幼馴染を追って異世界へ 〜3億課金した最強アカウント × 【超重力属性】を使って〜
28話 三者三様
僕は焦っていた。あれから1時間魔法やスキルを撃っては休み撃っては休みを繰り返していたが、全くシェル試験官の防御を突破できる方法が思いつかない。
シェル試験官はまだあの位置から一歩も動いておらずしかもスキルも魔法も使っていない。それにも関わらず無傷なのだ。
これには2人も予想外だったらしく、最初始まった頃より口数がかなり減っている。
一旦3人集まり、話し合う。
「ここまでとは予想外だぞ」
「ほんとですよ」
そうだよな、ここまで手も足も出なければこうなるのは仕方がない。だが、愚痴をたれていても始まらない。
「仕方ないです。後半に取って置く分は考えずにやるしかなさそうですね」
「そうだな。温存はもうするだけ無駄。文字通り全身全霊でやるしかなかろう」
「そうだね」
3人で意見を合わせる。ここで落ちるわけにはいかないからな、絶対全員で学園に入る。
「2度目の作戦会議は終わったかしら〜」
相変わらずシェル試験官はゆったりとした口調で、油断しているのか侮っているのかもそのせいでよくわからない。だが、これだけははっきりと言える……シェル試験官には隙が一切見えない。
人間誰しも何時間も戦闘してればどこかしらに隙はできるものだ。ここまで隙がない人物は初めて見たーーどれだけの修羅場を超えて来たんだよまったく!!
それと魔法、スキルで攻撃しているのに殆どダメージがない。考えられるのはスキル、魔法関係なしに防御できるパッシブスキルだけになる。
恐らく何らかのパッシブスキルなんだろうが、先ほどからずっと観察しているが全くどういったものなのか検討もつかない。
いつまでも観察するのは得策ではない、1時間も見て分からなかったもういっそここは思い切って高火力で押し切るという大雑把な作戦で行く。
「エーフ!トルス!行くぞ!!」
「はい!!」「無論だ!!」
僕はスキル「光原の柱/ライトピラー」を放つ。シェル試験官の上空に魔法陣が展開されそこから円柱型の光の柱が降り注ぐ。このスキルはSPを消費した分によって威力が変わる、今回は殆どのSPを使い下手をしたら殺してしまうほどの威力になっている。
だがこのくらいやらないと勝てないのも事実、それを承知で放っている。
そのまま、エーフが魔法「突然の突風/ハプニグスコール」を地面に向けて放つ。この技は辺りのものを巻き上げる効果も持つ、地面に放つことで砂や塵芥を巻き込み砂塵となって襲いかかる。
シェル試験官は僕たち2人の攻撃は流石に威力をころせなかったのか魔法を使用する。手を地面に付きそこからシェル試験官を囲うように水が出現し包む。その水の厚さは尋常ではなく僕達二人の攻撃を難なく対処する。
僕らが魔法とスキルを放っている間に、トルスがシェル試験官に僕らの魔法、スキルの巻き添えを受けないくらいの場所に移動し、トルスもスキルを放つ。
「ふっ!!スキル「岩壁暖簾/ロックウォール」」
スキルを放った瞬間、地面からトルスの目の前に岩壁が出てくる。トルスよりも高い壁は本来防御に使うものだ、僕が一瞬焦ったところを見るとトルスは目をつぶり第二のスキルを放つ。
「岩石スキル「岩石の大砲/ロックキャノン」」
「飛んでけぇええええええええ!!!!!」
岩壁の周囲がオーラを纏う。トルスは大きく振りかぶり腰を屈め息を思いっきり吐き叫びながら、岩壁に向かって渾身の一撃を叩き込む。岩壁は一瞬で崩れ崩壊していく中ーー殴った部分の岩が抜けてぽっかりと穴が空いていた。
僕はシェル試験官の方を見て驚いた。その抜けた部分の岩がとんでもないスピードでシェル試験官の方へ飛んでいっているしかもその岩は空気との摩擦で熱を帯びており今にも発火しそうなくらい岩とは思えないほど赤くなっていた。
シェル試験官は目を見開くと瞬時にスキルを発動し、体を横にした態勢で飛ぶ。そこをギリギリのところで岩石が通過し奥の森へ突っ込んで行く。
突っ込んでいった方を見ると森の木や草は燃え尽き、通っていた道は無残な姿になっていた。約2km程飛んだところで威力が付き、急に爆散する。
岩石にかけたスキルが限界に達したのだろう。ただ、森は綺麗に禿げいてた。
先程まで毅然とした物腰だったのが、急に代わり今ではもうさっきまでの余裕はない。
今のがダメージを与えられる最大のチャンスだったんだろう……
僕はそこの駆け引きに負けてしまった。悔しさ、自分の情けなさに唇を噛むーー口の中に血の匂いと味が広がる。
こういう時こそ冷静でいないといけない状況だ!
