エタニティオンライン
猜疑のイベント
『このイベントは、拠点化のできる場所以外のフィールドでの戦闘を推奨するイベントです。他プレイヤーへの攻撃ペナルティは、イベント期間中無効となり、戦闘したプレイヤーに勝利するたび、勝利報酬を贈呈致します。ただし、戦闘を開始した際、互いの痛覚は十一分の一とさせていただきます。なお、イベント対象範囲外での戦闘は、今まで通りペナルティがございますので、ご了承下さいませ』
これは一体……。拠点化できる場所といえば、最大級の街である、ここディザイアや港町アビス、山岳都市ヴァルカンなどのことだ。つまり、そこ以外のフィールドでの無差別戦闘を推奨している……?
エタオンは今までPKを徹底的に許さない姿勢を見せていたじゃないか。PKに対するゲーム内の感覚を十一分の一にしてしまう五感減退処分や、アカウント停止処分だって、そういう方針を顕示するためだ。それに任意のプレイヤーと戦うなら、PvPのように、プレイヤー同士で戦う闘技場も用意してある。
「確かに、最初の頃のような街の外に出る緊張感は少なくなった気はするけど……」
アキはメニュー画面を閉じた後、自室の窓を再び眺めた。しかしその視線には、雄大な世界への感銘ではなく、運営のサニーへの猜疑を孕んでいた。すぐさま一階へと降りると、ベルがいつも通りカウンターにて帳簿をつけていた。アキを見つけたベルは、その今までにない様子に首を傾げる。
「どうかされました?」
「ごめん、行くところがある。店番頼んだ」
「え、ええ!」
背後にベルの声を浴びながら、アキは店を飛び出した。まだクオンからメールがないところを見ると、ログインしていないのだろう。そうなれば次に向かうべくは決まっていた。情報がいち早く集まる場所、ディザイア最大の酒場である、憩いの酒場だった。乗り物を持たないアキは、そう遠くない憩いの酒場まで走り出した。
数分もかからないうちに着いた憩いの酒場の前は、いつもと何ら変わらない様子だ。息を整えてから酒場へと入るが、中も外と変わらず、いつも通り雑談をしているプレイヤーや、NPCに満たされていた。
拍子抜けしたアキは、早とちりだったか、と深くため息をついた。しかし、そこでアキは頭の中で何か閃いた。
これは一儲けできるチャンスかもしれない……。
アキはまたも走り出した。他のプレイヤーに、必死に走り続けるアキを初心者プレイヤーのお使いクエストであると勘違いされ、嘲笑われた。しかし、千載一遇のチャンスを、そんなことで無駄にはしたくなかった。
オータムストアに帰ったアキは、扉を荒々しく開けた。肩を跳ね上がらせたベルに近寄りながら話しかける。
「ベル、今オータムストアの資産は?」
「え? えっと現時点で二十ゴールドと四十カッパーですけれど……」
「わかった。十五ゴールドで、回復薬と復活薬の素材をありったけ買ってきてくれ」
ベルは、声を裏返らせながら狼狽した。手元の帳簿と、アキを交互に見つめている。
「ど、どど、どうしてです?」
「商売のチャンスなんだ。出来る限り急いでほしい」
「で、でも、十五ゴールドも使ってもし失敗なんかしたら!」
アキは自信ありげに、笑ってみせた。
「ま、失敗しても、残りの五ゴールドがあれば、またやり直せるだろ! それじゃ、オータムセキュリティのほう行ってくるから!」
「ちょ、ちょっとー! 店番はー!」
アキはドアノブを掴みながら「忘れてた」、とスキルメニューから『エンジェル』を呼び出した。床の歪みから輝かしい羽を持った天使が現れた。白い布を全身に纏い、金色の髪の上には天使の輪が浮かんでいる。手には杖を持ち、その碧眼で周囲を見回している。
「あらやだ、また店番なの?」
「毎度毎度悪い。でも、今回は訳が違うんでな。店番、頼んだよ」
「しょうがないわね、手伝ったげる」
杖を背中に回して固定したエンジェルは、渋々カウンターへと回った。ベルはそれと入れ替わりに出て、二階のアキの部屋にある金庫へと向かって行った。それを確認したアキは、次にオータムセキュリティへと足を運ぶ。
これは一体……。拠点化できる場所といえば、最大級の街である、ここディザイアや港町アビス、山岳都市ヴァルカンなどのことだ。つまり、そこ以外のフィールドでの無差別戦闘を推奨している……?
