エタニティオンライン
仮想現実世界最後の日常
「厄介だな……。クオン! ひとまずこっちは引きつけとく!」
そう言ったアキは腰にある藍色の水神鞭を手に持ち、纏められた部分を解いた。グリップ部分は分厚く、筆記体で何か文字が書かれてあるがアキはこれが読めなかった。グリップから先、ぐねりと曲がる部位であるトングには、特に刃物らしいものはついていない。唯一、先端部分の金属が鋭く作られているのみだった。水神鞭を伸ばすと、全長十メートルもの姿が現れた。
俺には、クオンのように全身を武器にするようなセンスはない。
アキは軽く鞭を振るい、感覚を確かめる。肘を伸ばして手首を二度捻る。その動きに合わせるかのように十メートルの鞭は生き物のように宙を動き、手首を捻る度に激しい破裂音を鳴らした。
でも、エタニティオンラインで初めて見つけたものがあった。
感覚が全身に馴染んだところで腕を大きく振り上げ、鞭を伸ばした。二体目のキマイラに鞭が届いたところを見計らい、アキは勢いづけて手首を捻りつつ肘を曲げた。手首からグリップ、グリップからトング、トングから徐々に細い先端へと力は伝わり、やがて先端の金属部分はしなり、音速を超えてキマイラの羽根に襲いかかった。
一度鞭を地面に当て、その反動で再び宙へと運ぶ。アキは全身を使い四方八方からキマイラを攻撃していく。鞭で打たれ、金属部分で切られたキマイラは空中でふらつき、やがて地面へと落下した。
────俺には、鞭を、この長すぎる水神鞭を扱いこなす才能がある。
落下したキマイラの獅子部分を集中的に鞭で打ち絶命させた。体の動かない背中の山羊は首だけをアキに向け、その口を大きく開いた。口内から鋭利な氷が連続して、アキに向かって飛び出した。
しかし、焦る様子のないアキの目の前には、小柄なゴブリンロードが立ちはだかる。杖を軽く振った後に氷の槍が襲いかかったが、半透明の壁によって宙に砕け散った。ゴブリンロードのスキル、『プロテクトシールド』のおかげであった。
ゴブリンロードの背後から鞭を振るい、山羊の首に鞭を絡みつかせ、きつく締め付けた。しばらく抵抗を見せたが、ほどなくして鞭に抵抗する力が失われていった。
残るは蛇だ、と意気込んだところで何者かが、その蛇の頭を両手で掴む。
「クオン! あっちは終わったのか?」
「もっちろん。フルボッコだよー!」
いつもの愛らしい笑顔のまま蛇頭を掴み、ゆっくりと体を回転させていく。徐々に速さを増していくクオンは自身の三倍ほど大きな巨体のキマイラの体をも回転させ始めた。
高速で回転しているクオンはキマイラを空高く投げ飛ばす。地上から空へと舞い上がる巨体に、周囲にいたプレイヤー達も思わず見とれていた。
「スキルメニュー……。よぉーし。劇的必殺……!」
自由落下し始めた巨体を眺めつつ、クオンはゆっくりと右手を握りしめた。キマイラが落下する瞬間、両足を地につけ、右拳を前に突き出す。
「『デーモンズクラッシャー!』」
拳から白と黒の巨大な火炎が吹き出し、キマイラの全身を包み込んだ。焼けもせず燃えもせず、ただキマイラのHPは底を尽き、その体は塵となっていった。その見事なコンボに周囲のプレイヤーからぱらぱらと拍手を貰う。クオンはいつもの笑顔で手を振り、その拍手に応えた。
「ありがとー! ありがとー!」
────二人がディザイアに帰り、憩いの酒場にて報酬を受け取った頃には、午後十一時を回っていた。明日のログアウト分を考えクエストは行わず、二人は憩いの酒場で少し話をしてからログアウトすることにした。
カウンターに腰かけたクオンとアキは、棚に並べられたワインや日本酒を眺めながら一息つく。
「そういえばアッキーと出会ってから、半年になるかぁ」
白ワインの入ったグラスを傾けたクオンは、思い返すようにぼやいた。オレンジジュースを飲むアキも宙を見てから返事する。
「もうそんなになるんだ。最初は俺のモンスター集めに付き合ってくれるなんて、どんな裏があるんだと思ってたなあ」
「経験値も、お金も、アイテムも、あんまり興味ないからね。今この時間を楽しく過ごせれば、私は十分!」
それを聞いたアキはふと冗談めいた口調で、クオンにとあることを聞いた。
「ふふ、もしかして俺といる時間が楽しいのか?」
「……ステータスが数値化されない、現実に近づきすぎた非現実。そんなゲームらしくないエタニティオンラインと、頼れる相棒のアキが、私は好きなんだよねえ」
考えてもいなかった解答をもらい、アキは思わず顔を赤らめた。焦ってオレンジジュースを飲み干し、むせた。それを知ってか知らずかまたもクオンはぼやいた。
「よく思わない? こんな時間がずーっと続けば良いのになーってさ」
「ずっとぉ!? き、急に言われても、そんな……!」
「アッキーってば照れすぎー!」
────店を切り盛りし、クオンなどの仲間とクエストをこなしてユウや知り合い達と談笑する。たまにどこかの町にまで冒険してベルに叱られる。そんなアキの大切な日常が、このエタニティオンラインには詰まっていた。
