奴隷を助けたはずが奴隷になったのでタスケテください!

金丸@一般ユーザー

3ー3 大衆食堂で食事をしよう②

短剣は、伏せた俺の上を通り過ぎて、店長に刺さった。

「あう、あう、あう、おう、ポゥッ!」

まだ生きているようだが、彼には治療が必要だろう。

ぽたり、またぽたりと、首筋に水を感じる。

真上から、湾曲わんきょくした刀の様な水が降ってきていた。

プロメテウスの炎剣でそれを受ける。

その刀は、プロメテウスをすり抜けて俺の服を刻む。

防戦一方、展望なしは打開する。

プロメテウスで建物を爆破しようと、振りかぶったとき。

足がうまく動かない。

いつのまにか、水はくるぶしの上まで浸水していて、粘着ねんちゃく性のある性質に変化していた。

————プロメテウスの炎剣————

爆発が起こり、衝撃と火が周囲を襲う。

柱や食堂の備品などは全て燃え尽きた。

一方、水はガムの様に少しだけ伸びて、すぐに元の状態に戻った。

がれきが、水の中から高速で射出される。

プロメテウスでそれを弾く。

建物を囲む水が、次第に縮んでゆく。

このままでは、ランツツミの具材になるのも遠くない。

食堂の中央、さきほど砂のあった場所がまだ浸水していないのが、見えた。

カウンターから離れて、席まで走ってゆく。

水が襲い来るので、かわしつつどうにか食堂の中央へ進む。

ここの下なら、水はまだあるまい。地中から外へ出よう。

プロメテウスを振り上げる。

とげの様な水が一斉に地面から生える。

水が全身にねばりつき、身動きが満足にできない。

「チクショウ、うかつだった!」

水のおおかみがいくつも周囲から生えてきて、俺に迫ってくる。

————プロメテウスの火壁カヘキ。全方位を火の壁で囲む。

水狼が火壁に触れるなり蒸発する。

今度は、俺を拘束している水から狼が生えて、体のいたるところをカミちぎろうとする。

嬉しさのあまりに、思わず笑ってしまう。

「ようやく、まともなヤツがきた」

————赤爆の火片————

葉の様な赤黒い火をひとつ、魔法で作り出す。

それは、空中からひらひらと落ちてゆき、音もなく水に浮かぶ。

燃焼ねんしょうの音が鳴る。

一瞬で拘束していた狼もろとも、周囲の魔法水を蒸発じょうはつさせた。

濃霧のうむの様な水蒸気を抜けて外へ出ると、大衆の視線がこちらに集まっていた。

大衆の中をかき分けて、逃げる様に走る男がいる。

ソイツを追うと、人混みにもかかわらずに、水の刃がおそってくる。

————プロメテウスの火縄ひなわ

火の縄が、そのやせ細った男の足に絡みつく。

俺は水の刃をかわしつつソイツへとたどり着いた。

暗殺者はこしを抜かしながらも、人を巻き込んでまた水の刃を飛ばす。

プロメテウスの炎剣でそれを切って蒸発させた。

陰湿いんしつだな、見た目通り」

「………、クソッ、殺せ」

誘拐ゆうかいしたふたりは、どこにいる?」

暗殺者は水の短剣を作りだすと、自らのノドを貫こうとする。

————プロメテウスの火縄、それが男の手や首をも拘束する。

ふと、街に影がさす。

「ご立派」

暗殺者は笑う。

禁忌きんきの炎、それを使うヤツがまだいたなんてな」

「念じた物をかならず焼き尽くす、いい炎じゃないか。使わない方がどうかしている」

「お前はいずれ、周りの人間をも巻き込んで破滅する。

 そのとき、身でもって禁忌の由来を知れ」

赤爆には、デメリットがあると言うのか。

昼間なのに、急に暗くなった。

また、砂じんがときおり吹く。

見上げると、巨大なにごり水の固まりが浮かんでいる。

「狩人の加虐かぎゃく——スキュラの水よ、俺ごと食い殺せ!」

その固まりから、六つの狼頭ろうとうが生まれ、こちらへ牙をさらして迫る。

狼の咆哮ほうこうが連なって鳴りひびくと、人や建物が吹き飛ぶ。

————プロメテウスの炎剣。魔法でチョウヤクして、その炎剣で切りかかる。

魔法水へ触れた瞬間、炎がすべて水へ取り込まれてしまう。

それどろか、とりこまれた炎は狼頭へ変わり、俺にかみつく。

————赤爆の火皮ひひ————

赤黒い火が、皮の様に伸びて、全ての狼頭を包む。

火皮は、熱した水アメの様な外観に変わり、激しくうねりだす。

そして、一度だけ全方位に大きく膨らむと、弾けて霧散むさんした。

夏の空に、水アメの粒がぱらぱらと降る。

暗殺者は砂じんに囲まれていた。

「感謝する、ジルダプタ!」

たちまち、暗殺者はミイラとなって死んだ。

もうひとり、まだどこかにいるのか。

砂を魔法で焼こうとする。

砂はすぐに逃げてしまった。

全壊ぜんかいした食堂から、物音がする。

————プロメテウスの炎剣、…………。

かろうじて動く店長が、医者を求めて叫んだ。

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