エタオンは今までPKを徹底的に許さない姿勢を見せていたじゃないか。PKに対するゲーム内の感覚を十一分の一にしてしまう五感減退処分や、アカウント停止処分だって、そういう方針を顕示するためだ。それに任意のプレイヤーと戦うなら、PvPのように、プレイヤー同士で戦う闘技場も用意してある。
「確かに、最初の頃のような街の外に出る緊張感は少なくなった気はするけど……」
アキはメニュー画面を閉じた後、自室の窓を再び眺めた。しかしその視線には、雄大な世界への感銘ではなく、運営のサニーへの猜疑を孕んでいた。すぐさま一階へと降りると、ベルがいつも通りカウンターにて帳簿をつけていた。アキを見つけたベルは、その今までにない様子に首を傾げる。
「どうかされました?」
「ごめん、行くところがある。店番頼んだ」
「え、ええ!」
背後にベルの声を浴びながら、アキは店を飛び出した。まだクオンからメールがないところを見ると、ログインしていないのだろう。そうなれば次に向かうべくは決まっていた。情報がいち早く集まる場所、ディザイア最大の酒場である、憩いの酒場だった。乗り物を持たないアキは、そう遠くない憩いの酒場まで走り出した。
数分もかからないうちに着いた憩いの酒場の前は、いつもと何ら変わらない様子だ。息を整えてから酒場へと入るが、中も外と変わらず、いつも通り雑談をしているプレイヤーや、NPCに満たされていた。
拍子抜けしたアキは、早とちりだったか、と深くため息をついた。しかし、そこでアキは頭の中で何か閃いた。
これは一儲けできるチャンスかもしれない……。
アキはまたも走り出した。他のプレイヤーに、必死に走り続けるアキを初心者プレイヤーのお使いクエストであると勘違いされ、嘲笑われた。しかし、千載一遇のチャンスを、そんなことで無駄にはしたくなかった。
オータムストアに帰ったアキは、扉を荒々しく開けた。肩を跳ね上がらせたベルに近寄りながら話しかける。
「ベル、今オータムストアの資産は?」
「え? えっと現時点で二十ゴールドと四十カッパーですけれど……」
「わかった。十五ゴールドで、回復薬と復活薬の素材をありったけ買ってきてくれ」
ベルは、声を裏返らせながら狼狽した。手元の帳簿と、アキを交互に見つめている。
「ど、どど、どうしてです?」
「商売のチャンスなんだ。出来る限り急いでほしい」
「で、でも、十五ゴールドも使ってもし失敗なんかしたら!」
アキは自信ありげに、笑ってみせた。
「ま、失敗しても、残りの五ゴールドがあれば、またやり直せるだろ! それじゃ、オータムセキュリティのほう行ってくるから!」
「ちょ、ちょっとー! 店番はー!」
アキはドアノブを掴みながら「忘れてた」、とスキルメニューから『エンジェル』を呼び出した。床の歪みから輝かしい羽を持った天使が現れた。白い布を全身に纏い、金色の髪の上には天使の輪が浮かんでいる。手には杖を持ち、その碧眼で周囲を見回している。
「あらやだ、また店番なの?」
「毎度毎度悪い。でも、今回は訳が違うんでな。店番、頼んだよ」
「しょうがないわね、手伝ったげる」
杖を背中に回して固定したエンジェルは、渋々カウンターへと回った。ベルはそれと入れ替わりに出て、二階のアキの部屋にある金庫へと向かって行った。それを確認したアキは、次にオータムセキュリティへと足を運ぶ。
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