上級騎士のみなまで言うな

黒蜥蜴

王様「みなまで申すな」

「おお、参ったか騎士よ。呼んだのは他でもない。近くに寄れ」

「失礼いたします、王様」

王座を照らす蝋燭ろうそくの炎が、甲冑かっちゅうに映って怪しげにきらめいた。

上級騎士の証である銀の甲冑だ。

その輝きがいつもより煌めいているのは、王様にお会いするのに失礼のないよう、昨晩から5時間ほどかけて磨きあげた為だ。

「くれぐれも粗相のないように頼むよ……」

先週そのように告げに来たのは、重い表情を浮かべた騎士団長のラース・バーバリーだった。

超エリート騎士家系のバーバリー家の現頭首で、騎士団の入団試験を顔パスするような男だ。

しかしその実、彼は名前負けがすぎる程の臆病者で、戦場に出ては逃げ隠れし、魔宮ダンジョンに入っては部下に攻略を任せてしまうような男である。

そんな男が、わざわざ俺の家に来て「お願いがあるんだけど……」と一言。

どうやら王様から任務を言い渡され、魔宮攻略に必要な隊員を集めているところらしい。

王様が自ら依頼をするような内容なのだから、簡単な任務ではないだろう。

当然ラース団長が何とかできるレベルではない。

そこで白羽の矢が立ったのは、上級騎士であるこの俺というわけだ。

申し分のない報酬と任務後の休暇を団長は提示してきた。

「任務は上級騎士である君なら、難なくクリアできるレベルよ。ね、お願い?アタシを助けると思って、ね?」

彼は女子学生のようなノリでそう言った。

騎士の世界は年功序列だ。

それに上司である団長殿に頼み込まれたのでは、断るに断りきれん。

俺は静かに頷いた。

「かしこまりました団長。この上級騎士めが任務に向かいましょう」

ただし任務の危険度によっては充分な量の武器が欲しい……と思った。

普段から使用している甲冑は特注品なので申し分のない性能を誇っているが、武器の方は消耗品の為、わざわざ金をかけて自分用を用意しないというのが我流だった。

たとえ粗悪品ナマクラでも、使う者が一流であれば名刀と化す、これも座右の銘である。

「では団長殿。武器の用意をしていただ……」

「上級騎士よ。みなまで言うな」

唐突に言葉を切られた。

そして彼は何が俺の"みな"なのかは全く意とせず、豪快に笑うと「じゃあね、おやちゅみ」と投げキッスをして退室した。

そうして今に至る。





「騎士よ。今回の任務については私が直々に説明しよう」

余程重要な任務なのだろうか?

ラース団長はゴブリンの巣がどうのこうのとか、野ブダが暴れてるとかなんとか言っていた。

簡単な任務だがモンスターの数が多いから、腕のたつ騎士数名で一気に掃討したいとも。

しかしその割には、先程から他の騎士の姿が見えない。

個別に任務に就くのだろうか?

「恐れながら陛下、先にお聞かせください」

「うむ。申してみよ」

「はっ。私がラース団長から聞いた話では、今回の任務に複数名の騎士が召集されたとありますが、他の者は既に任務に向かったのでしょうか?」

「あー……あれね、はい、はい」

王の側近がどよめいた。

わっと声があがり、隣同士で顔を見合わせている。


「いやねー、ちょっと理由があってねー、上級騎士ちゃん独りで行ってもらいたいのー!」

「……」

このノリ、王国で流行っているのか?

「御意……。ではどのような任務内容かお聞かせください」

「うん、うん。そうやって何にも文句言わずに聞いてくれる騎士ちゃんがすっき……!ありがとう」

「勿体ないお言葉に御座います。……して何をすれば」

今度は部屋が静寂に包まれた。

「糸が落ちても分かるくらい」という表現の仕方があるが、まさしくそれだ。

緊張した表情で皆押し黙っている。

甲冑の擦れる音だけが妙に目立ってしまうので、俺は滴る汗すらも自重しないとならない。

王はゴクリと喉を鳴らした。

「実は……」

「……はい」


「ま お う を た お し て 」

俺はその言葉を暫く頭の中で反芻はんすうしていた。

まおう、マオウ、馬おう、馬王、魔……王?

「え、あの、聞き間違いです?魔王って、あの魔王?」

「うん」

「魔物の王様?」

「うん」

「とっても強くて恐ろしい?」

「うん、そそ」

「え、それってふつー勇者とか何とかがーー」



「騎士よ、みなまで申すな」

王は今日一番荘厳な響きでそう告げた。










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