エタニティオンライン
幻の竜使い
しかし、あれだけの説明をされてもクオンの顔は冴えていない。それをアキは既に予想済みであった。それは、この事件の核心をいまだに話していないからだ。
「でもさ、なんでそれで事件って言われちゃうの? 私はモンスターテイマーじゃないし、その場にいなかったからよくわからないんだけど」
「まあ普通に考えたら、莫大な経験値も、あの優秀なクエスト報酬も貰えて、しかもダークネスドラゴンまで自由に使えるようになったんだから、良いじゃないかって思えるよなあ。でも、さっき話したモンスターテイマーの使役スキルには、ある一つのデメリットがあったんだ」
「それって……?」
「『絶対服従の糸』のような使役スキルは、モンスターを倒して、もしそのモンスターを使役した場合に限り……ドロップの機会自体をなくし、経験値も貰えない。
更には『絶対服従の糸』限定効果であるクエストのボスを使役した場合は、クエスト報酬も貰えなくなる。
つまり、その上位クランの人達の労力はすべて、何もかも水の泡。全てはそのモンスターテイマーだけがダークネスドラゴンを手に入れ、得をしたってわけさ」
「それでも運営元の『サニー』は何も対策してないんだ……。まあそれで、そのあとはどうなったの?」
「そのモンスターテイマーはステータス画面やクランメンバーリストの名前を見られる前に、クランから逃げ出したんだ。
そのイベントのためだけに入ったクランだったからか、誰からも名前も顔も覚えられていなかったそうだよ。
でもその後、結局ダークネスドラゴンを使うプレイヤーは現れないもんだから、『幻のドラゴンテイマー』だとか『幻の竜使い』なんて呼ばれてる。
それからそのイベント以降、モンスターテイマーの人達はクランから強制的に抜けさせられ、まあ色んなところで冷遇されるようになった。それが理由でエタニティオンラインをやめる人だって出てきたくらいなんだ」
「このエタニティオンラインって独特で、職業は一度決めたら変えられないもんねー。最初、サブキャラも作れないって聞いたときは驚いたよ!」
クオンは瞳をカッと見開き、驚いた様を再現した。それを横目で見つつ、アキは口元を緩ませる。すれ違うプレイヤー達はくすくすとクオンを笑っている。ここまで話したところでようやく目指していた宿である、『フラメラーズホテル』が視界に入った。
「そう。だから幻の竜使いもキャラクターを削除して、もう一度新しいキャラクターでプレイしてるんじゃないかってことで今のところ話は収束してる。
ついでに言えば、さっき運営の『サニー』が対策してないって言ってたけど、モンスターテイマーの使役確率はそれからかなり下げられたはずだよ。
『絶対服従の糸』なんて今じゃ、追加効果の『拘束』目的以外には使ってる人なんていないんじゃないか。
他にもボスモンスターは捕まえられないけど、『絶対服従の糸』より断然確率の高い『屈服の鎖』とか『恭順の縄』があるから、使役目的なら今はそっちが主流かな。っと、そろそろ着くか」
「なるほどね。毎度丁寧な説明ありがとー。アホな私でもよくわかる!」
二人は三階建ての大きな建物、『フラメラーズホテル』を正面から見据えた。小洒落た模様のガラス窓がちらちらと光に反射している。木製の扉を開けると、木の軋む心地良い音が響き渡り、それがドアチャイムの役割を果たしていた。
店内の奥からゆったりと出てきたのは、落ち着き払った雰囲気の、腰まである黒い髪を持つ女性だった。その雰囲気に合った美しい顔はアキに女神を彷彿とさせた。タートルネックの大きな胸がより強調されている深緑のセーターと、ストレッチタイプのジーンズを着こなしていた。
「フラメルさん、どうも。今日もよろしくお願いします」
アキは深々とお辞儀をした。
「アキさん、お元気そうで。今日はクオンさんも一緒なのですか?」
クオンが手を振ると、フラメルも優しげな笑顔とともに小さく手を振り返す。
玄関付近は特に何もなく、宿のチェックインとチェックアウトをするためのカウンターが横の壁に取り付けられていた。カウンターの用紙には客の名前が整然と書かれてある。
