奴隷を助けたはずが奴隷になったのでタスケテください!
21 封印の体③
月明かりが、ただ静かに下りてくる。
私は、護衛の賢者たちを率いて月の神殿へ向かっていた。
私たちは魔法で中央区からそこの付近まで飛んだ後、小さな林を抜ける。
大理石で作られた神殿の正面——丸柱が八本立っている場所に、魔法で作られた火がいくつも浮かんでいる。
「大賢者、灯りが見えます。こちらが当たりですね」
ひとりの護衛、クレイネがそう言った。
彼女は聖人であり、封印の際に重要な役割を持つ。
深い青に染まったそのセミロングヘアが、私は好きですの。
「クレイネ、アテネを封印することになるでしょう。
後悔のないようにしておきなさいね」
「賢者として、このゲルヴァシャに生きたその日から、覚悟はできています」
笑顔の彼女はそう言って、指輪をはめた薬指のある左手を右手でそっと握る。
そして、両手を自らのやや膨らんでいるお腹へ当てた。
神殿の中央、処女宮へ私たちは足を踏み入れた。
そこも入口と同様に灯りがあるので、室内を十分に見渡せる。
赤いレンガが、部屋の両脇に規則正しくびっしりと置かれた場所。
その奥、茶のローブを着ているラヴィが、寝台に置かれていた。
黒い霧が彼女の周囲にまとわりついている。
「ラヴィ!」
私は彼女へ近づく。
「触れてはならぬ。もうすでに聖人は屈服し、依り代となった」
私が声の方向へ視線を動かすと、部屋の隅に黒い女神が立っていたので、親指で首を切る動作をしてからサムズダウンをし、顔をゆがめながら中指をしっかりと立てる。
「三処女神が一柱、アテナ。お目にかかれてクソあざっすッ、ですわ」
聖痕を持つ者、聖人は神を屈服させるか契約することでその力を扱えるようになるわ。
契約の場合、聖人は何かの代償を支払うことで、それに見合った神法(神そのモノの力)を得る。
屈服は、いわゆる体の奪い合いね。成功すれば無償で神法を使用できるけど、失敗すればその命が尽きる時まで神の奴隷になるの。
「ひきはがしますわ、みんな、私に続いてください」
拳を握り、人さし指と薬指を立てた後、その両手を合わせて、魔法を発動する。
モノクロの球体が、ラヴィを取り込む。
これは、私が許可したもの以外の出入りを禁じる魔法。
これでラヴィと神を隔てることによって、神が彼女の体へ入り込むのを止める。
他の賢者たちが同種の魔法を使用した。
あの球体がブドウのような形状へ膨れ上がる。
アテナが衣服を口に当てて、乾いたような声で笑う。
「全知全能の神が残した、封印の魔法など——アイギスの盾」
アテナが等身大の盾を魔法で作り出し、モノクロの球体をそれでうつ。
魔法が一瞬で霧散してしまった。
「白兵戦を仕掛けます。ラヴィをアテナから離してください」
茶のローブを着ている賢者たちが、魔法で一斉に武装してゆく。
繊維を編んだだけの簡素な装いのアテナが、そのスソを引きずりながらこちらへ歩き出す。
黒いロングヘアを首の後ろで束ねているのが見えた。
「丸刈りにしてやるぞ、ゴラアッ!」
そう言った賢者のひとりが、フレイル(脱穀用の農具)をそれへ振り下ろす。
鎖でつながっている鉄球が、音を立てるなりその体へ埋まる。
澄んだ顔のアテナが、その賢者を指さす。
赤い光がそこにつくと、彼は勢いよく燃えだした。
「あったい、あったい、ああたたたたアアアアア!」
そして、そう叫んだ彼の顔をアイギスの盾の角で殴りぬく。
仲間をヤりやがりましたわ、その顔を必ずボコボコにしてやりますの。
「貫け——全知全能のイカヅチッ!」
私は、手のひらから雷を放つ。
針ほど細いそれは、賢者たちを避けて、一瞬でアテナへ衝突する。
衣服に焦げをつけることもなかった。
「病室の折も思うたが、ホモ・デウスよ、それで全力か?
