奴隷を助けたはずが奴隷になったのでタスケテください!

金丸@一般ユーザー

28ー1 蔑如のアルテミス④

俺をたてにしたアンジェリカを見る。

「その目ッ、なんて冷たい。

 はなれればいいんでしょ。離れれば!」

彼女は、近くの負傷者へ走ってゆく。

直後。

アルテミスのりがわき腹に入った。

「だるま落とし」をされたかと思うほど痛む。

————赤爆せきばく焔鎌ほむらがま————

陽炎かげろうをまとう鎌(サイス)を魔法で作ろうとする。

悠長ゆうちょうだな」

切れ目のアルテミスが俺を片足で押し飛ばす。

ほんの一瞬だけ、黒い足が胸をふかく陥没かんぼつさせた。

強い衝撃しょうげきを後頭部や背中に覚える。

気づくと、大樹のみきへ浅く埋まっていた。

反撃しなければ、サンドバックになるのは明白だ。

幹からぬけだし、ふたたび焔鎌を作ろうとする。

突然、大きな衝撃がアゴを伝わってゆく。

距離を詰めたアルテミスがアッパーを打っていた。

攻撃が目で少しも追えない。

アルテミスを両手でしっかりと拘束こうそくする。

————赤爆の短剣————

刃渡り二十センチほどの短剣を魔法で作りだす。

それで相手の背中を刺そうとする。

「オレ様を抱くなど分不相応ぶんふそうおうだッ!」

アルテミスが俺を地面へ軽々と投げとばした。

立ちあがり、魔法で作りだした焔鎌を振る。

斬撃は衝撃波へ変わり、鎌の刃の形で目標へ迫ってゆく。

アルテミスが手刀を振り下ろす。

陽炎が一気に裂け、あらぶる衝撃波が中央から割れた。

「あまりにもろいぞ、ホモ・デウス」

「神はカメよりも悠長だな」

破壊された衝撃波がまたたく間に再生してゆく。

それはアルテミスへ直撃した。

大きな爆発が森で起きた。

「アカヤ、こっちにまで木を飛ばすな!」

ムチャを言うなよ、アンジェリカ。

「神々の力と比べても遜色そんしょくのないこの赤爆、なんと忌々いまいましいッ!」

濃い土煙が晴れてゆく。

黒いきりが一か所へ集まり、エヴァリューシュの姿へ変わった。

アルテミスが空身からみで弓を引く動作をする。

赤と緑、ふたつの光がその周囲に現れた。

赤い光は弓へ、緑の光は矢へ、それぞれ変わってゆく。

「つらぬけ——狩りの射手よ」

地声なのか、低い声が聞こえた後。

細く黄色い光が俺の腹を貫通かんつうした。

次弾がこちらへ来る。

それを焔鎌で上へはじく。

矢はくもへ進路を変えた。

接触した焔鎌が粉々になっていった。

「アカヤ、逃げろって!

 ひとりでどうにかなる相手じゃない」

ただ立っているのは、恰好かっこうの的だな。

————赤爆の火弦かげん————

赤く光る線を魔法で作りだす。

それをムチのように扱って木々の間を移動する。

アルテミスの乾いた笑い声が聞こえた。

「もはやさるだな。

 繊維せんいよ——行き渡れ」

太い繊維のような白いモノ。

それが、森のいたるところへ張り渡ってゆく。

クモの巣にかかった獲物の気分だ。

アルテミスがそれを蹴って、こちらを追ってくる。

その移動速度は俺よりも早い。

————プロメテウスの火————

魔法の火で草木をいぶす。

煙が森へ充満してゆく。

「ホモ・デウスのクセに小賢しいッ!」

アルテミスは魔法の矢で火種を潰してゆく。

煙にまぎれて木のカゲへ潜む。

ほどなくして、森でひしめく煙が晴れた。

「たとえ……、便所へ隠れたとしても、引きずりだして潰す。

 森のしもべよ——その力をオレ様へ」

おおかみのような耳、キツネのような尻尾、猛獣もうじゅうのような鋭い爪と牙。

それらがその黒い体に備わってゆく。

獣姿のアルテミスがほえたける。

その鼻が何かをぐように動いた。

木のカゲから様子をうかがうのを反射的にやめる。

「つらぬけ——狩人の矢よ」

チクショウ、もうバレたのかよッ!

火弦を使ってその場から離れる。

直後。

魔法の矢が、隠れていた木を粉々に吹き飛ばした。

「いつまであがく気だッ、勝機などない」

————赤爆の火球————

赤黒い球体を撃つ。

アルテミスはそれをたやすくかわす。

赤爆が目標の自動追尾を始めた。

「オレ様をストーキングするとはいい度胸だ」

アルテミスはそれを魔法の矢で撃ち落とす。

そして、俺の首をつかんで地面へ叩きつけた。

落下の衝撃が何度も体内で反射したように感じた。

「ちくしょうが、離せッ!」

「なんだ……、やけに頑丈がんじょうだな?」

アルテミスが俺を持ち上げた。

俺の腹にある、先ほどつらぬいた部分をさわる。

「出血が過少だ、臓器ぞうきが飛び出ている様子もない。

 待て……、そもそも、あのナメクジアマ(ヘカテ)が殺したはずだ」

鼻でかるく笑う。

「生きてるのかわからんほど、オツムまでわんわんか?

 わんわんってなんだか分かるか、お神様殿?」

ふたつの指が体内に入った。

「アアアッ、っぐう、ああああああああ!」

体内にある何かが、もぎ取られたように感じた。

アルテミスが、摘出てきしゅつした金属を観察してゆく。

「これは……、トランス・ゲルヴァシャ・ニズム…………」

その表情はけわしい。

トランス・ゲルヴァシャ・ニズム……?

その金属は骨と骨を固定しておく医療器具だろう。

「こんなもので病気や死の克服こくふく標榜ひょうぼうし、神へ至ろうなど、勘違かんちがいもはなはだしい!」

やや小さなおのがアルテミスの背中にはじかれた。

アンジェリカが叫びながら斧を振りかぶる。

なぜ来たんだ……、逃げてくれ。

舌打ちしたアルテミスが、俺を雑に押し放した。

そして、斧による攻撃を回避した後。

アルテミスは一瞬で彼女をめった打ちにした。

「奴隷はな……。

 命令されたことだけ、やってりゃいいんだよッ!」

アルテミスが、倒れた彼女の腹を蹴り飛ばした。

————赤爆の焔槌ほむらづち————

紫に光る全長1メートルほどのつちを魔法で作る。

それを振り下ろす。

拳が俺の腹とアゴをほぼ同時に打ち抜いた。

…………、立っていらない。

太い繊維せんいのような白いモノが、体中に絡まってくる。

「産まれながらにして、強き者に真綿わまたで首をめられる定めとは、実にあわれだな」

夕日が水平線へ混じり始めた。

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