奴隷を助けたはずが奴隷になったのでタスケテください!

金丸@一般ユーザー

7ー2 ノア

月光が牢屋の天井からさす。

ときおり、フクロウの鳴き声がどこからか聞こえる。

石造りの牢屋へ、俺とノアは投獄とうごくされた。

「ノア、明け方にリーシェを取り戻そう」

「そうしよっか。じゃ、それまでふたりきりだね」

「今のうちに寝ておいたほうがいいとは思うけど」

ノアは体育座りをしながら「ふーん」と言う。

「リーシェちゃんって、妹なの?」

家族。

そう言おうとして、止めた。

しょせん、俺が一方的にそう思っているだけ。

「旅の仲間。暴行されている時に助けて以降、ずっと一緒」

「アカヤって、意外と面倒見がいいんだね」

「別に。他の人だって、そうするだろう」

ノアは目を閉じて、首を左右に振った。

「僕は、しないと思う。

 一人旅の途中、色んな人を見てきたけど、ほとんどの人は、自分にとって利益にならないことはしなかった」

「きっと偶然、そんな人ばかりじゃない」

「そうかな。故郷では、みんなは助けあい精神で生活してたけど、結局のところそれさえ打算的なものだと痛感した」

冷たい石の上に横になって、目を閉じる。

「おやすみ」

「ちょっと、せっかくだし色々と話そうよ」

明け方から行動するんだ、さすがに寝ようぜ……。

「アカヤ、寝たフリしても、まぶたの内側で目が動くから分かるんだよっ」

はったりだろう、それよか腹へったなあ……。

食事の時間が決まっていたせいで、夕食は抜きだった。

耳に息らしきモノがかかった。

「アカヤー、僕には分かってるんだからねー」

ノアは、俺の耳に息をふうと吐いたようだ。

ふたたび、吐息らしきものが耳にかかる。

最初は、冷たく速い息が鼓膜こまくへ入り込んでくる。

次に、やや暖かなゆっくりめの息が、耳全体にねっとりと絡みつく。

「ほらほらー、いつまで我慢できるかな?」

彼女の唾液だえきだろうか、湿った何かの粘る様な音が、耳のすぐそばで鳴る。

ノアの指と思われるものが、俺の耳をごそごそとなでてゆく。

そして、また吐息。

はうゥ。

コレはッ、強敵じゃないか。

髪が何かに触られたカンジがした。

ノアの小さく笑う声が聞こえる。

頭皮を指先でうず巻き状にいじられているようだ。

「強情だね、本当に目の動きで分かるんだよ?」

ノアが頭の後ろに来た、と思う。

そして、俺の頭を両手でつかんで……、ひざまくらをした、のか。

矛盾むじゅんしているが、無臭な匂いがする。

いつまでも嗅いでいたくなる、清涼な匂いだ。

女って、いい匂いするの、なんでだろう……。

「もしかして、もっと良いことして欲しいから、ムシしてるのかな?」

ぎこちない言葉攻めが、逆に心地よい。

ひざまくらされながら頭をなでられる。

「僕ね、本当はアカヤが助けてくれたの、嬉しかった」

あの時、無表情だった気もするが。

「ダマしたり物を盗もうとしたり、モンスターに襲われている人を平然と見捨てるヤツばかりの中で、アカヤだけが見返りも下心もなく助けてくれた」

感謝されるのは、慣れてない。

別に、俺なんて大した人間じゃないんだ。

「ありがとう」

俺は目を反射的に開けてしまう。

月下、笑顔のノアが見えた。

それも束の間。

彼女はすぐに意地悪な笑顔を浮かべる。

「開けたね? 今夜は寝かせないよ」

それは卑怯ひきょうだ。

天井にある穴には、フクロウが止まっていた。

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