エタニティオンライン
緊迫の街
アイアンゴーレムとサキュバスのほうを見にいくと、敵の姿はもういなかった。特に草や木が痛んでいるわけもなく、戦いを繰り広げたようにあまり見えない。二体は木によりかかり、その場に座っていた。
「サキュバス、そっちはどうだった?」
サキュバスは唇を尖らせながら、不満そうに文句をたれた。
「もうっ、意味がわからないわよ。これからってときに『今のうちだ』とか言って、逃げて行っちゃった。信じられない!」
「確かに意味はわからないけど、戦わなくて済んだなら、それに越したことはないよ」
「あーん、もう欲求不満よー!」
そんなサキュバスを落ち着かせ、先程拘束した男をアイアンゴーレムに担がせて、アキ達は無事、『ディザイア』へと帰還した。街中に入ると、緊急告知のせいもあり、どこか緊張感のある雰囲気に包まれていた。
のんきに笑っている人間は少なく、ゲームを楽しんでいるどころではないようだった。一行はオータムストアへと戻る前に、天馬騎士団へと赴いた。天馬騎士団にPKの報告をすれば、そのプレイヤーの顔と名前、特徴などを詳細に記録し、それを専用のリストに追加してもらえる。それを参考にして旅や行商をするプレイヤーは多い。
「よし、騎士団の拠点前まで来たし、サキュバス、アイアンゴーレム、今回はここまでで良いや」
「もぉ、今度はちゃんと戦わせてよぉ?」
「『サキュバス』『アイアンゴーレム』返還。お疲れ様」
石作りの地面に、二つの円形の歪みが生じ、二体はその中へと入っていった。その場には、アキとクオン、それに男が残った。天馬騎士団の鉄扉の前にはいつも通り、堅牢な扉がそびえていたが、扉の前にいるはずの受付係はいなかった。
「さすがにいないねー」
「扉を開けて、中に入ってみよう」
アキは男を担ごうとするが、なかなか持ち上がらない。代わりにクオンが軽々と肩に担いだ。ステータスによるものであるが、アキはこういう時ばかりだけは、ファイターにでもしておけば良かったと後悔する。クオンに担がれた途端、男の体は硬直し、手が震え出していた。
「痛い思いさせられたら、怖くなるのも当然か」
天馬騎士団の中に入ると、無骨な大広間の壁に寄りかかってひたすら時が経つのを待っている団員達の姿があった。さすがにロールプレイなどしている暇はないようだ。近くに座っていた男に声をかけた。
「あの、PKを捕まえてきたんだけど」
「……PK、こんなことになっても、ゲーム感覚で人を殺す奴がいるのか……。終わった、終わったな」
虚空を眺める男は、力なく笑うばかりだ。
「おい、仕事してる人は誰もいないのか?」
「……ああ、テンマ団長なら、まだ色々やってたよ。あの人もあんたらもきっとおかしいんだ……こんなときに、平然とできるなんて……」
「……アキ、どうしよう?」
「団長に会おう。団長室に、マスタールームに入るキーをくれ。どうせ使わないんだろ?」
「は、そうだな……。ほらよ」
差し出した手に金色の鍵が落とされた。それを握りしめ、アキは立ち上がり、団長室を目指して歩き出した。ユウに案内され、過去に何度か団長室の目の前にまで行ったことはあったが、部屋の中に入るには団員に渡される鍵が必須であると教わっていた。
テンマの姿は遠くから見たことはあるが、頭から足の先まで鎧で覆われ、その素顔までは見たことがない。この大きな騎士団をまとめているのだから、恐らくは相当に頭の切れるであろうことは予想出来ていた。
長い廊下を歩いてやって来た団長室は、この城のような天馬騎士団の一階最奥に位置していた。特別豪勢なわけでもない木製の扉のノブに鍵をかざすと、ほんのりと光った。ノブを捻り、団長室へ入ると誰かにメッセージを送っている特に濃い紺色の鎧を着た女の姿があった。
