奴隷を助けたはずが奴隷になったのでタスケテください!

金丸@一般ユーザー

6ー2 僕と名乗る彼女

換金所を求めて、都市をさまよう。

布で日よけをした露店ろてん以外は、白い石を重ねた様な建物ばかり。

ふと、リーシェがその場に座り込んでしまう。

「リーシェ、疲れたの。もう、休みたい」

彼女を背負って、換金所を探す。

やがて、あっせん所(傭兵などが仕事を請負う場所)のそばを通った時。

そこのドアが開く。

白いローブを着た人が、放り投げられた。

その人はフードを被っていたので、顔が見えない。

白いローブのせいか、小柄な細い体に見える。

「イイかッ、はした金でまた依頼をしてみろ。

身ぐるみはいで、奴隷にしてやるからな」

そう言った男が、大きな音を出してドアを閉める。

「大丈夫ですか、投げられてましたけど」

「ごめんなさい、僕は大丈夫です」

赤みのある瞳と目が合う。

桃色の髪を持つ、ショートヘアの女の子だ。

「なにしたんです?」

「行路をふさいでいるモンスターの討伐とうばつを依頼したんですが……、お金が足りなくて」

「投げるのは、さすがに過剰ですね」

彼女はうつむいて、ローブのスソを両手で握る。

「いいんです、そもそもは僕が悪いんですから。失礼しました」

彼女は、どこかへ歩いてゆく。

あっせん所から、数人ほど出てきた。

「あの、もし、よければですけど」

彼女は立ちどまり、こちらを見る。

「俺も砂漠を抜けるので、途中まで護衛ごえいしますよ」

「ありがとうございます、でも、お気持ちだけ」

さきほどドアから出てきた人々が、一斉に笑う。

「おい、聞いたかよ! こんな優男が護衛だと」

「何を護衛できるんだボクう? ムシを払うなら布で事足りるぜ」

「だいたい、武器さえないのにどうやって戦うんだ」

「ぼくの、かんがえた、さいきょうの、まほう! じゃねえ?」

また笑い声が起きる。

彼らのひとりが、彼女の手を掴む。

「ねえ、きみ。護衛の話だけどさあ、相場そうばよりも低い値段で受けてもいいぜ」

彼女は困っているのか、あいまいな返事をするばかり。

「砂漠を越えないとならないんだろう?

行路以外の道は、死亡者続出だぜ」

彼女が両手を胸の前で握り、上目づかいで話す。

「本当に、安くなるんですか?」

「ホントだとも。片道分、八人で一万ルドぽっきりでいい。

 ただし、夜にチョーット、楽しいことしてもらうけどな」

彼女は発言の意図をよく分かっていない様子に見えた。

男が、笑顔の彼女の肩に手を回す。

「やめてください……、僕はそんなつもりじゃ……」

俺はその腕を掴んでひねり、彼女の肩から離す。

「嫌がってるじゃないですか」

彼女は無表情になった。

男が俺の腹を殴る。

「イキリやがって、雑魚ざこがよお! オオオッ!」

————プロメテウスのハエ叩き。

わずかに赤く発光するそれで、男のノドを叩く。

男は声も出さずに地面へ倒れる。

「なんだ、そのちっせえモンはよおォ!

 見な、俺の——ヘパイストスの炎剣!」

別の男が、木ほど大きい炎の固まりを魔法で作り、それを振りおろす。

炎の固まりをひょいとよける。

爆風がわずかに起り、俺の服をがす。

彼が連続で切りこんでくる。

雑な大振りが俺をおそう。

「おう、雑魚クン、どうだ俺の見事なテクニックは!」

ハエ叩きを振る。

プロメテウスが、その炎剣を横から叩き折る。

また、その男の顔に食い込み、何本か歯を折った。

「俺のヘパイストスがッ!?

 俺のはなァ、太くて、大きくて、硬くて。

 そして、激しいんだよおオオオオ!」

——プロメテウスのハエ叩きで彼のほほを打ち抜く。

「女の前だからって、イキるなよ!」

別の男がそう叫ぶと、魔法でおのを作る。

やれやれ、実力差がまだわからんのか。

ハエ叩きを頭上でひと回し、そして、地面を叩く。

その衝撃で、男たち全員が数メートルほどふき飛んだ。

地面には深い亀裂きれつが入り、わずかなクレーターがそこにできる。

ひとりの男が起き上がり、あの女の子を人質に取る。

「ふざけんな、カスがッ! 武器を捨てて大人おとなしくしろ」

「ヤダッ、僕、とばっちり?!」

ハエ叩きをぽいっと捨てる。

「ひとりで戦わないの、かっこわるい」

リーシェは気だるそうにそう言った。

「黙ってろガキィ!

 どんな手段を使おうと、目的が達成できればいいんだよ」

「おい、子供に汚い言葉を使うんじゃない」

男が、人質の首に魔法の短剣をそえる。

「うごくんじゃねえぞ」

刃が彼女の首をわずかに切る。

「痛い、そういう乱暴らんぼうは好きじゃないッ。

 僕、もう怒ったよ!」

どうするかな、ヘッドショットはさすがにやりすぎだろうし。

彼女が、短剣を持つ手をひねって拘束を抜け出す。

そして、掌底しょうてい(手首に近い部位での打撃技)を男のアゴに叩き込んだ。

「夜ご飯は食べれないから、反省してね!」

彼女は短い時間で流れる様に、頸椎けいつい(神経の集中している首の後ろ側)を手刀で打ち、みぞおちへこぶしを埋めて、スネをる。

さらに、気合を発声しながら彼を空中へ背負い投げ、自らもジャンプして体を回し、蹴りをその胴体に叩きこむ。

そして、彼と共に重力に引かれてゆき、地面に巨大なクレーターを作った。

「次ッ!」

絡んできた人たちが一斉に逃げ出す。

俺が拍手すると、リーシェも拍手を始める。

「せっかく、護衛を見つけたのに……」

「そんな強いなら、護衛はいらないだろう?」

「僕は、強化や回復系の魔法しか使えないんだ。モンスターは倒せない」

「なるほどね。でも、あの男どもは下心があって危険だった」

泣きそうな彼女は大きく息を吸い、両手を握りしめて叫ぶ。

「ごほうびじゃないか! 楽しみだったのに!」

涙を目の端に浮かべる彼女が、俺の衣服を掴む。

「責任取ってよ、もう誰も僕のこと守ってくれない……」

彼女から目を反らすと、ひっそりと昇った月が見えた。

さーて、換金所を探さないとなあ……。

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