まるでこの城のように聳え立つキャラクター性。
本当に義理も義務もないと感じているのなら、今も増え続ける膨大な量の団員のうちの、地味な高校生一人の名前がすぐに出てくるわけないじゃないか。実は気にしている証拠だ。
「残念だけど、俺はあんたの傘下には入らない」
「本当に、残念な話だ」
「でもまあ、ユウが世話になってるのもあるし、これから何かしら協力出来たら良いな」
「うむ」
「……それと、さっきは厳しく言って悪かったよ。ロールプレイをしてるあんたには、酷なことだったよな」
その時、初めてテンマが優しく笑って見せた。その笑顔はとても活き活きとしており、現実世界に見せる素顔であろうことを、アキはなんとなく理解した。
「ありがとう。最近は、少し『デレ』というものを取り入れようか迷っているところだった。参考にさせてもらおう」
「是非とも参考にしてほしいな。あ、フレンド申請しておくから、何かあったら連絡くれよ。出来ることなら協力するから」
アキはメニュー画面を開き、オーブのようなアイコンを左へスライドし、『フレンド』と書かれたアイコンを開いた。新たに開かれた画面の中央には上から『フレンドリスト』『フレンド削除』『フレンド申請』と書かれた欄があり、フレンド申請を押すと、周囲にいるプレイヤーが一覧化された。そのうちのテンマにフレンド申請を行った。
「お前は不思議な男だ。大抵、私を前にしたプレイヤーは、緊張に顔を歪ませるものだが」
「あんたが少なくとも悪い奴じゃないってわかったからさ。それだけで緊張なんかほぐれる」
「それだけで、か。ますます騎士団に欲しくなったが、恐らくお前は強いのだな。図らずも、最強と謳われる私程度ではどうにも出来ないほどに」
黙って話を聞いているクオンは、いまだに手にグローブを着けていることを思い出し、取り外してアイテムチェストへと放り込んだ。
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