エタニティオンライン
若き契約者キュータ
カウンターの奥にはロウソクだけが建てられた、窓もない質素な廊下が続いていた。部屋がいくつかに分かれていて一番手前側の部屋に二人は案内された。
「相手のプレイヤーは、既に中でお待ちですよ。お店のほうが暇になったら、また伺いますね」
「わかりました。ではまた」
フラメルに会釈し、部屋へと入った。特に何の変哲もない部屋だったが、部屋の角にはアクセントとして大きな壺が置かれていた。
そして部屋の中央には木目の細かい木製の机があり、そのセットとなっている椅子には若い青年が座っていた。
天の部分に一本の白い羽がつけられている帽子が傍らに置いてある。少々着飾った服装だが防具のようなものは見られなかった。
そのクリクリとした目で、部屋に入ってきたアキとクオンを見つめてきた。
見た限りじゃ商人。俺より若いな。職業は……武器を常備していないところを見ると後衛職か生産職のファーマーといったところか。ひとまず話を聞いてみよう。
「あ、こんにちは! アキさんですか……?」
若干不安げに、アキとクオンに話しかけている。アキという名前からでは、男女の区別がつかないため戸惑っているのだとアキは察した。
「ああ、アキは俺です。こっちはクオン。今回は護衛として付いてもらってるだけですよ」
「よろしくねーっ」
アキとクオンは青年商人の対面に座りながら、彼の話に耳を傾ける。
「ああ、良かった。『天馬騎士団』のユウさんから紹介していただいたんです。確か、リアルでの友達なんですよね?」
「お、ユウの紹介だったんですか」
天馬騎士団の紹介だと、この商人は初心者か。ああいった超大型クランにクラスメイトがいると助かるなあ。
「俺、キュータって言います。ユウさんには色々とお世話になりました。行商をするなら、護衛にオータムセキュリティがおすすめだと言われて、来た次第です」
「なるほど。では、まず少し説明させてもらいますね。
オータムセキュリティが貸し出すモンスターには、レベルや種類に応じた強さのランクがあります。契約されたプレイヤーは、そのランクに応じた硬貨を払っていただくことになります。前金をこの場で、残りを契約満了時にエタニティオンラインのシステムを使って自動送金される手筈です。
契約期間は、あなたがここ『ディザイア』から出て、どこかの村、町に着くまで。もしくはダンジョンに入ってから一時間まで。またはクエストを受注してから完了、もしくは失敗するまで、です。
この契約書に名前のサインとモンスター名を記入していただければ、エタニティオンラインのシステムに登録してある契約が成立し、こちらのモンスターを期間内に限り貸すことが出来ます。
契約満了時には『商売システム』によって所持金から勝手に送金されますので、そこらへんはあまり気にする必要はありません」
アキはキュータの様子を伺いながら、今話したことが記載されてある『商売システム』登録済みの契約書と、ランクごとに分けられたモンスターの一覧表を、アイテムチェストから取り出す。そして続けざまに注意事項も話し出した。
「もし道中で、こちらのモンスターが戦闘時以外において、契約者の不正行為で死した場合、それは『プレイヤーキル』と見なして、自警団でもある天馬騎士団へと報告することがありますので、ご了承下さい。
最後にこちらのモンスターが役に立たなかった場合に関して、我々オータムセキュリティは一切責任を問われないことを条件とします。ま、ないとは思いますが、一応、こちらの注意事項の紙にもサインをお願いしますね。こっちも『商売システム』登録済みです」
長々淡々と説明したアキは、注意事項の書かれた一枚の用紙も取り出した。机の上には合計三枚もの用紙が並べられている。それらを見て、クオンは口を縦に開けながら感心している。
「ちゃぁんと商売やってたんだねぇ。すごいすごい!」
「クオンのことは業務妨害で訴えるかもな」
「あはは! この世界に法律はないから平気なんだなー!」
この間にもキュータは厳しい表情をしていた。初心者にありがちな金銭の問題であるとアキは察した。
「お金の問題ですか? なら、後金で全額払っていただく方法もありますけど」
「実のところ、ずっと憧れてた行商をしようとしていまして、売れるかどうかはわからないんです。行商に必要なアイテムに使ってしまって、資金はほぼ残っておらず、かと言って一人で長旅が出来るほど強くもないので……」
キュータは申し訳なさそうに肩をすくめながら、ぽつぽつと話し出した。資金難、これは商売をメインにプレイする者とって死活問題であることは、アキが十分承知している。彼の行商への憧れは、自らが馳せていた錬金術への憧れと似たものを感じた。
「どうするのアッキー」
「……わかりました。ではこの契約はご破算ということで」