プロメテウスの火を使うあのホモ・デウスの方が、まだ召し物をぬらす」
ポニーテールの賢者が、アテナへ刃物を振り下ろす。
「嗚呼、なんとみだりがましい、弱りもする」
そう言ったアテナが、魔法で槍を作り出し、全周へ振り回す。
周囲にいた賢者たちが、頭を切られた為に床へ倒れいった。
「名前を出すのもおぞましい、触覚を持つ黒光りする例の虫を見ている気分ぞ」
「それは私の言葉よッ!」
クレイネが、横からアテナへと抱き着く。
「よせッ、クレイネ! その病気持ちのクソアマから離れなさい!」
「大賢者、あとはお願いします」
アテナは少し口角を引いたように見えた。
クレイネが、封印の魔法を発動する。
さきほどと同じように、モノクロの球体が彼女とそれを包む。
粒状に変わったアテナの体が、彼女の中へ吸収されてゆく。
そして、モノクロの球体が、小さな赤いレンガへ変わった。
生き残った賢者たちが騒ぎだす。
「大賢者、今のうち、月の賢者をッ!」
クレイネ、あなたはもっとも尊い賢者ですわ。
そのあなたが紡いだ活路、最良の結果へ変えて見せますの。
ラヴィの周りには、もう黒い霧はわずかさえない。
私は、拳を握り、人さし指と薬指を立てた後、その両手を合わせる。
「起きなさいッ、ラヴィストレイス!」
封印の魔法を彼女へ放つ。
モノクロの球体が彼女を覆うと、すぐにその体内へ入っていった。
室内の灯が全て落ちる。
私は、照明を魔法でいくつも作り、室内へ配置した。
ラヴィが寝台でゆっくりと起き上がり、大きなあくびをする。
「ラヴィ?」
彼女がこちらを見た。
「んー、どったのホモ・デウス?
アテナの姿が見えないけど、新しい男でもストーカー中?」
ヒビが赤いレンガへ入ったのが見えた。
寝台から降りたラヴィが体操を行う。
「シャキっとしなさい、太陽の神殿へ行きますわよ」
「こまごまと、うっさいなー、もう。言われなくても行きますよー」
私は振り返り、入口へ歩き出す。
「——、炉よりこぼれし雛火よ」
後ろから、ラヴィの声が聞こえた。
直後。
私の下半身は焼失した。
「ああああああああああああああああ!
あああまままままあいヴぃああおいあおあヴぁあい!」
床へ落ちた私はそう叫んでないと、気が狂いそう。
魔法で応急処置をしたので、緑の光が私の傷口をおおう。
残り火が、未だに周囲でゆらめくのが見える。
ラヴィがほほえんでいた。
「これがゲルヴァシャの末裔か、弱すぎて話になんねー。
肉料理で皮をパリパリに仕上げるカンジに、足をチョーット焦がしただけでコレか」
赤いレンガがふたつに割れた。
黒い霧がそこからもれはじめる。
ほどなくして、アテナが現れた。
「アイギスの盾がある時は、封印の魔法など効くワケなかろうに。
特攻に美を見出すなど、正気ではないな」
許さねえ、絶対に愛してやる。
「アテナ、おっすー」
笑顔のラヴィが、右手をあげながらそう言った。
「実に久しい——ヘスティアよ」
口を少しだけ開いているヘスティアが、指を唇に当てながら何かに気づいたような顔をした。
「そういえば、ウチらって、名前は元々ないよね」
「しかり、神は概念に等しい。便宜上、最初に契約したホモ・デウスの名を借用している」
「ま、区別できればいっか! 太陽の神殿へ行くんだね?」
アテナがうなずくと、その体が黒い霧へ変わってゆく。
また、ヘスティアも霧へと足元から分解されていった。
「待てッ! ——全知全能の轟雷!」
私は、二柱へ巨大な雷を放つ。
ワシの姿をしているソレは、神殿を破壊しながら迫る。
ヘスティアが、冷めたような目で首をかしげた。
「とりあえず、燃やしとこ——炉よりこぼれし雛火よ」
そして、水が蛇口からもれるように、その指先からしたたる紫の蛍火が、私の魔法に触れた。
その蛍火は轟雷を一瞬で包むと、消滅させる。
「大賢者だけでもお逃げください!」
そう言ったショートヘアの男性賢者が私へ移動魔法をかける。
目の前で、賢者たちが紫の火へ焼かれてゆく。
