マモノ使いの先生

Luce00

01 マモノ使いの入学

椿姫とミラルバがまだ学園兼理事長室にいる頃




「これがミラルバ学園かぁ」

学園の門の前で1人の女の子が地図を片手に呟いた。

門の外からでもわかるほどの大きなグラウンド、あちこちに並ぶ建物群。それは今まで社会にハブられてきたマモノ使いからしてみれば慣れない光景であった。

見惚れていても物事は先に進まない。
そう思った彼女は気を取り直して門をくぐった。
入るとすぐ左手に詰所のような建物があった。
彼女はそこへ行きカウンターから声を掛けた。

「すみません、誰か居ますか?」

するとすぐに返事が返ってきた。

「はーい、どちら様でしょうか?」

奥から一人の女性が出てきた。
女の子は肩掛けカバンから一枚の紙を取り出して言った。

「えっと、マモノ使いの入学者なのですが…」

女の子がそう答えると女性は笑顔で女の子から紙を受け取り言った。

「マモノ使いね、よくぞはるばるここまで来てくれたね。道中はさぞ怖かった事でしょう?」
「はい…周りからの視線が怖かったです…」
女の子はそう答えた。

女性は受け取った紙に目を通すと、
「うん、問題ないね」
と言うと女の子にカードを渡した。

「これは生徒カードよ。この学園の人物だと言う証明書になるから無くさないでね」

女の子はそれを受け取った。

「それじゃあ付いてきて、客間に案内するわ」

そう言うと女性はカウンターから出てきて女の子を連れて詰所の裏の建物へと案内した。建物へ入ると「客間」と書かれた扉の前で立ち止まった。

「既に4人が中にいるわ。貴女が最後になるわね。入って待っていてちょうだい、私は学長に伝えに行くから」

「ありがとうこざいます」女の子はそう言ってお辞儀をし、扉を開けた。

中には4人の男女と彼らの使いであろうマモノたちが居た。

彼らはテーブルを囲むように配置されているソファに座り会話をしていたり、部屋の隅で自分の“使い”と見られるマモノと戯れたりしていた。

扉が開いた事で視線が女の子に向いた。
「こ、こんにちは…」
軽く会釈をすると部屋に入った。

「こんにちはー!」

一人の赤い髪の少女が手を振って答えた。

「ここ座ってー!」
そう言って座っている席の隣をポンポンと叩いた。

「し、失礼します」

そう言いながら言われた席に座った。

すると手を振っていた赤い髪の少女は
「私の名前はアカネ!でこの子が私の“使い”のヴォルフ!」
と言って彼女の足元で伏せてる狼の様な生き物の頭を撫でた。

「そして向かいのこの子はサラちゃんで膝に乗ってるのスライムのスーちゃんだよ!」

「よろしくお願いします。アカネさん、ヴォルフさん、サラさん、スーさん」

挨拶をするとサラと紹介された腰まである白い髪の少女は読んでいた本から目をあげて「よろしく」と答え彼女の膝に乗っていたスライムもぽよんと跳ねる様な仕草で返事をした。

