奴隷を助けたはずが奴隷になったのでタスケテください!

金丸@一般ユーザー

11ー2 三英雄④

ハルバートが、こちらへ振り下ろされる。

「ポーロさん、ノア、リーシェを頼む」

「僕も殴りたいなあ……」

「ノアさん、リーシェちゃんを守りましょう」

魔法で高く跳躍し、プロメテウスの炎剣でハルバートを切る。

ハルバートは切れたかと思うと、すぐに黒い霧を生やして再生してしまう。

——プロメテウスの炎槍、それを犬っころの顔へ投げる。

その顔は、黒い霧へ変わる。

炎槍は、なにもない場所を飛んでいった。

「タナトス! ——新しい玩具だッ!」

いくつもの糸が、犬頭の巨人からこちらに伸びる。

——————プロメテウスの火壁。俺の全方位を火の壁で囲む。

糸は、溶けずに火壁へとくっつく。

そして、俺を火壁ごとマユのように拘束してしまう。

「チョット、アカヤ! なにうかつに飛びこんでるのさ」

逃げ回っていたら、明日は棺桶が売れ筋商品になっちまう。

————赤爆の火片————

葉の様な赤黒い火をひとつ、魔法で作り出す。

それは、ひらひらと落ちて、火壁ごとマユを焼き尽くす。

視界が広がった。

ハルバートが俺を襲う。

「その程度では神など殺せんわ、小僧ッ!」

それなら、全てを包んでやる。

————赤爆の火皮————

赤黒い火が、皮の様に伸びて、犬頭の巨人を全て包む。

「ふざけているのか、魔法料理などッ!」

火皮が激しくうねりだすと、すぐに弾けた。

犬頭の巨人は、焼けてしまった手を再生してゆく。

「永久再生って、セーコーイ! 正々堂々と、殴り合いなよ!」

ノアが、ゾンビたちの攻撃をかわしながらそう言った。

「——死のタナトス」

黒い霧が、アポテネスを囲む。

太陽がさえぎられた。

魔法で炎をいくつも作り出し、照明を確保する。

「小僧、神の力を知れ、そして死ねィ!」

犬頭の巨人が、黒い霧に包まれる。

そして、羽を持つ男性の姿へ変わった。

「ジェイク! アポテネスを砂へかえすつもりか!?

 タナトスをおさめなさい!」

「ポーロ、オマエは良き戦友であったが、正義に毒されていた。

 そんなものは肥溜めにぶち込んでおけば、幸せになれたものをッ!」

あの羽男は、タナトスの本体のようだ。

タナトスが両手を正面につきだす。

紫の光がそこで縮小されてゆく。

ポーロが、右手首を掴んで目を閉じる。

「街を、守りなさい——リュクスの泥——」

彼女の背後では、黒い泥がわき始めた。

「そして、人々に朝をもたらしなさい——ヘメラの暁」

どこからか風が吹き、黒い泥と混ざり合う。

「夜は明け、陽は沈む——一昼夜の繰り返しこそ、生きるということ」

黄金色の小さな球体が生まれた。

「誰もそれからは逃れられない、例え神であろうとも。

 リュクスとヘメラの循環へ、収まりなさい、死人よ!」

黄金色の球体が回転しながらタナトスへ衝突する。

さらに、その球体から伸びた光線が、タナトスを絞め潰そうとする。

「なまけていても、この威力。剣魔と呼ばれるだけはあるな」

————赤爆の火球————

タナトスを焼き尽くせ。

赤黒い球体をタナトスへ放つ。

——連弾、赤黒い球体を追加で放つ。

黄金の球体と赤爆の火球たちが、タナトスを焼いてゆく。

「それで全力か……。もうよい……」

タナトスが、先ほどからためていた紫の光を打った。

一瞬で、俺たちの攻撃が全てそれに飲み込まれてしまった。

ポーロが、その場に両膝をつく。

「人は、神には及べない……」

ノアが彼女の胸ぐらを掴んでムリヤリ立たせる。

「一度の失敗で諦めるなんて、ただの腰抜けだ」

ふたりの前に移動する。

————赤爆の火球————

赤黒い球体を手の平に浮かべる。

「もうムダです、あきらめましょう」

「おい、僕の言葉を聞いてなかったのか」

「ノア、放してあげよう」

まゆをひそめたノアが、口をとがらせながら手を放す。

赤爆の火球を、紫の光へ打つ。

この街までは壊れないだろう、たぶん。

「まだ抵抗するのか、ウジ虫の方がまだ賢いわッ」

「なあ、どうしてリーシェを守ってあげないんだ」

「なんとくだらない、たかが奴隷のメス一匹に何を感じろという!」

「アンタだって聖痕を持っていなければ、戦争に関わらずに生きることができたはずだ。

 それどころか、タナトスのオモチャになんてならずに済んだ」

「聖痕、人間、怨めど怨めども、この怒りは尽きぬ!」

あなたなら、リーシェの苦しみを理解できたはずなのに。

「俺を本気にさせたな、いぬっころ」

「しね、しねッ、全てが憎い。俺の代わりに死んでしまえ、人間も戦争も何もかも!」

赤爆の火球が紫の光へ衝突する。

「目を閉じて耳をふさいで、地面にしがみつけ!」

リーシェを抱いたノアやポーロが、その言葉に従う。

俺は魔法で彼女らを守った。

直後。

太陽の様な火球がそこで上がり、閃光と爆風がカリュ大陸を襲う。

「嗚呼、アアゝゝゝゝああアアアアッ! 

小僧、オマエはァアアアアア!」

爆発の余波で、十二を越える値のマグニチュードが星を伝う。

アポテネスは刹那さえ要せずに吹き飛び、星の内核はたやすくえぐられる。

衝撃は成層圏にある大気を四方八方へ押し出し、オゾン層をつらぬく。

また、火球はタナトスの全てを悠々と喰いちぎると、宇宙に向けて放射状に飛び散っていった。

赤爆の火球が消える。

火の粉が、アポテネスへ降ってゆく。

朝が、死の大地にようやくのぼった。

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