上級騎士のみなまで言うな

黒蜥蜴

看護士「みなまで言わせないでよ!」


俺はベッドの上から真っ白な天井をただ眺めていた。

小説によくあるワンシーンだ。

天井のことしか書くことがなかったのかといつも思っていたが、実際にその立場になってみると、なるほどこれは天井ぐらいしか語るものがない。

天井についた染みがいくつか見えた。

綺麗に清掃された病室であっても、やはり天井までは行き届いていないらしい。

クモの巣も張っており、これは後で療治長に報告が必要だ。

「騎士さまー、検温の時間ですよ」

若い女性の看護士が言いながら検温計を俺に渡した。

それを「ありがとうございます」とだけ言って受け取ると脇に挟んだ。

「女王さまにお怪我はありませんでしたか?」

看護士にそう聞いてみた。

しかし彼女はかぶりを振った。

「私は下級医術士なので、女王さまのお世話はしておりません。ただ、王様と女王さま用の病室は空いておりましたので、お怪我などはないかと」

なるほど。

彼女は下級の証拠である翠の衣服を身にまとっていた。

看護士たちも騎士と同じように、使える医療魔法の種類や医療技術によって下級医術士~上級医術士、続いて療治士、プリースト、などの階級がいくつかあった。

彼女らを総じて看護士と呼ぶ。

経験を積めば積むほど魔法は進化していくが、医療技術だけはセンスが重要になるようで、女王さまのお世話となれば、例えかすり傷程度の怪我でも療治長以上の者が治療にあたる。

下級の彼女に女王の具合を聞くのはナンセンスだ。

「熱は…平熱ですね。お世話をして頂きありがとうございます」

検温計を渡した。

看護士が検温計に手をかざすと光が手から放たれて検温計を包んだ。

医療魔法の基本、消毒魔法だ。

「見事なものですね」

その様子を眺めながら呟いた。

「え?」

「あ、いやいや。こんなに便利な魔法が基本魔法なのは素晴らしいなと思いまして。止血魔法と消毒魔法があれば戦場でも応急処置ができるじゃないですか。私、魔法はからっきしでしてね」

「ふふ。そういうことでしたか」

看護士が嬉しそうに微笑んでいた。

見れば自分の娘と言ってもギリギリ大丈夫なほどの年齢で、身長も低く、可愛らしい印象を受けた。

体格もこの王国の民にしては珍しく、華奢で大人しそうな様子だ。

マルガリータさまにしてもミラにしても、城の人間はグラマーすぎる。

勿論幼い子が好きという訳ではないが、女性らしい身体つきを見ると何故か恐怖感がある。

この城の女性=恐い、この城の女性=グラマー。

グラマー=恐いと認識しているせいかも知れない。

俺は何故かこの娘に興味があり、続けて話をしてみることにした。

「医術士になってからはどれくらいなのですか?」

「え、えっとですね。3年くらいですね」

「3年ですか。ではもうそろそろ上級医術士の試験ですね。どうですか、試験はかなり難しい内容だとお聞きしてますが、勉強は進んでいますか?」

そう言ったとき、彼女の顔が一瞬暗くなった。

これはきっと聞いてはいけないことだったのだろう。

浅慮だった。

「…私、落ちこぼれなのです。多分試験の参加資格すらもらえないと思います。実験用の動物に麻酔を投与するとき、配分を誤って殺してしまったり、傷口に間違って血流促進の魔法かけてしまったりと…」

え。

ちょっと待って。

さすがにそれはやばいw

どうやって間違えるの!

てか、そんな方を当てられる上級者騎士ってどういうこと??

実験動物モルモット??


「うぅ……うぐっ」

彼女は余程そのことを気にしているのか遂に嗚咽を漏らしながら涙を流してしまった。

これは本格的にまずい。

嗚呼、こんなときどうしたらいいのだろう。

俺は女性経験が皆無の男だった為、女性の気持ちが分からなかった。

そしてこういったとき、どういうことを言えば勇気付けられるかも分からない。

ある意味では俺は魔法使いだ。

「あ、あの……」

そうだ、女性の扱いといえば勇者あのひとだ。

頭にピンと来た。

同時に女性を口説く姿が頭に浮かぶ。

彼ならどうするか考えてみよう。

彼なら…。

きっと……

「そんなに悲しまないでください。貴女が頑張っているのは皆分かっていると思いますよ。私は騎士のことしか分かりませんが、皆最初の土俵は一緒の筈です。進行速度は遅くても前に進むのを諦めなければ、きっと貴女も上級医術士に成れますよ。だからどうか哀しまないでください」

俺は今まで見せたことのないくらいの爽やかさをイメージしながらそう言った。

勇者ならきっとこんな感じで声をかけるに違いない。

彼は女性の扱いも人並み外れた才を持っている。

「騎士さま…」

想いが通じたのか、彼女は滴る涙を自らの袖で拭き取るとジッと私を見た。

ドキリと心臓が鳴った。

まさか、まさか、まさか。

遂に俺にも春が来たのか!!

これは勇者に感謝せねばならない。

今まで散々見せつけられたものも、やっと役にたつときが来たのだ!

「騎士さま?」

「はい…」

俺は彼女の目をしっかりと見た。



「み な ま で 言 わ せ な い で よ ! !」

頬を思い切り平手打ちされた。

頚椎けいついがネジ切られるくらいの勢いで打たれたので、目の前が一瞬スパークした。

その後はクラクラと視界が定まらなかったが、去り際に彼女が怒った顔で何かを言っている。

なんだろう。


「もう!なんでそんなところを膨らましてお話されているの、いやらしい!このロリコン騎士ナイト

思い当たる部分を辛うじて見てみる。

掛け布団がテントのように膨らんでいた。

いや!

別にそんなんじゃないですよ!?

さすがに女の子と見つめあっただけで大変なことにはなりませんよ。

これ股間用防具ファールカップですよ!?

そう叫んだつもりだったが、あまりに突然のことだった為、声は出ていなかったらしい。

誤解は解けぬまま、彼女は出ていってしまった。



「あれ。騎士ちゃん、どうしたの?何か怪我が酷くなっていない?」

丁度部屋に入ってきた勇者がそう言った。

恥ずかしさと行き場のない怒りが、身体をブルッと震わせる。

いまここに剣がなくて良かった。

あったならば切腹不可避だ。









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