エタニティオンライン

足立韋護

緊急告知

 ログアウト出来ないということが、異常であることは重々承知していた。しかし、何の情報も解決策もなしに走り回るだけでは徒労に終わってしまう。ならば有用になる金を稼ぐことを優先する他ない。
 そう自分を言い聞かせたアキは、悶々とした気持ちを抑え込みつつ、ベルとエンジェル、そして手伝うと言って聞かないクオンとともに、オータムストアでひたすらに物を売った。
 喚起したモンスターを追従させ、クオンを材料集めに行かせる。錬金術を行い物を増やし、需要が高まり続ける物を定価とほぼ変わらずに売り続ける。そうしていると、店の名前に足が生えたように瞬く間に広まっていった。


「ほら、ペナルティタイム過ぎるとよ、今んとこ拠点に復活出来ねえって話あんだろ。だがペナルティタイム中に復活薬使えば、そりゃとりあえず回避出来るみたいなんだわ。アキって言ったか、あんた良いとこに目付けたな」


「それはどうも。復活薬五つで良いですか?」


「ああ。今じゃここ以外の店が次々値上がりしてんのに、ここだけはほぼ定価。どうかしてるぜまったく」


 イベントによる回復薬と復活薬の需要高騰、そしてバグによる復活薬の更なる必要性。後者はまったくの偶然だったが、狙い通り回復薬と復活薬は次々に売れて行った。しかし、まだ行列が出来るほどではなく、在庫が緩やかに減っていくのみだった。


 そんな折、ユウからメッセージが届いた。視界の右上に『!』マークが現れ、その横に『ユウ』と書かれていることがその証拠だった。カウンター奥の部屋にて、片手で器用に錬金術の準備をしつつ、メッセージを確認してみた。


『アキ! これを見たら、すぐに最寄りのNPCのお店か、メニュー画面の緊急告知を見て! とにかく街から出ちゃいけない!』


 ユウがそんなに焦るなんて、どうかしたのか?


 メニュー画面へ戻ろうとした際、またもメッセージが送られてきた。相手はフラメルだ。続けざまのメッセージに若干顔をしかめたアキは、フラメルのメッセージも見てみる。


『アキさん、大変です。至急メニュー画面の緊急告知を見てください。その後、出来るだけ早くフラメラーズホテルに来ていただきたいのです。よろしくお願い申し上げます』


「な、なんだよ怖いなあ」


 フラスコを置き、改めて翡翠色のメニュー画面へ行くと、フォントなどの細かい設定などがなされていない『緊急告知』といった欄が追加されていた。その無骨な文字からは、焦りの色がうかがえる。
 それを指で押すと効果音もしないまま、翡翠色背景に文字列だけというこれまた何の面白みもないページへと画面が切り替わった。見出しの文字サイズですら何の工夫もなされておらず、本文と同様の大きさ、黒字のゴシック体で書かれてある。


『ログイン中のプレイヤーの皆々様へ。
 急ではありますが、当社が運営するエタニティオンラインのセキュリティシステムが突破され、ゲームシステム自体が何者かに乗っ取られているという、大変深刻な事態になっていることを、まずここに報告させていただきます。警察と連携し、犯人に対抗する手段を模索していたところ、告知部分のコードだけは編集出来るようになっており、この緊急告知を掲載することとなりました。
 当面は、犯人の特定や乗っ取られてしまった部分の解放を目標として、現在社員一同を総動員致しまして着手した状態となっております』


「の、乗っ取られ……?」


『なお、大変お手数をおかけ致しますが、ゲームのシステムを勝手に書き換えられてしまった都合上、次の変更点があると思われます。ご注意ご了承のほどお願い致します。
 一つ、エタカプの強制ログアウト機能の停止。二つ、ペナルティの消失。三つ、武器の仕様変更。四つ、NPCの挙動の変更。五つ、ログアウト機能の消失。六つ、ゲーム内での死亡確定時、復活の消失。以上の六点が現状で挙げられております。なおこちらは書き換えられたソースコードを確認して判断致しました。
 最大の注意点としてはゲーム内で死亡しますと、拠点に復活するというプログラムが作動せず、代わりにログインしている意識が接続しているネットワーク上へと放流されるプログラムが作動し、サルベージが不可能となります。その場合システムの関係上、現実での意識も戻ることはありません。つまり、実質『ゲーム内での死亡は現実世界での死亡』を意味しています。
 ですので、修正が完了するまでは、《絶対に死亡確定はしないように》ということだけ、ここに明記しておきます。
 今後は随時、進捗状況を報告致します。絶対に死亡確定しないよう、重ねてお願い申し上げます』


「はぁぁぁ……?」


 ため息混じりに息を吐き出してから、アキは座っている木製のイスにもたれた。ずりずりと背中が下がっていき、膝が前へ前へとずれていく。全身の力が抜けていき、一時的に思考停止した。頭だけではどうしようもなく整理がつかない。
 クオンが現在材料集めに街の外へ行くと言って、既に十五分は経っている。アキはそれを思い出して初めて全身に力が戻った。
 クオンが危ない、という一心だけで立ち上がり、店を飛び出した。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品