上級騎士のみなまで言うな

黒蜥蜴

騎士「みなまで言わないでぇええぇえ!」

俺は激しく切りつけ合いながらも、女王たちを巻き込まないよう、部屋に設置されていたバルコニーへ移った。

充分な動きが出来るほど広いバルコニーだ。

お互い同じくらいのリーチの武器を使っていたがその使い方は対照的で、俺は切り裂くように、暗殺者は突き刺すように武器を使っていた。

とてもやりにくい相手である。

「ぬ…!」

鋭い一撃が鎧の隙間を狙って飛んできた。

何とかそれを打ち払う。

そして反撃の切り上げを繰り出した。

しかし暗殺者はそれを悠々と避けた。

実を言うと、突剣との闘いは昔から苦手である。

加えて手練れの暗殺者が使う剣術は王国で習うそれとは全く違っており、全ての攻撃が命を狙って飛んでくる必殺の攻撃だった。

(攻撃の速度が速すぎて避けきれない…)

部屋に潜入する為いつも装備している盾などは持ってこなかったのが悔やまれる。

盾があればいかに鋭い攻撃と言えど、受けながら攻めの好機を見つけ出すことが出来た筈だ。

それこそが俺の戦い方だ。

盾がない今、いつもの実力の半分も出せなかった。

「どうした竜殺し殿。先程から防戦一方ではないか」

暗殺者があおる。

挑発のつもりで言ったのだろうが、俺はその言葉を冷静に捉えた。

確かに奴の言う通りだ。

攻めなければ絶対に勝てない。

一呼吸を置く。

剣を握り直して大きな袈裟斬りを繰り出した。

瞬間、切っ先から大きな衝撃が放たれる!

その衝撃波はまるで生き物の様に波打ち、放射状に広がっていく。

バルコニーを半壊させてしまうほどの大きな衝撃波だ。

床板や柵に使われていた木材が破壊され宙に舞う。

爆風が巻き起こった。


「……」

巻き起こる煙の中を確認するがその中に男の姿は見られない。

バルコニーより上の位置で声がした。

「……。これは避けねば、やられていたな。剣圧でこれだけの破壊力を出せるとは、やはりあなどれぬか…」

バルコニーから屋根に飛び上がって俺の攻撃を避けた暗殺者が呟いていた。

攻撃の初動の瞬間に判断し跳躍したのか…。

常人なら防御しようとする筈だった。

そして、防御したならば剣もろとも戦闘不能にできただろう。

「……。これを避けられるとは…貴方も相当な使い手ですね」

俺は崩落したバルコニーの床を強く蹴り込むと、高く飛び上がって屋根に着地した。

石畳のような屋根瓦を踏み締めるとわずかにズレるので危うく転びそうになったが、バランスを取りながら暗殺者を睨み付けた。

「…!」

瓦をさらに何回か踏みしめて確かめる。

これは……好機だ。

暗殺者が屋根に飛び上がったのは悪手だ。

刺突型の剣士に重要なことはステップと突進力である。

この不安定な屋根での戦闘に加え、屋根瓦がズレて思うように突進できない筈だ。

俺は間髪を入れず男に向かった。






「ギャオオオォ!」

暗殺者に俺の斬撃が当たるか否かの瞬間、けたたましい雄叫びと共に、頭上から巨大な斧が迫って来た。

俺と暗殺者との間に斧が振り下ろされる。

強力な一撃だ。

何とかお互いに避けられたものの、衝撃で飛び散った瓦礫が俺の甲冑に直撃する。

「ぐ……!なんだ?」

やっとのことでそう言うと、後退して剣を構え直す。

攻撃をしかけてきた者は、追撃する様子もなく佇んでいた。

屋根に設置されていた筈の魔法の石像ガーゴイルだった。

二足歩行の巨大コウモリの石像が、これまた大きな斧を持って唸っている。

これは王国の魔導師が敵が屋根から侵入してくるのを防ぐために設置したもので、瓦を踏み締める衝撃を察知し予め登録がある者の足音かを調べる。

そして登録者以外の足音を検知すれば自動防衛魔法が起動し、石像が攻撃をしかけるような仕組みになっている訳だ。

ん?

おかしいぞ。

さっき暗殺者たちは窓ガラスから侵入して来た訳だ。

本館から離れた位置にある女王の部屋に侵入するには、我々のように扉から堂々と入る以外は空から飛んでくるくらいしかない。

魔法使いの集団なら空から飛んでくる……なんてこともあるだろうが、あからさまに忍者みたいな連中だ。

恐らく屋根を飛び移って侵入してきたのだろう。

「ガーゴイルが起動したのか…おかしいな。我々は起動させずに侵入することに成功した筈だが、今更起動したのか?いや、違う。まさか…竜殺し殿……」

待て!やめろ!

みなまで言わないでぇええぇえ!