まだ何か策はあるはず。まだ時間はあるんだ、考えろ……
恐らくもうあの技は通用しないしあの威力だ、恐らくトルスはもうSPを使い果たしてしまったはず。
そして、さっきの攻撃でパッシブスキルの大体の予想はつく。僕らのあの威力の技をシェル試験官は魔法で防いだ……恐らくだが、ある一定ダメージ量以下の攻撃は無効となるもしくは極限まで威力が弱まるなどそんなところのパッシブスキルだろう。
あのレベルの攻撃ならシェル試験官にダメージを与えることは可能。トルスには肉体攻撃に専念してもらいその隙に僕らの攻撃を当てるしかない。
だが、これにはトルスにリスクがある。もし避けきれず僕らの攻撃を受けてしまえばトルスは死んでしまう可能性がある。その躊躇でこちらも威力を落としてしまったり、発動することすらも止めてしまうかもしれない……
殺してしまうという恐怖、殺されるかもしれないという恐怖。その両方をクリアしなければこの作戦は無理だろう。
僕達は一旦シェル試験官から距離を取り、休憩しつつ作戦を練る。ついでに昼休憩もはさむ目的もある。
流石に何も食べないでやるのはスタミナが持たなくなる。
僕はその作戦を話すかどうか悩んでいた……この作戦を話せば恐らくだが二人は了承してくれるだろう。
だがーー
いや、僕は恐れているのだ。その作戦を立てもし失敗した時の責任、信頼が崩壊するのではないか……
僕は覚悟してここに来たはずなんだけどなぁ……まだまだ未熟な証拠だ。
そう思いに耽っているとトルスが口を開く。
「俺に作戦があるんだが聞いてくれるか?」
トルスが自分から作戦立案するのは珍しい、いつもはエーフか僕が案を出し合っていた。 基本いつも聞いているだけだったトルスがどんな作戦を出すのか少し期待している自分がいる。
エーフも続けてと頷く。
「俺はお前たちみたいに頭を使うことはできん、だからこそ単純な作戦。俺が試験官と肉弾戦に持ち込む、お前たちはその隙にありったけの攻撃をしろ」
一瞬場が静寂に満たされる。
一拍おいたあとに俺は、はっとし今何を言われたのか理解が追いつく。
「その作戦に私はのるよ」
その作戦にエーフが真っ先に肯定する。エーフもこうなることを予想していたのだろう……だがそれにしてもだ。
「いいのかその作戦で?僕達が一歩間違えれば死ぬかもしれないんだよ」
あえて疑問を直球でぶつける。トルスは表情を一つ変えない。
「何を言っている。俺は目的を果たすまでは死なん!」
怒りでもなく叫びでもなくいつもの通常時のトーンではっきりとした口調で言う。
「僕はそんな話をしているんじゃない!気合いどうこうできる問題でもーー」
そう言いかけた時、エーフが割って入る。
「私はトルスを信じる!!」
普段あまり強く意見を言わないエーフがこんな強い口調で言ったのは初めてだ。だからこそその真剣さがより僕の心に響く。
「エルよお前が言いたいことは分かる。俺がやられればチーム自体が試験不合格になり、下手すれば俺が死ぬ。お前たちはいいやつだ、その責任感で再起不能になってしまうかもしれん」
ーー だが、 ーー
「俺はあの村からここまで引っ張って来てくれたお前たちを信じたい」
「これはお前たちへの感謝でもある。うじうじしていた俺をここまで連れて来てくれた恩」
そこまで言うとトルスは右手拳を僕達の方へ突き出す。
こう言われてはもう後には引けない。
ここまで引っ張って来てくれたか……感謝したいのはこっちの方なんだよ。
僕がこの村で学園に行きたいと言って無理だと言って笑わずに僕を信じて付いて来てくれた二人には……
エーフ、トルス、エル3人は拳を合わせる。
「僕らの力…見せてやりますか」
「当たり前だ」「そうだね」
二人は笑顔でそう答える。
僕らは何が何でも絶対に合格するんだ。
そう、何が起ころうとも……
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