伝説の遊騎士

ノベルバユーザー327952

試験~中~

「誰もいね~~~!!」
さすがに痺れを切らした楓は思わず叫んでいた。周りのメンバーからも何となく気だるそうな感じが出てきている。


だがその雰囲気も仕方のないものなのかもしれない。
試験が始まってそうそうにメンバー二人を欠いてたった今二時間がたった。
この二時間で遭遇した別チームの人間・・・たった一人。
しかもその一人はこの場所に来た時に光が倒した人間だけである。


「なぁ、光。これってさすがにおかしくないか」
「そうだねー、僕達の他に残り5チームはあるはずだから人の数だけで言えば30人。これだけの人数がいれば誰かに会えないなんてことないと思うんだけどなー。」
それに臙城が付け加える。
「しかもこれは試験だからね。遭遇率をあげるためにそこまで広い場所にはしてないはずよ。」
「そーだよなー。もしかしてもう俺ら以外いねーのかな?」
「それは無いと思うよ!もし誰もいないならさっき戦って勝った時点で戻ってるはずだから!」
「だよなー・・・」
そこで会話が止まる。


さすがに全員疲れは溜まっていた。
荒野を歩き続けるという身体的ダメージはもちろんだが、四人にはゴールが見えないという精神的ダメージの方が大きかった。


それはそうだろう。例えどんなに好きな事であったとしても終わりが分からずやり続けるという事は苦行でしかないだろう。
ましてや四人はこの試験が好きな訳ではない 。 その状態での二時間は辛いものでしかなかった。







(ねぇ、臙城さん。1つ聞きたい事あるんだけど・・・!)
(なに?)
(あの教室にさ・・・)







「ねぇ楓!」
隣に相変わらずの笑顔で疲れなんて微塵も感じさせない光が並ぶ。
「・・・ん~?ど~した~?」
対極的に楓は完全にだらけきった声で光に返事をした。
「聞いて欲しい事があるんだけど!奏も聞いて!!」
そこで光は少しだけ真剣な顔をする。


その様子を見た二人も自然と気が引き締まった。


「僕と臙城さんの推測だけど、もうこのステージには相手が1チームしかないんだと思う。そしてそのチームは僕達と同じ推薦組だと思う。」


だがそのことには楓も奏も驚かない。
それについては何となく分かっていたことだ。
「それで本題はここからなんだけど・・・もし僕達の予想が正しければそのチームにいるのはあいつだと思うんだ・・・」
「あいつって誰だ?知り合いなのか?」


その質問に珍しく光が言い渋る。
「・・・まぁそんな感じだね・・。名前は・・・常闇黒夜とこやみくろや。おそらく今年の受験生の中で一番の実力の持ち主だと思う・・・」
そう話す光の顔からは真剣そのものしか感じられない。
「お願い、楓!!もしこの場所に残っているのが常闇だったら逃げて。僕が何とかするから・・・だから逃げてくれないかな?」
そう言う光の目は心なしか潤んでみえた。





「・・・だから逃げてくれないかな?」


そう言われた楓は戸惑っていた。
岩山を消してしまうような攻撃を簡単に出来る力を持つ光にこれほど言わせる実力を相手が持っているからではない。
光のお願いの返事をどうするか迷っている訳でもない。
楓を戸惑わせているのは光の態度だった。


(何で・・?何でここまで俺の心配をするんだよ・・・?)
光の目を・・・今にも泣き出してしまいそうな目を見て楓は他でもない、この事が気になって仕方なかった。


確かにおかしかった。この場所に来た時から光は楓のことを信頼していた。
否、信頼ではない。
今、おそらく楓と光をつなげているものは信頼や友情なんて綺麗なものではない・・・。だがそれが何なのか楓には理解する事ができなかった。
そして一度疑ってしまったが故か、楓は光を信じる事が怖くなっていた・・・。







「まぁ、心配してくれるのは嬉しいけどさ!あれだ!これって試験だからさ、逃げたりとかする訳にはいかねぇじゃん!だからその頼みは聞けないかな・・・」


これが楓の答えだった。
ただ光の言うことを信じていない訳ではない。実際ホントの事を言っているのだろう。その事は光の必死さから伝わってくる。
だがこれは試験だ。逃げる姿勢を見せた時点で推薦組は脱落だろう。だからこそ楓にそんな選択肢は存在しなかった。それが誰に頼まれたとしても。


「そっか・・・そうだよね。逃げるなんてしたら合格なんて出来ないもんね。分かった。それじゃあさっきのお願いは忘れて!」
最初は納得のいっていないような不満な顔をした光だったが、しっかりと考えてくれたのか楓の考えを理解し、笑ってくれた。


いや、実際は納得なんて出来ていないのかもしれない。光の笑顔にはいつもの感じがなかったから。


「おう!ただ言われた通り気は抜かないようにしとくよ!」




そこでふと疑問が楓の頭をよぎる。
何で今の光の顔がおかしいなんて感じたんだ?
ついさっきの光の笑顔に楓は違和感を覚えた。何でもない、ついさっき出会ったばかりの相手の笑い顔だ。誰がみても普通だっただろう。楓にも普通に見えた・・・見えたはずなのに違和感があった。そんなに何度も見たことがあるわけではないのに。


自分の中に生まれた疑問の答えを探そうと少し考え込もうとした時だった。


「光さん!?」
そんな風花の声で考えを中断させられる。
振り返った楓の目に飛び込んできたのは黒い影のようなものに取り込まれそうな光だった。


   


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