「あんた、どんだけ信用されてないんだ」

俺はその場に膝を付いた。

そんなハッキリ言わなくても良いじゃないの…。

信用されてないんじゃないし、屋根に登る必要のない人間だから登録されてないだけだし。

騎士だもの…。


「うっ…!」

一瞬の隙を突かれた。

暗殺者は瞬時に間合いを詰め、俺に向かって蹴りを繰り出した。

反射的に剣でその蹴りを受けてしまう。

それこそが男の目的だった。

器用に剣の柄を蹴り上げると、はるか後方に剣は飛んでいった。

「勝負ありだな、竜殺し殿」

暗殺者は俺にナイフを突き刺した。

左胸に鋭い痛みが走った。

身体の向きを回転させると同時に、右手の掌で暗殺者の一撃を弾こうと試みる。

完全に攻撃を避けることはできなかったが、何とか急所は避けた。

「ほう…!」

そのままあえて退くことなく、突きを繰り出す。

アゴを狙って一撃で意識を飛ばす為だ。

その後も一進一退の攻撃が続いた。

剣を避けて拳を繰り出し、またそれを避けられて斬撃が飛んでくる。

その繰り返しだ。

だがその一連の攻防は俺にとって圧倒的に不利なものである。

暗殺者の攻撃は急所狙いの一撃必殺だ。

対して俺が暗殺者を一撃で倒すには、意識を飛ばすか武器を奪うかくらいしかない状況。

自ずと攻撃を加える箇所が限られてきて、同時に動きもワンパターンになってくる。

しかもその動きを左胸に怪我を負った上で……しないといけない訳だ。

呼吸が乱れてきた。


「素手でもこれだけ食い下がるとは、予想外だよ。でも、そろそろ限界が近いのではないか」

そんなことは言われなくても分かっている。

今度の挑発は少し苛立たしかった。

それだけ精神的にも肉体的にも磨り減っているという証拠だ。

そして注意しないといけないのは暗殺者だけではない。

先程からブンブンと斧を振り回している石像も厄介な敵と化していた。

無差別で大振りな攻撃なので避けるのは容易いことだったが、その威力は軽視できないものがある。

一撃で屋根瓦を粉砕し爆風を巻き起こす。

掠めただけでもおおきなダメージを受けるに違いない。

「ほら、隙が生まれたぞ」

「なっ!」

遂に暗殺者の刺突と石像の斬撃の直撃を受けた。

後ろに10メートルほど吹き飛ばされて、屋根の上に突き出る楼閣に衝突する。

臓器まで伝わる衝撃を背中に感じ、追って痛みが走った。

見れば甲冑の胸当ての真ん中に、剣を突き刺した跡がある。

おびただしい量の血液がその傷口から流れ出ていた。

(危なかったーー)

あと数センチ場所がずれていれば、心臓に直撃していたことだろう。

コンマ数秒のところで回避を試みたおかげで、肋間を刃が上手く貫いたようだ。

だが、圧倒的不利な状況は変わらない。

早く立たねば…。

しかし脚に力が全く入らない。

俺は生まれたての小鹿の様に脚をばたつかせた。


「竜殺しよ、あまり粘るな。粘れば粘るほど、お前の苦痛は続くだけだ。私は一流の暗殺者。痛みや苦しみなくあの世に送る方法も心得ている。大人しく……」

「断ります…!」

騎士に諦めはない。

右手が折れれば脚で、脚が折れれば噛みつきで、頭を打ち砕かれれば亡霊と成りて闘え。

騎士団に伝わる一言だ。

「はっ、なるほど」

暗殺者は勝利を確信してか、先程までよりも余計に悠々と俺に迫ってきた。

大股で闊歩かっぽしている。

「時間稼ぎか」

「む…どういうことです?」

「下で闘っている勇者とサムライコンバットの女を待っているのではないか?勇者はともかく、あの侍女はかなりの実力だ。私やお前と同じくらの技量を持っているだろう。手負いとはいえ、さすがにお前たち3人を相手にするのは厳しい」

暗殺者は「お見通しだ」という表情をしていた。

だが実際には、そんなことを考えている余裕はなかった。

襲ってくる焼けつくような痛みに意識を飛ばさないようにするのが精一杯だ。


「それは良い考えですね。ですが貴方、勇者はともかく……と言いましたか?」

「ああ、言ったぞ。それがどうかしたか」

「貴方は勇者を甘く見すぎだ」

言い終わったその刹那、俺たちの後方から歩み寄るガーゴイルを巻き込むようにして、屋根を吹き飛ばす大きな爆発が起こった。

石の破片が粉々になって宙に舞う。

相当な硬度を持つ石像が、断末魔をあげながら粉砕されているのだ。

その爆風の中を、勇者が聖剣エクスカリバーを掲げながらゆっくりと歩いていた。

「バカな……!奴は竜殺しのお前と同等かそれ以下の実力だと聞いたことがある。あれは嘘だったのか!?」

俺は嗤った。

「嘘…?嘘ではありません。私と彼の力は拮抗しています」 

「それでは何故!」

暗殺者はたじろいでいた。

空気を伝わって勇者のオーラのようなものが流れてくる為だろう。

禍々しさは一切ない聖なる力、故に純粋で触れがたく恐ろしいオーラだ。

「私と勇者が同等なのは………剣術の話ですよ」




その昔、魔物モンスターたちと兵士たちの遺骸が転がる戦場に、突如一筋の光が舞い降りた。

幼い子どもの姿をしたそれは、自分の身の丈よりも大きな剣を持ち、熟練の兵士でも苦戦するような悪鬼をなぎ倒すように切っていった。

闇の魔法を打ち消し、凶悪な攻撃を正面から受けきる。

臆すことなく圧倒的な力で魔物を蹂躙じゅうりんする様を見て、人々は畏怖の念を籠めてこう呼んだ。

そう。

あれが
「勇 者 だ 」




















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