サラは本を閉じて
「あなたの名前は?」と尋ねた。

「私の名前はミズ、ミズ・ミラーです」
「ミズちゃんね、これからよろしくね!」

アカネは辺りを見回した後首を傾げて尋ねた。

「ミズちゃん、貴女の“使い”は?」

ミズは躊躇いがちに
「今はハザマにいるんだ、街中で一緒にいると後ろ指指されちゃうから」
と答えた。

「後ろ指、ですか…?」

サラは不思議そうに尋ねた。

「うん…、私の“使い”は魔族と言ってた良いくらいの見た目をしてるから」

ミズはそう答えた。

「私ミズちゃんの“使い”気になるな!ここなら他人の目を気にしなくて済むんと思うし私見てみたいな!」
アカネは提案した。

「そう、だね。じゃあ私も自分の“使い”を紹介するね」

ミズはそう言って立ち上がろうした時、扉からコンコンとノックする音が聞こえた。

「はーい、どーぞー!」とアカネは返事をした。

扉が開きそこから2人の人物が入ってきた。

「こんにちは、私はこの学園の学長のミラルバだ、そして隣の彼が君たちの担任の椿姫先生だ」

入ってきた女性はそう言って隣の男性、椿姫に顔を向けた。

「椿姫だ、これからよろしく」

椿姫は笑顔でそう述べると手近にあった椅子に腰をかけた。

部屋にいた7名はいきなりの事でポカンとしていた

「あれ?先程の使いの人に来るって伝えておいてって言わなかったっか?」

ミラルバは椿姫に向かって問いかけた。

「追い越したんじゃないか?」

すると扉を叩く音がした。
そして扉が開き
「学長がそろそろ来るそうで……あれ?なぜ学長がこちらに?」

「ふむ…椿姫先生、貴方の言う通りですね」
ミラルバは椿姫に向かってそう言い
「どうやら私たちの方が先についたようです」と詰所の女性に答えた。

「あら、そうでしたそれは失礼しました。では私は詰所に戻ります」
女性はそう言って扉を閉めた。

「んじゃまあ説明会といきますか」
椿姫は見送るとそう言った。

「ちょっと待ってください!」
アカネは大きな声で言った。

「えーと、君は…アカネちゃんだったかな?何か問題があったり?」椿姫が尋ねると
「今ミズちゃんの“使い”を呼ぼうとしてた所なんです、だから少し待って下さい」

椿姫は視線をミズの方に移し「そうなん?」と尋ねた

「はい、そうです」
とミズは答える。

「じゃあそれが終わってからで。ミズちゃん、君の“使い”を呼んでくれるかな?」

「わかりました」

ミズは立ち上がると誰にもいない空間向かって呼びかけた。

「出てきて、マグナ」

その瞬間ミズの目の前の空間にひびが入った。そのひびは次第に大きくなり割れた。そして中から少女の様な姿のマモノが出てきた。
それはヴァンパイアと言うのが適切な姿をしていた。

「会いたかったよー、ミズ〜!」

ヴァンパイアはそう言ってミズに抱きついた。
「ごめんね、マグナ。私も会いたかったよ」
ミズはそう言ってマグナの頭を撫でた。

「その子が、ミズちゃんの、“使い”…?」
アカネは首を傾げる。

「うん、この子、マグナが私の“使い”だよ。マグナこの人たちが今日からクラスメイトになるんだ」

マグナは部屋を見回して
「わかった!」と言った。


「それじゃあ、始めても良いかな?」
ミラルバはそう言って立ち上がった。

「まずは入学おめでとう、と。君たちは今日からこの学園の生徒だ。改めて自己紹介をしよう。私はこの学園の学園兼理事長のミラルバだ。そして隣の彼が君たちの担任になる椿姫先生だ。」

「よろしく〜」椿姫は軽く手を振った。

「彼はこの学園で唯一のマモノ使いの教師だ。今回の学科設立に際して来ていただいた。軽いノリだが腕が立つ人物だ、困ったことがあれば彼に相談してくれ」

ミラルバがそう言うと一同を見渡し
「君たちも自己紹介をしてくれないか?」と尋ねた。

「自己紹介ですか?」
アカネが首を傾げて口にした。

「ああ、恥ずかしながら学科設立に向けて多忙だったのでな、君たちの名前を把握しきれていないんだ。だからこの際本人から教えてもらおうかと思ってね」

「そう言うことですか、てっきり椿姫先生は既に私の名前を知っていたのでミラルバさんもご存知だと…」

「まぁミラちゃん人の名前覚えるの苦手だもんねぇ」
「…椿姫先生は茶々を入れないでください」

「わかりました。では私から。私の名前はアカネ、でこの子はヴォルフです!」

「アカネ君とヴォルフ君だな。ありがとう、では次は隣の君、教えてくれるかな?」

刺されたミズは「は、はいっ」と返事をし
「私の名前はミズ・ミラーです。この子はマグナって言います。」
「マグナでーす」とマグナは答える。

「…私はサラ、この子はスー。よろしく」

「ありがとう。じゃあ次は…」
「俺の名前はサバネ!んで相棒のスートだ!」
部屋の壁に背を預けていた足を伸ばして座っていた赤髪の男子がミラルバの言葉に被せる様に言った。彼の足には一匹の猛禽類の様な生き物が居た。