そう言ったアキは腰にある藍色の水神鞭を手に持ち、纏められた部分を解いた。グリップ部分は分厚く、筆記体で何か文字が書かれてあるがアキはこれが読めなかった。グリップから先、ぐねりと曲がる部位であるトングには、特に刃物らしいものはついていない。唯一、先端部分の金属が鋭く作られているのみだった。水神鞭を伸ばすと、全長十メートルもの姿が現れた。
俺には、クオンのように全身を武器にするようなセンスはない。
アキは軽く鞭を振るい、感覚を確かめる。肘を伸ばして手首を二度捻る。その動きに合わせるかのように十メートルの鞭は生き物のように宙を動き、手首を捻る度に激しい破裂音を鳴らした。
でも、エタニティオンラインで初めて見つけたものがあった。
感覚が全身に馴染んだところで腕を大きく振り上げ、鞭を伸ばした。二体目のキマイラに鞭が届いたところを見計らい、アキは勢いづけて手首を捻りつつ肘を曲げた。手首からグリップ、グリップからトング、トングから徐々に細い先端へと力は伝わり、やがて先端の金属部分はしなり、音速を超えてキマイラの羽根に襲いかかった。
一度鞭を地面に当て、その反動で再び宙へと運ぶ。アキは全身を使い四方八方からキマイラを攻撃していく。鞭で打たれ、金属部分で切られたキマイラは空中でふらつき、やがて地面へと落下した。
────俺には、鞭を、この長すぎる水神鞭を扱いこなす才能がある。
落下したキマイラの獅子部分を集中的に鞭で打ち絶命させた。体の動かない背中の山羊は首だけをアキに向け、その口を大きく開いた。口内から鋭利な氷が連続して、アキに向かって飛び出した。
しかし、焦る様子のないアキの目の前には、小柄なゴブリンロードが立ちはだかる。杖を軽く振った後に氷の槍が襲いかかったが、半透明の壁によって宙に砕け散った。ゴブリンロードのスキル、『プロテクトシールド』のおかげであった。
ゴブリンロードの背後から鞭を振るい、山羊の首に鞭を絡みつかせ、きつく締め付けた。しばらく抵抗を見せたが、ほどなくして鞭に抵抗する力が失われていった。
残るは蛇だ、と意気込んだところで何者かが、その蛇の頭を両手で掴む。
「クオン! あっちは終わったのか?」
「もっちろん。フルボッコだよー!」
いつもの愛らしい笑顔のまま蛇頭を掴み、ゆっくりと体を回転させていく。徐々に速さを増していくクオンは自身の三倍ほど大きな巨体のキマイラの体をも回転させ始めた。
高速で回転しているクオンはキマイラを空高く投げ飛ばす。地上から空へと舞い上がる巨体に、周囲にいたプレイヤー達も思わず見とれていた。
「スキルメニュー……。よぉーし。劇的必殺……!」
自由落下し始めた巨体を眺めつつ、クオンはゆっくりと右手を握りしめた。キマイラが落下する瞬間、両足を地につけ、右拳を前に突き出す。
「『デーモンズクラッシャー!』」
拳から白と黒の巨大な火炎が吹き出し、キマイラの全身を包み込んだ。焼けもせず燃えもせず、ただキマイラのHPは底を尽き、その体は塵となっていった。その見事なコンボに周囲のプレイヤーからぱらぱらと拍手を貰う。クオンはいつもの笑顔で手を振り、その拍手に応えた。
「ありがとー! ありがとー!」
────二人がディザイアに帰り、憩いの酒場にて報酬を受け取った頃には、午後十一時を回っていた。明日のログアウト分を考えクエストは行わず、二人は憩いの酒場で少し話をしてからログアウトすることにした。
カウンターに腰かけたクオンとアキは、棚に並べられたワインや日本酒を眺めながら一息つく。
「そういえばアッキーと出会ってから、半年になるかぁ」
白ワインの入ったグラスを傾けたクオンは、思い返すようにぼやいた。オレンジジュースを飲むアキも宙を見てから返事する。
「もうそんなになるんだ。最初は俺のモンスター集めに付き合ってくれるなんて、どんな裏があるんだと思ってたなあ」
「経験値も、お金も、アイテムも、あんまり興味ないからね。今この時間を楽しく過ごせれば、私は十分!」
それを聞いたアキはふと冗談めいた口調で、クオンにとあることを聞いた。
「ふふ、もしかして俺といる時間が楽しいのか?」
「……ステータスが数値化されない、現実に近づきすぎた非現実。そんなゲームらしくないエタニティオンラインと、頼れる相棒のアキが、私は好きなんだよねえ」
考えてもいなかった解答をもらい、アキは思わず顔を赤らめた。焦ってオレンジジュースを飲み干し、むせた。それを知ってか知らずかまたもクオンはぼやいた。
「よく思わない? こんな時間がずーっと続けば良いのになーってさ」
「ずっとぉ!? き、急に言われても、そんな……!」
「アッキーってば照れすぎー!」
────店を切り盛りし、クオンなどの仲間とクエストをこなしてユウや知り合い達と談笑する。たまにどこかの町にまで冒険してベルに叱られる。そんなアキの大切な日常が、このエタニティオンラインには詰まっていた。
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