奴隷を助けたはずが奴隷になったのでタスケテください!

金丸@一般ユーザー

8ー2 烈火の竜騎兵②

黄色い巨大な火球から、幾千いくせんもの羽が落ちてくる。

「動ける者は、残りの逃走とうそう者を追え。羽に当たるなよー」

他の兵士たちが、ノアを追おうとする。

————赤爆の火弦かげん————

火弦が、追跡を始めた兵士たちを拘束する。

「通すワケないだろうが」

羽たちが、弓矢のように俺へ迫る。

「きみの許可なんてさー、必要ないんだ」

俺は羽たちをかわしてゆく。

羽は建物や地面に刺さると、触れたモノを燃やしてゆく。

————プロメテウスの炎剣、それを隊長に向けて振る。

魔法で作りだした衝撃波が、羽たちを弾きながら彼へ迫る。

「ヘリオスの火盾よ―」

黄色い火をまとう盾が地面から生えて、俺の衝撃波を受ける。

そして、衝撃波を一瞬いっしゅん焼却しょうきゃくしてしまった。

気候のせいか、汗を少し走っただけでも、かいてしまう。

「お母さん! だれか、お母さんを助けてください!」

さきほど羽の刺さった民家が、またたくまに火事になっていた。

そこの入口で、寝間着ねまき姿の男の子がそう泣き叫んでいた。

「おい、その羽をしまえ! このままじゃ、街が火の海になってしまう!」

「どうでもいいねー」

羽が別の民家を火事にしようとも、彼は興味がなさそうな表情をしていた。

コイツ、正気かよッ!

俺は、泣いている男の子の家へ飛び込んで、その母親を救出した。

熱のせいなのか、体の動きが次第ににぶくなっている気がする。

汗がとめどなく出る。

「他に家族は?」

「ううん、いないよ、お兄ちゃんありがとう!」

「本当にありがとうございます、明け方でしたので、逃げ遅れるとこでした」

ヘリオスの羽がゆらゆらと落ちて、子供と母親に刺さる。

目の前で、ふたりは消えてしまった。

————プロメテウスの炎剣————

隊長へ切りかかる。

彼は、炎をまとったナイフでプロメテウスを受ける。

「こわいなあー、実の家族だったのー?」

歯ぎしりが止まらない。

「オマエの魔法だろ、制御せいぎょすればあの家族に当たらずに済んだはずだ」

「あのさー、そういうのだるい。

 ポエム垂れ流しながら、人を殺すのが趣味なワケー?」

踏み込んで、炎剣を押す。

「オマエは何なんだよッ!」

隊長は糸目に戻る。

そして、俺の足をって、ナイフを振りかぶる。

「ヘリオスの火短剣、よろしくー」

彼がナイフを振り下ろす。

重たい体をどうにか動かして、ナイフを避ける。

爆風が発生したと思うと、ニワトリの様な炎が街をすぐに焼いてゆく。

息が切れてきた。

高血圧なのか、心臓しんぞうが痛いほどに動く。

また、汗が止まらない。

なんだ、頭痛が急に……。

俺はその場に両ひざをついて、右手で頭を押さえてしまう。

「ひぇっ、ひぇっ、ひぇー。

 ヘリオスの火球はね、水分をうばう光を出すのー」

脱水症状か。体が、うまく動かない。

頭の中で、ストーブをつけられている気分だ。

「思い出すなあ、少し前の戦争もこんな風景だったなー」

「なにをいきなり」

「見てごらんよー、この都市をさー」

周囲をどうにか見る。

俺と同じ様に、脱水症状を起こした人々が次々と倒れてゆく。

「少し前に戦争があった。

 アポテネスは中央へ続く交易こうえきかなめであった為に、常に他国の侵略を受けていてね。中でも、ゲルヴァシャ国の支援を受けたホネスト国が、激しい攻勢を展開していた。しかし、長年に渡る戦争もある3人の活躍によって終わりを迎える。

 剣魔けんま・ポーロ、死人しびと・ジェイク、そして、烈火の竜騎兵であるオレ」

「だからどうした」

炎剣を振るが、簡単にかわされてしまう。

「この都市につくまでの間、ひたすら干からびた道を歩いてきただろー。

 そこには、ホネスト国があったの」

…………、嘘であってくれ。

「オレが、全てを干し上げたのさ、このヘリオスの火球でッ!

 数百万という人間が、飢餓きがと脱水のアゲクに死んだよー。逃げ出すヤツは羽で焼いてやったー、今まで散々好き勝手に攻めてきて、降伏とか認めねえーしー」

けいれんが止まらない。

彼は拍手をして、何かを思い出した様な表情をする。

「中でもあれは最高だった!

 子供たちが、えからのがれたい一心で、岩をかじり始めてやんのッ!

 しかも、動けなくなって肉食の鳥に体を食われたり、ノドの渇きが極まったのか、トゲだらけの植物をなめ始めたッ!

 それら眺めながら、酒と飯を食うのは病みつきだよ、たまんねえよ、アアアアあああああああああ! 思い出しただけでも、唾液だえきあふれるウッ!」

————赤爆の火球————

巨大な火球が空に現れると、そこからはがれた火の粉が街へ降り注ぐ。

 そして、黄色い空を赤く染める。

手をついてどうにか立ち上がり、ソイツをにらむ。

————赤爆の追炎ついえん————

火球からはがれ落ちた大量の赤黒い火たちが、大きな鳥の姿に変わり、ヘリオスの羽や火事の炎を捕食してゆく。

そして、空中の火球さえも食い始める。

彼は大きく動揺したのか、指をしゃぶる。

「なんだよ、オレの羽どころか火球まで! そんな魔法、見たことがないッ」

ソイツを右人差し指でさす。

「おまえを、なぐる」

————赤爆の焔槌ほむらづち————

紫に光る全長1メートルほどのツチを握りしめて、ソイツへ振りかかる。

「——ヘリオスの火球、落ちてこいよォー」

太陽の様な黄色い火球が落ちて来た。

動作を中断して、魔法で空中へジャンプする。

そして、ツチで黄色い火球をブッ叩いた。

火球に黒いヒビが入ってゆく。

「そんな、一国を焦土しょうどにする、戦術級の魔法なのに!」

こんなもの、ただの無差別大量殺戮さつりく兵器だろうが。

黒いヒビが火球の全体までとどく。

「ブチぬけえええ!」

振り抜いたツチが、火球を砕く。

割れたあめ玉の様な火球が爆発した。

強烈な閃光せんこうと熱風が、都市を包む。

それも一瞬のできごと。

————赤爆の火球————

赤黒い球体を手の上に作り、ヘリオスの火球へ放つ。

着弾。

火柱が至るところに伸びてゆく。

そして、ぼうぜんと立ち尽くす隊長の顔面へツチで殴りかかる。

「守ってよッ、ヘリオスの火短剣!」

彼は、腰を抜かしながら両手で短剣を握っただけだった。

俺は、風の様な速さで武器を振り抜く。

さらに、ツチを振りあげ、歯を食いしばりながら、全力で下ろす。

その頭を短剣ごと、大地へ叩き潰した。

乾いてしまった地面に、うるおいが戻ってゆく。

ノアに追いつくのは、時間がかかりそうだ。

俺は地面に倒れてしまう。

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