「……アキ、テンマって女の人だったんだね」
「……意外だったな」
「サキュバス、そっちはどうだった?」
サキュバスは唇を尖らせながら、不満そうに文句をたれた。
「もうっ、意味がわからないわよ。これからってときに『今のうちだ』とか言って、逃げて行っちゃった。信じられない!」
「確かに意味はわからないけど、戦わなくて済んだなら、それに越したことはないよ」
「あーん、もう欲求不満よー!」
そんなサキュバスを落ち着かせ、先程拘束した男をアイアンゴーレムに担がせて、アキ達は無事、『ディザイア』へと帰還した。街中に入ると、緊急告知のせいもあり、どこか緊張感のある雰囲気に包まれていた。
のんきに笑っている人間は少なく、ゲームを楽しんでいるどころではないようだった。一行はオータムストアへと戻る前に、天馬騎士団へと赴いた。天馬騎士団にPKの報告をすれば、そのプレイヤーの顔と名前、特徴などを詳細に記録し、それを専用のリストに追加してもらえる。それを参考にして旅や行商をするプレイヤーは多い。
「よし、騎士団の拠点前まで来たし、サキュバス、アイアンゴーレム、今回はここまでで良いや」
「もぉ、今度はちゃんと戦わせてよぉ?」
「『サキュバス』『アイアンゴーレム』返還。お疲れ様」
石作りの地面に、二つの円形の歪みが生じ、二体はその中へと入っていった。その場には、アキとクオン、それに男が残った。天馬騎士団の鉄扉の前にはいつも通り、堅牢な扉がそびえていたが、扉の前にいるはずの受付係はいなかった。
「さすがにいないねー」
「扉を開けて、中に入ってみよう」
アキは男を担ごうとするが、なかなか持ち上がらない。代わりにクオンが軽々と肩に担いだ。ステータスによるものであるが、アキはこういう時ばかりだけは、ファイターにでもしておけば良かったと後悔する。クオンに担がれた途端、男の体は硬直し、手が震え出していた。
「痛い思いさせられたら、怖くなるのも当然か」
天馬騎士団の中に入ると、無骨な大広間の壁に寄りかかってひたすら時が経つのを待っている団員達の姿があった。さすがにロールプレイなどしている暇はないようだ。近くに座っていた男に声をかけた。
「あの、PKを捕まえてきたんだけど」
「……PK、こんなことになっても、ゲーム感覚で人を殺す奴がいるのか……。終わった、終わったな」
虚空を眺める男は、力なく笑うばかりだ。
「おい、仕事してる人は誰もいないのか?」
「……ああ、テンマ団長なら、まだ色々やってたよ。あの人もあんたらもきっとおかしいんだ……こんなときに、平然とできるなんて……」
「……アキ、どうしよう?」
「団長に会おう。団長室に、マスタールームに入るキーをくれ。どうせ使わないんだろ?」
「は、そうだな……。ほらよ」
差し出した手に金色の鍵が落とされた。それを握りしめ、アキは立ち上がり、団長室を目指して歩き出した。ユウに案内され、過去に何度か団長室の目の前にまで行ったことはあったが、部屋の中に入るには団員に渡される鍵が必須であると教わっていた。
テンマの姿は遠くから見たことはあるが、頭から足の先まで鎧で覆われ、その素顔までは見たことがない。この大きな騎士団をまとめているのだから、恐らくは相当に頭の切れるであろうことは予想出来ていた。
長い廊下を歩いてやって来た団長室は、この城のような天馬騎士団の一階最奥に位置していた。特別豪勢なわけでもない木製の扉のノブに鍵をかざすと、ほんのりと光った。ノブを捻り、団長室へ入ると誰かにメッセージを送っている特に濃い紺色の鎧を着た女の姿があった。
「……アキ、テンマって女の人だったんだね」
「……意外だったな」
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