エタニティオンライン

足立韋護

秋商店

「しかもアキさん、あなたには経営の知識が皆無ですよね? まあそれは百歩譲って良しとしますよ。私が教えますから。ですが、せめて教えたことは覚えてください! これでは先が思いやられます!」


 感情的になっていくベルは、受付のテーブルを人差し指でとんとんと鳴らし始める。


「うぐ……。理解力はあるんですが、記憶力がなにぶん……」


「個人的に言わせてもらえば、気になるのはお店の名前ですよ。『オータムストア』ってなんですかこれ! どうせアキさんのアキと、春夏秋冬の秋をかけたんでしょうけど、何をするお店なのか皆目見当がつきませんよ。秋でも売るんですか? なら柿や栗や松ぼっくりでも置いたらどうです?」


「それ良いかも」




「本気で言っているなら私、このお店辞めますからね」


「じょ、冗談だって! ごめんごめん」


 店で雇うNPCには、商売に関するヘルプ機能が備わっていた。雇われている店の売り上げが落ち込んでいる時には、それぞれのNPCのやり方で、設定されたヘルプが雇い主のプレイヤーへ伝えられる。


 あるNPCは慰めるように。あるNPCは手紙を用いる場合もある。ベルは生真面目で責任感が強い性格なので、雇い主を叱責する形でヘルプを伝える。しかし、その後に優しさを見せる辺り、人間らしく、性格通りで、製作陣は巧妙であると常々プレイヤーに感じさせていた。


「……正直に言うと、私はアキさんを尊敬しています。ものすごく強くて、優しくて……だけれど、何故か少しボロな服に身を包んで、防具もつけてない目立たない格好をしている変な面白さもあって。だから、私はそんなアキさんの力になりたいんです」


 ベルに言われた通り、アキはNPCのように特徴のない茶色系のシャツとボトムに身を包んでいた。
 腰には過去のイベントでドロップした激レア武器である鞭の『水神鞭すいじんべん』。
 そして手のひらサイズで円盤の形をしている、メニュー画面でアイテム欄からアイテムを召喚することが出来る『アイテムチェスト』がぶら下げられていた。


 エタニティオンラインではエタカプの全身スキャンによって、外見は現実世界に酷似するようになっていた。髪色は黒くショートヘア、顔も特別に整っているわけでも崩れているわけでもなかった。


 そんなアキを俯きながら上目遣いでちらちらと見ているベルは、手を体の前で弄っている。ほんのりと赤らめた頬がベルの長い髪の向こうに垣間見えた。不覚にも見惚れてしまったアキも頭をかきながら何故だか照れてしまった。


「わ、わかった。これからはもっと頑張ってみるから。副業の仕事も、もっと増やすよ」


「はい! 私嬉しいです! よろしくお願いしますねっ」


 眩しいばかりの笑顔を向けられ思わず顔を背ける。NPCがここまで高性能なことも、エタニティオンラインが流行った要因の一つである。
 クオンが来るまで二人で店番をしていようかと考えていたところで、ようやく店のドアが開かれた。


「やぁっほー! アキいるー?」


「いらっしゃいませ。あ、クオンさん、こんにちは。アキさんならこちらに」


「お、クオン。昨日ぶり」


「はーいよー」


 茶髪で肩ほどまで伸びた髪の毛が特徴的な妙に顔の整った少女が、クオンというプレイヤーだった。丸々とした瞳と笑顔の似合う活気溢れる表情、皮の上下装備に鋼の肩当て、手にはガントレットが装備されていた。絵に描いたようなボーイッシュな女子であった。


 しかし、若く見えてもれっきとした二十四歳の大人であり、本人曰く今は保険会社に勤めているらしい。



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