移動魔法が発動してゆくので、視界が白く変わってゆく。
ヘスティアが高い声で軽く笑う。
「部下を見捨てて逃げるなんて、クズいー。ま、ザコだからな」
私は歯を割るほどにかみしめる、胃が殺意でただれそうですの。
魔法によって、私は月の神殿から離脱した。
私は、護衛の賢者たちを率いて月の神殿へ向かっていた。
私たちは魔法で中央区からそこの付近まで飛んだ後、小さな林を抜ける。
大理石で作られた神殿の正面——丸柱が八本立っている場所に、魔法で作られた火がいくつも浮かんでいる。
「大賢者、灯りが見えます。こちらが当たりですね」
ひとりの護衛、クレイネがそう言った。
彼女は聖人であり、封印の際に重要な役割を持つ。
深い青に染まったそのセミロングヘアが、私は好きですの。
「クレイネ、アテネを封印することになるでしょう。
後悔のないようにしておきなさいね」
「賢者として、このゲルヴァシャに生きたその日から、覚悟はできています」
笑顔の彼女はそう言って、指輪をはめた薬指のある左手を右手でそっと握る。
そして、両手を自らのやや膨らんでいるお腹へ当てた。
神殿の中央、処女宮へ私たちは足を踏み入れた。
そこも入口と同様に灯りがあるので、室内を十分に見渡せる。
赤いレンガが、部屋の両脇に規則正しくびっしりと置かれた場所。
その奥、茶のローブを着ているラヴィが、寝台に置かれていた。
黒い霧が彼女の周囲にまとわりついている。
「ラヴィ!」
私は彼女へ近づく。
「触れてはならぬ。もうすでに聖人は屈服し、依り代となった」
私が声の方向へ視線を動かすと、部屋の隅に黒い女神が立っていたので、親指で首を切る動作をしてからサムズダウンをし、顔をゆがめながら中指をしっかりと立てる。
「三処女神が一柱、アテナ。お目にかかれてクソあざっすッ、ですわ」
聖痕を持つ者、聖人は神を屈服させるか契約することでその力を扱えるようになるわ。
契約の場合、聖人は何かの代償を支払うことで、それに見合った神法(神そのモノの力)を得る。
屈服は、いわゆる体の奪い合いね。成功すれば無償で神法を使用できるけど、失敗すればその命が尽きる時まで神の奴隷になるの。
「ひきはがしますわ、みんな、私に続いてください」
拳を握り、人さし指と薬指を立てた後、その両手を合わせて、魔法を発動する。
モノクロの球体が、ラヴィを取り込む。
これは、私が許可したもの以外の出入りを禁じる魔法。
これでラヴィと神を隔てることによって、神が彼女の体へ入り込むのを止める。
他の賢者たちが同種の魔法を使用した。
あの球体がブドウのような形状へ膨れ上がる。
アテナが衣服を口に当てて、乾いたような声で笑う。
「全知全能の神が残した、封印の魔法など——アイギスの盾」
アテナが等身大の盾を魔法で作り出し、モノクロの球体をそれでうつ。
魔法が一瞬で霧散してしまった。
「白兵戦を仕掛けます。ラヴィをアテナから離してください」
茶のローブを着ている賢者たちが、魔法で一斉に武装してゆく。
繊維を編んだだけの簡素な装いのアテナが、そのスソを引きずりながらこちらへ歩き出す。
黒いロングヘアを首の後ろで束ねているのが見えた。
「丸刈りにしてやるぞ、ゴラアッ!」
そう言った賢者のひとりが、フレイル(脱穀用の農具)をそれへ振り下ろす。
鎖でつながっている鉄球が、音を立てるなりその体へ埋まる。
澄んだ顔のアテナが、その賢者を指さす。
赤い光がそこにつくと、彼は勢いよく燃えだした。
「あったい、あったい、ああたたたたアアアアア!」
そして、そう叫んだ彼の顔をアイギスの盾の角で殴りぬく。
仲間をヤりやがりましたわ、その顔を必ずボコボコにしてやりますの。
「貫け——全知全能のイカヅチッ!」
私は、手のひらから雷を放つ。
針ほど細いそれは、賢者たちを避けて、一瞬でアテナへ衝突する。
衣服に焦げをつけることもなかった。
「病室の折も思うたが、ホモ・デウスよ、それで全力か?