「今日はこれからクエストに行くはずだったんですけど、急にオータムセキュリティのほうで契約があったもので。今日クオンは俺の護衛ってことでお願いします」
「わかりました。では二人とも、店の奥へどうぞ」
「わーい! 私初めてなんだよねー。フラメラーズホテルのこっち側!」
三人はカウンターの前を横切った先にある小さな喫茶店でも、二階より上にある宿泊スペースでもない場所へと足を踏み入れようとしていた。そこは決して一般客が足を踏み入れられない場所である。
「でもさ、なんでそれで事件って言われちゃうの? 私はモンスターテイマーじゃないし、その場にいなかったからよくわからないんだけど」
「まあ普通に考えたら、莫大な経験値も、あの優秀なクエスト報酬も貰えて、しかもダークネスドラゴンまで自由に使えるようになったんだから、良いじゃないかって思えるよなあ。でも、さっき話したモンスターテイマーの使役スキルには、ある一つのデメリットがあったんだ」
「それって……?」
「『絶対服従の糸』のような使役スキルは、モンスターを倒して、もしそのモンスターを使役した場合に限り……ドロップの機会自体をなくし、経験値も貰えない。
更には『絶対服従の糸』限定効果であるクエストのボスを使役した場合は、クエスト報酬も貰えなくなる。
つまり、その上位クランの人達の労力はすべて、何もかも水の泡。全てはそのモンスターテイマーだけがダークネスドラゴンを手に入れ、得をしたってわけさ」
「それでも運営元の『サニー』は何も対策してないんだ……。まあそれで、そのあとはどうなったの?」
「そのモンスターテイマーはステータス画面やクランメンバーリストの名前を見られる前に、クランから逃げ出したんだ。
そのイベントのためだけに入ったクランだったからか、誰からも名前も顔も覚えられていなかったそうだよ。
でもその後、結局ダークネスドラゴンを使うプレイヤーは現れないもんだから、『幻のドラゴンテイマー』だとか『幻の竜使い』なんて呼ばれてる。
それからそのイベント以降、モンスターテイマーの人達はクランから強制的に抜けさせられ、まあ色んなところで冷遇されるようになった。それが理由でエタニティオンラインをやめる人だって出てきたくらいなんだ」
「このエタニティオンラインって独特で、職業は一度決めたら変えられないもんねー。最初、サブキャラも作れないって聞いたときは驚いたよ!」
クオンは瞳をカッと見開き、驚いた様を再現した。それを横目で見つつ、アキは口元を緩ませる。すれ違うプレイヤー達はくすくすとクオンを笑っている。ここまで話したところでようやく目指していた宿である、『フラメラーズホテル』が視界に入った。
「そう。だから幻の竜使いもキャラクターを削除して、もう一度新しいキャラクターでプレイしてるんじゃないかってことで今のところ話は収束してる。
ついでに言えば、さっき運営の『サニー』が対策してないって言ってたけど、モンスターテイマーの使役確率はそれからかなり下げられたはずだよ。
『絶対服従の糸』なんて今じゃ、追加効果の『拘束』目的以外には使ってる人なんていないんじゃないか。
他にもボスモンスターは捕まえられないけど、『絶対服従の糸』より断然確率の高い『屈服の鎖』とか『恭順の縄』があるから、使役目的なら今はそっちが主流かな。っと、そろそろ着くか」
「なるほどね。毎度丁寧な説明ありがとー。アホな私でもよくわかる!」
二人は三階建ての大きな建物、『フラメラーズホテル』を正面から見据えた。小洒落た模様のガラス窓がちらちらと光に反射している。木製の扉を開けると、木の軋む心地良い音が響き渡り、それがドアチャイムの役割を果たしていた。
店内の奥からゆったりと出てきたのは、落ち着き払った雰囲気の、腰まである黒い髪を持つ女性だった。その雰囲気に合った美しい顔はアキに女神を彷彿とさせた。タートルネックの大きな胸がより強調されている深緑のセーターと、ストレッチタイプのジーンズを着こなしていた。
「フラメルさん、どうも。今日もよろしくお願いします」
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