「う、うむ、サバネ君にスート君。これからよろしく。」

するとみんなの視線が残りの一人に自然と集まる。
そこには壁に背を預けているサラより少し黒みがかった白い髪をした男子だった。

「…はぁ。僕はルーク。“使い”はまだハザマで寝てるよ」と答えた。

「ベルゼバブかい?」椿姫は唐突に質問した。

ルークは目を見開いた。
「…っ、何故それを」

「マモノ使いの目を見りゃどんな子が“使い”かはわかる。因みにその子の名前は?」
「…ベルガだ」
「ベルガ君ね、りょーかい」
椿姫は納得した様に頷いた。

しかし周りはそれどころではない雰囲気だった。
「椿姫先生、ベルゼバブって“あの”ベルゼバブですか!?」
ミラルバは焦った様に問いただした。
他のみんなも動揺していた。

「ん?“あの”ってそれ以外にベルゼバブって居るのか?」
「いえ、そう言うわけではなく…、しかしベルゼバブと言ったら世界を混沌へとーー」
「別にベルガ君がそいつじゃない」
椿姫はミラルバの話を遮って言った。

「ルーク君の“使い”であるベルガ君は神話に出てきたベルゼバブじゃない。種族としては同じベルゼバブだが、個体としては別に神話に登場したやつとは別物さ」

そう言うと一同は静まった。
そして「…ありがとう」とルークが口にした。
「ベルガを悪く言わない人に初めて会ったよ」
「別にベルガ君が何かしたわけじゃない、なら別に悪く言う理由なんてないだろ」
「そう言ってくれてありがとう」

そう言うとルークは壁から離れ
「出てきて、ベルガ」と言った。

すると先程マグナが出てきたときの様に空間にひびが入り、砕けた。
そして中からベルガが出てきた。
「ん?出てきてよかったん?」
ベルガは首を傾げてルークに質問した。
「僕の先生は君がベルゼバブだとわかっても君を悪く言わなかったから」
「ん?珍しいな、初めてじゃないか?」
そう言うとベルガは部屋を見渡し、椿姫の方へと向いた。

「あんたが先生かい?」
「そうだよ、君がベルガだね。ベルゼバブとは驚いたが、まぁこれからよろしく」
「なんであんたは俺を悪く言わないんだ?」
問われた椿姫は不思議な顔をしながら
「君は何か悪い事をした事があるのかい?」と質問を返した。

「そう言うことか。これからルークの事をよろしく頼む」
「言われなくとも」
ベルガは見た目はルークと同じくらいの歳の男だった。

「ベルゼバブって言う割には見た目は普通の人間っぽいな」とサバネは口にした。

「いつもは体中に蟲を付けてる。今は印象を悪くさせないために外してるんだ」とベルガは答えた。

「さて自己紹介をこれくらいにして、これから君たちが寝泊まりする寮に案内しようと思う、そこで細かい話をしよう。質問はあるかな?」

「…は、はい」とサラが手を挙げた。
「椿姫先生の“使い”って誰なんですか?」
みんなが それは気になっていた と言う顔で椿姫に視線を向ける。
「あー、なんと言うかなぁ、訳あって紹介が出来ないんだよね」
「何故なんですか?」
「俺が惚気るから」と椿姫はキッパリと答えた。

「は?」
ミラルバを除く全員が目を丸くした。
ミラルバもやれやれと言わんばかり困った顔をした。

「いやな?俺の“使い”は可愛いからさ?居るだけで惚気が止まらないってゆーうの?それに俺の独占欲が自分以外の人に見せたくない、って感じで居るからさ」
「…それじゃ先生の“使い”は紹介してもらえないと?」
「いや、後天契約者なら見せれる」

5人は聞きなれない単語に疑問を抱いた。

「後天契約者ってなんですか?」
「んー、詳しくはちゃんと講義でやるから簡単に説明すると、君たちが“使い”と呼んでる子たちは、正確には先天契約者と言って自分が生まれる前に契約されたもので、後天契約者って言うのは生まれた後に契約すると出来るものだ」
「生まれた後でも“使い”…契約者が出来るって事ですか?」
「そうだ、だからその子達なら紹介できる」

その言葉に生徒たちは期待を寄せた。

「まぁ彼女たちは寮で準備をしてるはずだから行った時に紹介するよ」
「彼女たち、と言うことは女性なんですか?」ミズが質問した。
「ああ、そうだよ。後天契約は対象が許可を得れば誰とでも契約できる。だから先天契約と違って自分と同性である必要は無いんだ」
「そうなんですか…」

「ほかに質問は無いかな?」
椿姫は生徒たちを見渡し
「んじゃ移動しますか」と言って席を立った。

「着いてきてくれ。寮に案内するよ」

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