プロメテウスの火を使うあのホモ・デウスの方が、まだ召し物をぬらす」
ポニーテールの賢者が、アテナへ刃物を振り下ろす。
「嗚呼、なんとみだりがましい、弱りもする」
そう言ったアテナが、魔法で槍を作り出し、全周へ振り回す。
周囲にいた賢者たちが、頭を切られた為に床へ倒れいった。
「名前を出すのもおぞましい、触覚を持つ黒光りする例の虫を見ている気分ぞ」
「それは私の言葉よッ!」
クレイネが、横からアテナへと抱き着く。
「よせッ、クレイネ! その病気持ちのクソアマから離れなさい!」
「大賢者、あとはお願いします」
アテナは少し口角を引いたように見えた。
クレイネが、封印の魔法を発動する。
さきほどと同じように、モノクロの球体が彼女とそれを包む。
粒状に変わったアテナの体が、彼女の中へ吸収されてゆく。
そして、モノクロの球体が、小さな赤いレンガへ変わった。
生き残った賢者たちが騒ぎだす。
「大賢者、今のうち、月の賢者をッ!」
クレイネ、あなたはもっとも尊い賢者ですわ。
そのあなたが紡いだ活路、最良の結果へ変えて見せますの。
ラヴィの周りには、もう黒い霧はわずかさえない。
私は、拳を握り、人さし指と薬指を立てた後、その両手を合わせる。
「起きなさいッ、ラヴィストレイス!」
封印の魔法を彼女へ放つ。
モノクロの球体が彼女を覆うと、すぐにその体内へ入っていった。
室内の灯が全て落ちる。
私は、照明を魔法でいくつも作り、室内へ配置した。
ラヴィが寝台でゆっくりと起き上がり、大きなあくびをする。
「ラヴィ?」
彼女がこちらを見た。
「んー、どったのホモ・デウス?
アテナの姿が見えないけど、新しい男でもストーカー中?」
ヒビが赤いレンガへ入ったのが見えた。
寝台から降りたラヴィが体操を行う。
「シャキっとしなさい、太陽の神殿へ行きますわよ」
「こまごまと、うっさいなー、もう。言われなくても行きますよー」
私は振り返り、入口へ歩き出す。
「——、炉よりこぼれし雛火よ」
後ろから、ラヴィの声が聞こえた。
直後。
私の下半身は焼失した。
「ああああああああああああああああ!
あああまままままあいヴぃああおいあおあヴぁあい!」
床へ落ちた私はそう叫んでないと、気が狂いそう。
魔法で応急処置をしたので、緑の光が私の傷口をおおう。
残り火が、未だに周囲でゆらめくのが見える。
ラヴィがほほえんでいた。
「これがゲルヴァシャの末裔か、弱すぎて話になんねー。
肉料理で皮をパリパリに仕上げるカンジに、足をチョーット焦がしただけでコレか」
赤いレンガがふたつに割れた。
黒い霧がそこからもれはじめる。
ほどなくして、アテナが現れた。
「アイギスの盾がある時は、封印の魔法など効くワケなかろうに。
特攻に美を見出すなど、正気ではないな」
許さねえ、絶対に愛してやる。
「アテナ、おっすー」
笑顔のラヴィが、右手をあげながらそう言った。
「実に久しい——ヘスティアよ」
口を少しだけ開いているヘスティアが、指を唇に当てながら何かに気づいたような顔をした。
「そういえば、ウチらって、名前は元々ないよね」
「しかり、神は概念に等しい。便宜上、最初に契約したホモ・デウスの名を借用している」
「ま、区別できればいっか! 太陽の神殿へ行くんだね?」
アテナがうなずくと、その体が黒い霧へ変わってゆく。
また、ヘスティアも霧へと足元から分解されていった。
「待てッ! ——全知全能の轟雷!」
私は、二柱へ巨大な雷を放つ。
ワシの姿をしているソレは、神殿を破壊しながら迫る。
ヘスティアが、冷めたような目で首をかしげた。
「とりあえず、燃やしとこ——炉よりこぼれし雛火よ」
そして、水が蛇口からもれるように、その指先からしたたる紫の蛍火が、私の魔法に触れた。
その蛍火は轟雷を一瞬で包むと、消滅させる。
「大賢者だけでもお逃げください!」
そう言ったショートヘアの男性賢者が私へ移動魔法をかける。
目の前で、賢者たちが紫の火へ焼かれてゆく。
移動魔法が発動してゆくので、視界が白く変わってゆく。
ヘスティアが高い声で軽く笑う。
「部下を見捨てて逃げるなんて、クズいー。ま、ザコだからな」
私は歯を割るほどにかみしめる、胃が殺意でただれそうですの。
魔法によって、私は月の神殿から離脱した。
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