奴隷を助けたはずが奴隷になったのでタスケテください!

金丸@一般ユーザー

18 四賢侯

ノアが緊急治療を受けた翌日は、雨天のために暗い。

病院の廊下、そこには用意された三つの丸椅子がある。

俺は、その中央の椅子から腰を離せずにいた。

病院の男性職員がこちらに来る。

「アカヤさん、実は……四賢侯しけんこうの方々から会いたいと連絡がありました」

どうせ、赤爆の研究についてだろ。

ひとりにして欲しい。

「どのようなご用件でしょうか」

「お連れの、リーシェさんについて、尋ねたいことがあるそうです」

「……、時間はいつでも大丈夫です」

「では、そのようにお伝えします」

そう言った彼は、すぐにどこかへ移動した。

数時間後、俺が外を眺めていると、さきほどの男性職員がまたこちらに来た。

「お待たせしました、お部屋へご案内します」

十二畳ほどの一室へ案内された。

そこには、衣を羽織った女性がふたりいる。

それと、女性用の黒い礼服を着た男性がひとり。

彼は口紅をつけていて、金髪のロングヘアだ。

また、青ひげがとても濃い。

「突然の面会に応じていただき、ありがとうございます。

 私たちは、四賢侯というこの国の代表ですわ」

そう言った男性が、手をさしだす。

「私は、賢者の代表取締役・ゲルヴァシャ八世です」

「初めまして、アカヤです」

国のトップが、わざわざ来るほどの事か?

葉のような深い緑のセミロングヘアを持つ女性と目が合う。

彼女の身長は、160センチほどだ。

「わたしは、太陽の神殿を管理している賢者、エヴァリューシュです」

彼女も、ほほえんで握手を求めてきた。

俺が握手に応じたとき。

「ウチ……、わたくしはラヴィストレイスです、アカヤさんよろしくです!

 えっと、月の神殿を管理してますっ、賢者です」

隣のラヴィストレイスが、やや急ぐようにそう言って、握手をしたがったように見えた。

150センチほどの彼女は、銀髪のショートヘアをしきりに触っている。

俺は握手をすませた。

「ラヴィ、公的な場ですよ」

エヴァリューシュがそう言った。

ラヴィは苦笑いをしながらほほを手でかく。

「だってー、エブりん、ワタクシって言いにくいんだもの」

「緊急性のあるお話しと、うかがっていましたが、違うようですね」

ゲルヴァシャ八世が、軽くセキ払いをした。

「お見苦しいところを見せましたわ、話しというのはリーシェさんのことです」

彼が俺に着席をすすめる。

俺が座ると、他の者も椅子に座ってゆく。

体毛の一切ない彼の足が見えた。

「リーシェさんとは、どちらでお知り合いになられました?」

次は身辺調査か、気分のいいものじゃないな。

「奴隷の彼女を助けて以来、行動を共にしています」

雨音が部屋に入ってくる。

「奴隷でしたか、なんとむごい」

エヴァリューシュが、うつむきながらそう言った。

「リーシェ、かわいそー、帰ってこれて良かったね」

ゲルヴァシャ八世が、強い目力を込めて、ふたりを見据える。

彼女たちはすぐに口を閉じた。

「リーシェがこの国に住んでいたような、お話しですね」

彼が紅でうるんだ口を開く。

「彼女は、時間の神殿を管理する賢者ですわ。

 しかし、事故をきっかけにして行方不明になりました。もう八十年は前のことですの」

俺はまゆをひそめてしまった。

「リーシェはどうみても、歳を数えるのに両手があれば足りる容姿だ」

「えっ、マジ? ウチ、時間の神殿がよかったー」

ゲルヴァシャ八世が、たくましくゴツゴツとしている手でラヴィの口をつかむ。

「お黙りッ!」

「続きを聞きたいです」

「数えて十を迎えたとき、彼女は時間の神殿を管理する役職につきましたわ。

 その翌日、神殿の封印は何かによって破壊され、彼女はどこかへ消えてしまったのです」

入国の際に、官吏がみっつの女神が封印されているといっていたな。

「リーシェが封印されていた女神と契約してしまった?」

「その可能性が非常に高いですわ。

 我々は、彼女を探し出して、封印しなければなりませんの」

タナトスでさえ一国を軽々と滅ぼす力があるのだから、野放しにはできないな。

「リーシェは、あと一週間ほどの余命です。せめて、それまで待っていただけませんか」

「一週間さえ待てないとお伝えしたら、お気を悪くするでしょうか」

盾や槍は凶器だが、タナトスに比べれば大したことはない。

「それほどまでに危険とは思えません」

焦っている表情のようなラヴィが円卓へ身を乗り出す。

「危険が危険なくらい危ないですよ! なにせ、三処女神のトップですから!」

「ラヴィ、今は大賢者様が話しているから、ね?」

エヴァリューシュが彼女を椅子に座らせようとする。

「あの三処女神の一柱が、世界にいるだけもヤバいのに、憎悪のアテナがノマドワーカーなみのフッ軽(フットワークが軽いの意)でストリートスタイルをキメだしたら、サムズダウンひとつで世界はビンビンの炎に包まれますよッ!」

「神だろうが燃やしてやるよ」

つい、つぶやいてしまった。

ラヴィが、口を開けたままぼうぜんとする。

降水量が多いのか、雨粒の音が大きい。

真顔のゲルヴァシャ八世が立ち上がり、ラヴィをイスへ押しつける。

「赤爆の力でも、憎悪のアテナは燃やせないでしょう。

 アイギスの盾の前では、あらゆる魔法は無効化されてしまいますの。

 そもそも、アカヤさんにリーシェを燃やすことはできないはずですわ」

そんなのことは、言われるまでもない。

「リーシェは、ノアを狙っているようでした。彼女を見つければ、連絡します」

「ありがとうございます。その人のそばにいれるように病院へ調整しますわ」

リーシェの件がなくとも、ノアが目を覚ましたとき、彼女のそばにいてあげたい。

「それと、エヴァリューシュとラヴィストレイスを護衛に残します」

「お兄ちゃんの護衛? ひまそー」

「俺が護衛することになりそうだな」

エヴァリューシュが手を口に当ててくすりと笑う。

「ふたりは、ゲルヴァシャでも二・三を争うほどの優秀な賢者です」

さらっと自慢するじゃないか、大賢者様。

彼は、捜索隊を指揮すると言い残して、部屋を出た。

雷鳴が聞こえたので、窓の外を見る。

灰色の雲がますます厚い。

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