奴隷を助けたはずが奴隷になったのでタスケテください!

金丸@一般ユーザー

17ー1 魔法国・ゲルヴァシャ

枝や葉をかき分けて道なき密林を進む。

北側のアポテネスからは、死傷者をだすことなく抜けることができた。

リーシェは薬の影響なのか、未だに体調が悪いと言っていた。

ゲルヴァシャへ移動するには、二か三日は歩かなければならない。

彼女を背負った俺は、枝を押しながらノアへ話かける。

「もういいだろう、アポテネスの追手はこない」

俺にはノアの気持ちが分からない。

約束は守ったし、置き去り同然に扱えば誰でも怒る。

そこまでは納得できるが。

「僕、怒ってる。簡単に許すとは思わないで」

「ノアにも目的があって行路を渡ったんだろ」

彼女は横髪をいじる。

「ゲルヴァシャの逆、大陸中央左にシュテムという国がある。

 そこへ生き別れた家族に会いに行くつもりなんだ。本当にいるかは分からない」

家族と向き合うのが怖いから、逃げたいってことか。

押した枝を離す。

「でもね、僕がどこに行くかは自分の意志で決めることだよ」

シュテムへ行けばいいのに。

彼女も所持金がなかったな。

俺に魔石を稼がせ、それを折半させてからシュテムへ行く気か。

離した枝が戻ってきて、俺の顔に当たった。

「いったッ」

彼女が少し鼻で笑う。

「よそ見して歩くからそうなる。そんな調子だと、たくさんケガするよ」

「リーシェを背負ってるから、気をつかって歩いてるだけ」

足が大きな木の根に当たり、転びそうになる。

彼女がとっさに俺を支えてくれた。

「せっかく注意してるのに、僕の話を聞いてくれないんだね」

ノアの顔が近い。

赤みのある瞳、それが湿っているように見える。

「ありがとう」

「アックンの目、きれいな茶色だね」

そう言った彼女が笑顔になる。

そのほほに土の汚れが見えた。

上衣の右スソで反射的にふく。

そして、手を離そうとしたとき。

ノアが俺の手を左手でそっとつかむ。

「ひねらないでくれ、汚れをふいただけだ」

彼女は一瞬だけ伏し目になる。

「そう、汚れをふいてくれたんだ。ありがとう」

それ以外に何があるんだ。

彼女が目線を俺から外した。

その顔から笑顔が消える。

「リーシェちゃん、起きてたんだ。

 にらむような目だけど、何かあった?」

リーシェが俺の首を軽くしめる。

「約束、忘れないで」

リーシェがとても低い声でそう言った。

そして、肉食獣やモンスターに襲われること数日。

ジャングルを抜けて、ゲルヴァシャ国へついにたどり着いた。

ブロックを組み合わせたような外壁がそびえている。

その壁をつたい歩き、出入国管理所を見つけた。

女神をしたであろう象が、木製の扉のそばにみっつある。

丸腰の警備員がこちらを見る。

俺たちは挨拶を交わして、入国の手続きを行う。

「どこの密偵か、当ててみせようか」

官吏のひとりがそういった。

俺は、木製の台の上で筆記をしながら軽く笑う。

「観光の名所はこの国にないよ。来る人はみな、魔法技術が目的さ」

これは、軽く探られているのか。

にごしてしまおう。

「入口にあるみっつの像も、珍しいと感じてます」

官吏の表情が少しだけ暗い。

「この国にはみっつの神殿がある。太陽・月、そして時間の神殿だ。

 太陽のアルテミス・月のヘスティア・時間のアテナ。

 それらの女神がそれぞれの神殿に封印されている……、という伝承がある」

「観光のしがいがありそうです」

「観光できるかどうかは、神殿を管理している賢者にたずねるといい。

 もっとも、時間の神殿だけは封鎖中だけど」

「そうなんですね。ただ、その前に背中にいる子を医者に見せたいです」

「それなら、中央区の国営病院が開いてるよ」

俺はお礼を言って、入国する。

木製の扉を開けると、木造の住宅と畑が視界に広がる。

「本当に何もないな、いろいろと期待してたのに」

「うわさだけど、100階まであるような建物や電気で走る荷車があるって、僕は聞いてた」

この国の現状、賢者の隠里かくれさとと呼ばれた方が合っている。

「うわさには尾ひれがつくから、仕方ない」

ノアはため息をついて、「それもそうだね」と言った。

リーシェが苦しみ出す。

「どうした、リーシェ!」

俺はその場に彼女を下ろす。

そして、彼女のフードを取った。

「おなかね、いたいの」

彼女はそう言った後、おうとしてしまう。

「ノア、どうにかならないか!」

ノアがリーシェの腹に手を当てる。

その手が緑色に光り出す。

「落ち着いて……、ん?」

彼女が顔をゆがめる。

「体がひどく冷たい……、汗はでていないし、風邪?」

俺はリーシェの手を握る。

マントのソデが落ちて、彼女の肌があらわになる。

白い肌に、斑点はんてんが大量に現れていた。

「風邪の症状じゃない、病院へ急ごう」

俺は近くを通った人に事情を説明して、病院へリーシェを搬送する。

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