奴隷を助けたはずが奴隷になったのでタスケテください!

金丸@一般ユーザー

13ー2 砂漠の行路②

シャコウの大群に追われている人が叫ぶ。

「旅のヒト、あんたも逃げろおおお!」

「くわれちまうぞ、そこの!」

彼らは行商人なのか、魔法で荷物を運んでいた。

————プロメテウスの火————

シャコウの群れに向けて手を払う。

火柱が上がり、その群れを焼き尽くした。

ミドリガメの死体に似た匂いが、周囲にただよう。

手で鼻をおおった。

行商人らしきひとりが、こちらへきた。

「いやー、助かりました。なんとお礼を言ったらいいか」

「とんでもない。こちらも、モンスターが邪魔じゃまだっただけです」

彼が、俺を見て、まゆをひそめる。

「失礼ですが、日光がお好きなんですか?」

俺は、マントをきていないし、上着はリーシェにかぶせている。

「事故にまきこまれて、荷物を失ってしまったんです」

モノは言いよう。

「私たち、商いもしておりますので、よければご利用ください」

行路は封鎖されていた。

俺たちより先に砂漠いるのは、違和感がある。

ノアが、俺のソデを引く。

そして、耳打ちをしてきた。

「きっと、密漁者だよ。

 シャコウの卵はね、砂漠の宝石と呼ばれる、世界三大珍味のひとつなんだ。

 アポテネスが行路を管理するのは、乱獲を防ぐのもあったんだよ」

じゃあ、さっき追いかけられていたのは、卵を?

うなずくことで、ノアへ返事をする。

「すみません。今は手持ちがないので、お気持ちだけいただきますね」

「そうでしたか、それなら、無償でかまいません。命の恩人ですから。

 よければ、行路を抜ける間、ご一緒させてください」

密漁者の用心棒はしない。

「嬉しい申し出ですが、遠慮します。お構いなく……」

俺たちは、そこから離れる。

地響きが起こる。

それがあまりにも激しい為に、立っていられない。

砂がりゅう起してゆく。

蛇に似た体を持つモンスターが、砂から現れた。

全長は10メートルをゆうに超える。

ムシの様な口からこぼれた体液が、砂を溶かしていた。

「シャコウのメスだ、しかもかなりの興奮状態」

ノアがそう言った。

密漁者たちが慌てて逃げだす。

彼らが卵を盗んでいたことは、どうやら本当らしい。

シャコウのメスは、走っている密漁者たちにすぐに追いつく。

そして、悲鳴をあげる彼らを喰い殺していった。

どこからか、シャコウのオスの群れが、ふたたび現れる。

また、密漁者たちの荷物を荒らして、卵を取り返し始めた。

「もう、完全にとばっちりじゃないか」

ノアがそう言った。

「行路で暴れているモンスターって、シャコウのメス?」

「違うよ、そもそもシャコウは年中無休で暴れてる。

 ここが行路と呼ばれるのは、シャコウの生息地から外れた場所だからなんだ」

シャコウのメスが奇声を上げる。

オスたちが、こちらを一斉に襲う。

————プロメテウスの火壁、それを周囲に展開する。

シャコウたちには、巣へ帰って欲しい。

メスが尾を勢いよく振り下ろす。

その尾は焼けてしまう。

それでも、メスは何度も尾で火壁を攻撃し続けた。

「シャコウたちの怒りをしずめる方法ってないのか」

「それはさすがに、僕も聞いたことがないよ」

大きな衝撃を出してひるませてみよう。

魔法にて、空中で大きな爆発を起こす。

衝撃にひるんだのか、オスたちは逃げ出す。

メスの攻撃で、火壁が割れ始める。

————プロメテウスの炎剣————

魔法で高く跳躍し、振り下ろされた尾を切る。

メスは、さらに興奮したのか、激しく奇声を上げた。

俺だって子供を奪われたら……、尻尾ぐらいどうでも良くなる。

着地して、シャコウへ走り出だす。

胴体を一閃。

シャコウの頭部が落ちてくる。

それはまだ動いていた。

メスはもう移動できないだろう、オスたちが助けに来るはず。

「ノア、急いでここを離れよう」

「バッカ、油断すんなッ!」

横から、シャコウの頭部が跳んできていた。

…………。

メスの口内はミドリガメの匂い。

落ちてきた酸の唾液だえきが、俺の服を溶かす。

また、鋭い歯が俺を噛みちぎろうとする。

——、プロメテウスの炎剣を構える。

ごめん。

炎剣を振り下ろす。

爆発が起こり、シャコウの頭部を内側から吹き飛ばした。

すぐに、砂漠のムレた風を全身で感じる。

何も着ていない様な解放感だ。

こんなにも、自然を気持ち良く思ったのは、何年ぶりだろう。

ノアがこちらに走ってきた。

「不安にさせないでね」

「悪かったよ」

周囲には、シャコウのメスの肉片が散乱していた。

ふと、頭を手でかいてしまう。

「行こう、オスたちが戻ってくる」

ノアが、俺の体をジロジロとみていた。

「どうした」

彼女はリーシェをその場にそっとおろし、ローブを脱ぐ。

インナーとズボン着ているのが見える。

笑顔のノアが、俺にローブを渡す。

「何か着てね、さすがに」

受け取った衣服を腰にまく。

日焼け……、大丈夫かな。

シャコウのメスの胴体から、宝石の様な卵たちが砂漠へこぼれていった。

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