アキは机に並べた三枚のうち、モンスターの一覧表をアイテムチェストへ戻し、注意事項をそっと机の端に寄せ、残った契約書を細かくビリビリに破いて見せた。その光景をクオンとキュータはただただ唖然と見つめている。
「相手のプレイヤーは、既に中でお待ちですよ。お店のほうが暇になったら、また伺いますね」
「わかりました。ではまた」
フラメルに会釈し、部屋へと入った。特に何の変哲もない部屋だったが、部屋の角にはアクセントとして大きな壺が置かれていた。
そして部屋の中央には木目の細かい木製の机があり、そのセットとなっている椅子には若い青年が座っていた。
天の部分に一本の白い羽がつけられている帽子が傍らに置いてある。少々着飾った服装だが防具のようなものは見られなかった。
そのクリクリとした目で、部屋に入ってきたアキとクオンを見つめてきた。
見た限りじゃ商人。俺より若いな。職業は……武器を常備していないところを見ると後衛職か生産職のファーマーといったところか。ひとまず話を聞いてみよう。
「あ、こんにちは! アキさんですか……?」
若干不安げに、アキとクオンに話しかけている。アキという名前からでは、男女の区別がつかないため戸惑っているのだとアキは察した。
「ああ、アキは俺です。こっちはクオン。今回は護衛として付いてもらってるだけですよ」
「よろしくねーっ」
アキとクオンは青年商人の対面に座りながら、彼の話に耳を傾ける。
「ああ、良かった。『天馬騎士団』のユウさんから紹介していただいたんです。確か、リアルでの友達なんですよね?」
「お、ユウの紹介だったんですか」
天馬騎士団の紹介だと、この商人は初心者か。ああいった超大型クランにクラスメイトがいると助かるなあ。
「俺、キュータって言います。ユウさんには色々とお世話になりました。行商をするなら、護衛にオータムセキュリティがおすすめだと言われて、来た次第です」
「なるほど。では、まず少し説明させてもらいますね。
オータムセキュリティが貸し出すモンスターには、レベルや種類に応じた強さのランクがあります。契約されたプレイヤーは、そのランクに応じた硬貨を払っていただくことになります。前金をこの場で、残りを契約満了時にエタニティオンラインのシステムを使って自動送金される手筈です。
契約期間は、あなたがここ『ディザイア』から出て、どこかの村、町に着くまで。もしくはダンジョンに入ってから一時間まで。またはクエストを受注してから完了、もしくは失敗するまで、です。
この契約書に名前のサインとモンスター名を記入していただければ、エタニティオンラインのシステムに登録してある契約が成立し、こちらのモンスターを期間内に限り貸すことが出来ます。
契約満了時には『商売システム』によって所持金から勝手に送金されますので、そこらへんはあまり気にする必要はありません」
アキはキュータの様子を伺いながら、今話したことが記載されてある『商売システム』登録済みの契約書と、ランクごとに分けられたモンスターの一覧表を、アイテムチェストから取り出す。そして続けざまに注意事項も話し出した。
「もし道中で、こちらのモンスターが戦闘時以外において、契約者の不正行為で死した場合、それは『プレイヤーキル』と見なして、自警団でもある天馬騎士団へと報告することがありますので、ご了承下さい。
最後にこちらのモンスターが役に立たなかった場合に関して、我々オータムセキュリティは一切責任を問われないことを条件とします。ま、ないとは思いますが、一応、こちらの注意事項の紙にもサインをお願いしますね。こっちも『商売システム』登録済みです」
長々淡々と説明したアキは、注意事項の書かれた一枚の用紙も取り出した。机の上には合計三枚もの用紙が並べられている。それらを見て、クオンは口を縦に開けながら感心している。
「ちゃぁんと商売やってたんだねぇ。すごいすごい!」
「クオンのことは業務妨害で訴えるかもな」
「あはは! この世界に法律はないから平気なんだなー!」
この間にもキュータは厳しい表情をしていた。初心者にありがちな金銭の問題であるとアキは察した。
「お金の問題ですか? なら、後金で全額払っていただく方法もありますけど」
「実のところ、ずっと憧れてた行商をしようとしていまして、売れるかどうかはわからないんです。行商に必要なアイテムに使ってしまって、資金はほぼ残っておらず、かと言って一人で長旅が出来るほど強くもないので……」
キュータは申し訳なさそうに肩をすくめながら、ぽつぽつと話し出した。資金難、これは商売をメインにプレイする者とって死活問題であることは、アキが十分承知している。彼の行商への憧れは、自らが馳せていた錬金術への憧れと似たものを感じた。
「どうするのアッキー」
「……わかりました。ではこの契約はご破算ということで」
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